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7 エレオノーラ



ヘンリー王子の婚約者候補になってから年月が過ぎ、私達は14歳になりました。王太子妃教育や、ヘンリー王子とマーガレットとの関係も順調です。後少しで学園に入学です。ヘンリー王子は私達に対しては、相変わらずそっけなかったですが、たまにマーガレットに柔らかい笑顔を見せるのを私は見逃しませんでした。その度にほっとしていました。


そしてとうとうマーガレットが婚約者に決定したと発表されました。


心の底から安心しました。その日は部屋で嬉し泣きしてしまいました。


翌朝、安心した私は、鼻歌なんかを歌いながら、王宮に行く準備をしていました。そこに義弟のラファエルが部屋にやって来て、言いました。


「姉上、何をしているのですか?」


「何って、王宮に行くのよ。婚約者が決まっても入学迄は王太子妃教育があるのよ。そうそうお祝いの言葉も言わないとね」


交流のお茶会はあるのだろうか。本当は入学の時に婚約者が決定すると言われていたのです。ヘンリー王子がマーガレットと早く婚約を結びたかったから、こんなに早くなったのね。


「お祝いの言葉?そんなもの伝えなくてもいいでしょう?優秀な姉上を選ばないなんて、王太子殿下は見る目ないですよ。ていうか目が腐っている?」


「ちょ、ちょっと、不敬になるから!」


「そんなことよりも姉上は大丈夫なのですか?

婚約者がマーガレット・デバル嬢になって、落ち込んでいたのでしょう?昨日は泣いていましたよね。そんなに王太子殿下の婚約者になれなかったことが悲しいんですか」


昨日の嬉し泣きが聞こえてたの?恥ずかしいわ。


「別に悲しくなんかないわよ」


「……その様ですね。今日はとても元気そうですし」


ラファエルが不審そうに言ってくる。


「ええ。とても晴れやかな気分よ」


ラファエルには本音が出てしまいます。


不審な顔をしていたラファエルに笑顔で、行ってきますと言い、馬車に乗り込み王宮に向かいました。




王宮に着いて、すぐマーガレットのそばに寄り、お祝いの言葉を述べました。


「ヘンリー王太子殿下、マーガレット様、ご婚約おめでとうございます」


「ありがとうごさいます。私が選ばれるなんてまだ、信じられない思いですが」


「何を仰られるのですか?マーガレット様は気立てもよく

お優しい性格ですし、それだけでなく努力家でもいらっしゃいますしね。きっとヘンリー王太子殿下を支えて、陰ながら国の発展に貢献されるお方だと思っております」


「ありがとうございます。お褒めのお言葉も嬉しく思いますわ。エレオノーラ様にはいろいろ助けて頂いて、本当に感謝しています…」


マーガレットが涙ぐむ。

うんうん。貴方が婚約者に選ばれて嬉しくて私も泣いちゃったわ。


「祝いの言葉、ありがたくもらっておく。後3ヶ月、入学まで王太子妃教育があるからそれまで頑張ってくれ。君達は何年も王太子妃教育を学んでいたが、それはこれからも君達の糧になると信じている。私も君達とはお互い有意義な時間を持てたと思っている」


ヘンリー王子が皆に言いました。これには礼をしながら応えました。


「勿体ないお言葉、ありがとうございます。

本当は家で家庭教師を雇って勉強すべきところを、代わりに王宮で立派な専門の講師の方による教育を受けさせて頂いて感謝の気持ちでいっぱいです」


「わたくしもですわ。それにヘンリー王太子殿下の婚約者候補にご指名頂いて、家に箔が付きましたし、今の国王様の時の婚約者候補だった方々にとても条件のいい婚約が整い、素敵な婚姻をされた方ばかりなので、それも秘かに期待しておりますの」


コゼットもそれに続き、ナンシーとレジーナも恭しく礼をしている。ヘンリー王子は満足気に頷いて、


「交流のお茶会は参加自由だ。王宮図書室は学園に入学するまでは自由に出入り可能だ。入学してからも申請したら使用しても構わない」


それは嬉しい。学園に入るまで入り浸ろう。王宮図書室は

外国の本が多く置いてあって、外国に興味があった私はここで良く勉強をしていたのです。


この世界ってどうなっているの?

いずれ、違う国に留学して確かめてみたいわ。

でも、女の身でそう易々と留学なんてできないわ。それこそ行き遅れになり、結婚ができなくなってしまう。それでも目指してもいいのではないかしら。前世の事を思い出してから、そういう思いが芽生えてきました。


そんな事を考えていると、ヘンリー王子が唐突に


「今日は私の友人達を紹介しよう」


と令息達を連れてきました。


トーマス・ペレス、辺境伯の嫡男。

アール・ルイス、騎士団長の長男。

イーサン・ペリー、宰相の息子。


3人とも側近候補で、ゲームの攻略対象者です。


「突然、参加して申し訳ありません。我々も来年から学園に入学するので、貴方達と顔合わせした方がいいと殿下がおっしゃるものですから」


イーサンが代表して挨拶をしました。


何故彼らが交流のお茶会に参加するのかしら。

またゲームの強制力が働くのかと警戒していたら、彼らはコゼット達、婚約者候補の3人と仲良く会話をしています。そうか、マーガレットが婚約者に決定したので、彼らは私達、婚約者候補の婚約者候補ですね。


