4 ヒロイン ケイティ
ヒロイン ケイティの話です。
あたしはヒロインことケイティ。
平民なのでただのケイティ。下町のパン屋の娘よ。
下町の平民は貧しい?うちはそうでもないと思うな。
確かに、前世に比べたら豊かじゃないけど
パン屋だから食べる物に困った事はないし、衣食住は、まあ足りてるし、近所の子もみんなこんな感じだし。
働かなくちゃ食べていけないのは同じだよ。
ただ、こっちの子はみんな働いている。学校とか行ってない。貴族のお坊ちゃん、お嬢様は家庭教師なんかを雇ってお勉強しているみたい。
だったんだけど、あたしと同い年の代から、貧しきものにも教育をということで、平民の子供達が学べる施設が教会の隣にでき、そこで学んで、試験を受けて、王都の学園に通える特待生をひとり選ぶという施策ができたの。
あたしは前世で高校生だったのが関係していたのか、計算とか暗記とか割と得意で、試験に山張ったら、ばっちり暗記したところが出て特待生に選ばれた。その時は、あたしってスゴーいとかいい気になっていたんだけど、後から凄く後悔することになるなんて……。
それは、学園の入学前に届いた制服を試着した時のことよ。ワクワクしながら鏡を見た途端、あたしは前世の記憶を突然取り戻して、パニックになったちゃった。
「あれ?鏡に写っているこの制服を着た女の子って…… <スクールライフで捕まえて> のヒロインにそっくり……え?あたしがヒロイン?」
前世では通学中のバスの中で乙女ゲーム <スクールライフで捕まえて> なんてやっていた。
それが今の現実の世界で、あたしが主人公のヒロインだなんて。
どうせ転生するなら、もっと幸せな乙女ゲームに転生させて欲しかった。はっきり言って最悪だ!
実はこの乙女ゲーム、攻略対象者全員がヤンデレなのだ!
攻略すると、監視、監禁、拘束、枷のヤンデレエンド。
そして複数の攻略対象者の好感度の上げ方を間違ったら、
< 君は誰にも渡さない >
って言われて、攻略対象者から殺されちゃう怖いゲームだ。
そんなの絶対にごめんだ。
でも今さら入学できません。と言える状態じゃない。特待生は王立学園の鳴り物入りの施策で、これから増えていく計画らしく、あたしはその期待の第1号。その第1号から失敗はできないので学園に通っている間は、不自由しないように男爵家で面倒を見てもらう。入学前から屋敷に住まわせてもらい、男爵様や男爵夫人にはそれはそれは親切にしてもらった。入学の手続きや学校用品、生活用品を全て用意して貰って、学校でのマナーや貴族の常識を教えて貰って、散々お世話になったのだ。
無理ですね。はい。
それで仕方がなく、覚悟を決めて王立学園の入学式に挑んだ。
絶対に関わりたくないわ。特にヘンリー王子。
優秀な頭と権力でヒロインを追い詰める、と敢えて言おう、厄介な攻略対象者よ。
そのヘンリー王子が壇上で挨拶するのを講堂の席から見ていた。
さすがメインヒーロー、かっこよくて半端ないです。
でも、その見た目には騙されません。
そしてあたしのクラスは、ぽっと出の平民にも関わらず優秀なAクラス、席はヘンリー王子の隣の席。
そうよねー。だってゲームがそういう始まりだもの。
それでもめげずに、あたしは自己紹介で
特待生ですけど世話役はいりません。貴族の方にお手間を取らせるわけにはいかないので、お断りします。
と言ったけど、即却下されたわ。平民の特待生をお世話するのは貴族の生徒の務めですって。がっかり。
でも、女の子がいいですーとか言ってみたら、こっちはヘンリー王子から即オッケーが出た。やった。助かった。
と、思っていたら、あたしのお世話役はエレオノーラ・ローレライになった。
ええ?エレオノーラが?どういう事?何で彼女が?
そんな風に混乱していると、ゲームキャラにはいなかった隣国の留学生カイルとあたしとを一緒くたにして、そのお世話役に攻略対象者の3人が加わってしまったの。あーそこは、ゲームの設定通りなんだ。最大の地雷ヘンリー王子と離れたけど、他の攻略対象者も危険なヤンデレよ。
「よろしく、名はトーマス・ペレスと言う。自分は田舎育ちなので野暮で申し訳ないが、誠意を持ってお世話役をするつもりだ」
彼は辺境伯爵領という遠い領地の、砦みたいな城の塔にヒロインを閉じ込めて暮らす。
「俺はアール・ルイス。君を守る様に仰せつかっている」
騎士団に入る予定の彼は、騎士団長の父親のコネで街の衛兵を使ってヒロインを監視する。
「イーサン・ペリーだ。君に不足が無いように充分留意するので、何でも申し出てくれ」
イーサンは宰相の父親と同じ、王宮の中央の文官になる。仕事などでいない時は屋敷にヒロインを軟禁して、側にいる時はヒロインと自分を鎖で繋げる。庭の散歩もちょっとした外出も鎖で繋がったままだ。
皆、紳士でかっこ良く見えるが、無理無理!その裏のヤンデレ設定がチラチラ見える!
「わたくしはエレオノーラ・ローレライですわ。同じ女性なので困った事があれば言って下さいね」
エレオノーラが、何故だか困惑気味に言ってきた。こっちも困惑している。
そんなこんなであたしの困惑のスクールライフが始まった!