今日からは側近候補と候補者の交流のお茶会です。彼らは他の3人の候補者達と仲良くなっていきました。

私は攻略対象者と関わるのもごめんだわ。だって、彼らはヤンデレなんですもの。このゲームはヒロインにも怖いゲームなのです。


私は彼らとの交流のお茶会はパスして、早速図書室で本を読んでいました。

が、ここで大変な事を思い出しました。

ゲームが終わった気になっていましたが、これから始まるのだということを。


そこで、ノートにゲームに関することを書き出していきました。読んでもすぐにばれないように、馴染みのないヤウタ語で。勉強にもなりますし。


まず、ゲームの登場人物やイベント、悪役令嬢への婚約破棄に断罪などを書き出し、ここに来て、もしかしたら、マーガレットを巻き込んでしまったのかと考えます。


ヘンリー王子の婚約者がマーガレット。

悪役令嬢の私ではなく。

乙女ゲームの悪役令嬢は身分が高く、それをかさにヒロインを苛める。悪役令嬢は派手な見た目が特徴。


そんな事をノートに書き出しました。


優しいマーガレットがヒロインを苛めるなんてあり得ないわ。それに何度も言うようだけど、ヘンリー王子はマーガレットを好きなわけだし、きっと、ヒロインには惹かれない。


<スクールライフで捕まえて> にはエレオノーラが悪役令嬢ってなっていたし、ビジョンも一緒です。

やっぱり、現実はゲームと違い、私は悪役令嬢ではなくなった、そう、悪役令嬢というものはいなくなったと言っていいのではないかしら。

だから、悪役令嬢の名前は書かないでおこう。書いてしまったら、そうなりそうだから。


次の日も図書館で椅子に座り、例のノートを拡げます。


「ローレライ嬢、今いいだろうか」


「は、はいっ」


急にヘンリー王子に話しかけられて、慌ててノートを閉じ立ち上がります。


「すまない、急に話しかけて。座ってくれ。君にはお礼を言いたくて、来たんだ」


「お礼ですか?」


私は首を傾げました。


「君がマーガレットの勉強の助けとなってくれた事だ。それでマーガレットも、王子妃教育で成果が出せるようになり、婚約に結び付いた」


「そうなんですの?」


マーガレットの事を手助けしていて良かった。


「そうだ。周りの者は優秀な君の方を婚約者に押していたんだが、私はマーガレットの事を……」


ここでヘンリー王子は咳払いをした。


ハイハイ。マーガレットの事が好きだったんでしょう?それにしても、まだ、私が有力候補だったなんて。そのままいけばゲーム通りに悪役令嬢になるかもしれなかったのね。危なかったわ。


「改めて礼を言う。ありがとう。ローレライ嬢。これからも宜しく頼む。その代わりと言っては何だが、君の願いを叶えよう。その、縁談には興味はないのかい?」


縁談?それが私の願い?……今は違うわ。だって、まだ14歳。やりたいことが、いっぱいあるお年頃。伸び盛りよ。


「殿下。お心遣い、ありがたく思います。でも、今、私は縁談など望んでいないのです」


「ほう、縁談を望んでいない。やっぱり君は普通の令嬢とは違うな。では何が望みか?」


「そうですね。外国に行ってみたいです。例えば留学とか」


「留学とは……そう来たか。そういえば、君は外国に興味があったようだし……そうだな、学園に交換留学制度があるので、それに推薦してやろう」


「まあ、本当ですの?感謝致します」


「ああ。でも、推薦されるからには、実力も伴わないと駄目だからな」


「わかっております。これからも勉強に励み、精進致します」


「そうか。君は本当に勉強が好きだな。今は何の勉強をしているのだ」


ヘンリー王子が黒いノートを手に取ろうとしました。それは<スクールライフで捕まえて> の事をまとめていたノートです。優秀なヘンリー王子にはヤウタ語がわかるかもしれないわ。慌ててノートを引っ付かみます。


「きょ、今日はたいした勉強はしておりません。ああ、もう帰らないと。ラファエルとの約束がありますの」


「ラファエルとの約束か?それなら、早く帰った方がいい」


「はい。それでは失礼致します」


と言って礼をして、荷物をさっと抱え込み、そのまま出てきました。そして慌てたまま、近道の花壇の道を行き、馬車で家まで帰りました。


家に帰り、部屋に戻りましだが、ノートがなくなっていることに気がつきました。


落としたんだわ!どこに?


私は慌ててノートを探し始めました。


その頃、その黒いノートはマーガレットが拾い上げ、王宮図書館に居座り、辞書を片手に訳しています。

私は、家からとんぼ返りしてきて、それを見つけ、パニックになりました。


「やばい、やばい!」


余りの慌てぶりに前世の言葉が出てしまいそうです。

隠れてみていると、マーガレットは辞書を片手にどんどん訳しているようです。

そして、一段落終えたのかノートを鞄にしまい帰る準備をしています。


あー!持って帰る気ですね。それ、私のですって名乗る?えー、でも、手遅れだわ。中身を見られています。

ここは知らんぷりして、通すしかありません。

あんな突拍子もない話、作り話だと信じないと思うけど、不敬に当たるかもしれないし、私が残念な妄想女だと思われるのも嫌ですわ。

そう、あんな話、誰も信じる訳がありません。


マーガレットは、お花摘みにでも行くのか、席を外しました。その隙に本を鞄から引き抜きます。

王宮図書室の受付は本を読んでいて、隠れて出入りした私には気が付きません。本のことしか興味がなく、警備は王宮の近衛兵がしているので、大丈夫だと思っているのを私は知っていたのです。


そして、一目散に逃げ帰りました。

これで証拠隠滅だわ。


マーガレットがこのノートの事をこのまま忘れてくれることを祈るばかりでした。



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