13 3人寄れば
空き教室に3人で入ると、エレオノーラとケイティは、しばし顔見つめ合っていた。お互い何を考えているのか探っているようだ。
「あ、あの」
マーガレットがたまらず声をもらした。
するとエレオノーラがおもむろに言い出した。
「ヤンデレの乙女ゲーム」
「スクールライフで捕まえて」
それにケイティが答える。
「ヤンデレエンド」
「束縛、監視、監禁、拘束エンド」
「バットエンド」
「攻略対象者に殺される」
ここで、
「きゃあ!」
とマーガレットが叫んだ。ぶるぶる震えている。
エレオノーラが慌てて言った。
「マーガレット様、怖がらせてごめんなさい。あの勿論殺される事なんてありませんわ」
「そ、そうなんですか?その、お二人はどうして、預言書の事をご存知なの?とてもお詳しそうですし」
「預言書?」
もしかして、あのノートの事か。
「ええと。そう、夢を見たのです。ヤウタ国の人が出てきて、詳細を語ってくれたのです。映像付きで」
「映像?」
「あ、いえ、実物が出てきた預言の様な夢です。ね、ケイティ?」
「はい?夢?何だかわからないけど、そうですね。翻訳機能付きでした」
ケイティが言った。そして、
「エレオノーラ様が転生者だったのですね。驚きました。日本のどこに住んでいましたか?あっと、夢の中での話ですよね」
「私が夢で住んでいた所は、埼玉県って名前の所よ。ケイティには何故か親近感があったのは同じ日本人だったからなのね。夢の中だけど」
「あたしは、千葉県……夢の国の近くです」
「西暦、いえ、夢の歴では何年生まれですか?」
あたしは○○年。じゃあ、一緒くらいですね!
高校生?私は大学生。とか、
その内ゲームとかしなくなって、スマホで動画サイトを見ていたとか、
夢の国、東京のどこそこによく遊びに行ったとか、二人で話が盛り上がって、中々、終わらない。
マーガレットは全然わからない話に一人できょとんとしていた。
「あ、あの」
マーガレットが、再び、声を掛けると。
「あっ、ごめんなさい。マーガレット様。えーと、そう、夢ね。夢の中でゲームをしていたの。あ、ゲームっていうのは、実物が出てくる預言の事ね」
「でも、マーガレット様ってゲームのキャラではいなかったですよね。あたしがヒロインで、エレオノーラ様が悪役令嬢。でも、このゲーム、ヒロインも安心できないです。閉じ込めるか、最悪、殺されちゃう。悪役令嬢の国外追放が一番ましという酷いゲームでしたよね」
「ええ?エレオノーラ様が悪役令嬢なのですか?」
ケイティの話を聞いていたマーガレットの驚愕の声をあげた。
「そ、そうみたいなの。でも、私が婚約者に選ばれなかったから、悪役令嬢はいなくなったんじゃないかしら」
エレオノーラがしどろもどろ答えた。
「わたくしが悪役令嬢だと思っておりました。あの預言書にはヘンリー王子の婚約者が悪役令嬢で断罪されると書いてあったので」
「それでマーガレット様は王太子殿下にあたしの世話をさせようとしたり、避けたりしていたのですか」
ケイティは納得した様に言った。そして、意味ありげにエレオノーラの方を見た。
「はい。裏切られて婚約破棄に断罪なんて絶対に嫌だったものですから……。
ごめんなさい。ケイティ様にはご迷惑を掛けたと思っております。それにまさかヒロインも殺されるなんて、知らなかったとはいえケイティ様の命を危険に晒す様なことをしていたのですね。本当に申し訳なく思いますわ」
「あ、いえ、それは大げさに言っただけで、命までは取られないです。ほら、現にあたしはピンピンしてますし、全然大丈夫ですよ」
「そうですか、それならいいのですけど。……そして、エレオノーラ様にお聞きしたいのですが、本来はあなた様が婚約者になるはずだったのではないですか?わたくしが婚約者に選ばれたのはおかしいと思っていたのです」
今度はエレオノーラに向かって問いただす。
「エレオノーラ様がわたくしに対して優しかったのは、ご自分の代わりにわたくしをヘンリー様の婚約者にさせる為だったのですね。お茶会でわたくしに気を配ってくれたり、勉強を教えて頂いたのも全部、ご自分が婚約者にならずにわたくしにその役目を押し付ける為だったのですね」
ぎくり。
「そ、そんなことはございませんことよ」
「言い訳をしないで下さい!わたくしは大切なお友達が出来たと嬉しく思っておりました。それが、断罪から逃れる為にヘンリー様の婚約者をわたくしに押し付けて、悪役令嬢に代わらせる為だったなんて、酷いですわ……!」
マーガレットは目から涙が溢れてきた。友達だと思っていたのに、信頼を裏切られて、傷ついていた。泣いて赤くなった目でエレオノーラを責め立てる。
「あ、あの、言い訳になりますが、これだけは言わせて下さい。えー、そもそもの初めから、マーガレット様はヘンリー王太子殿下の初恋の相手だったのです」
「え?」
「あ、もしかして、ゲームで、ヘンリー王子のトラウマの原因になった、子供の時の初恋の相手の女の子って、マーガレット様のことなのですか?」
ケイティが合点がいったように言った。
「そう!そうなのよ!そもそも、私が何もしなくても、ヘンリー王太子殿下の方からマーガレット様に近付いて来たのよ。そして、マーガレットの様のお人柄に惹かれていったのです!それが自然の流れだったのよ。それに逆らって、私が婚約者になってしまったら、私に心が向いていないヘンリー王太子殿下はヒロインに惹かれてしまい、断罪されてしまう。私だから悪役令嬢になってしまうの!」
エレオノーラは勢い付いて一気に反論した。息が上がり、はあはあ言っている。
「わたくしがヘンリー様の初恋の相手?トラウマって?」
「マーガレット様が隣国に行ってしまい、戻らなくなってしまうことです。ヘンリー王太子殿下はそれで初恋を失ってしまい、その原因となった私、婚約者のエレオノーラを断罪してしまう程憎む要因にもなるのです」
エレオノーラは少し落ち着いて説明した。
「隣国に行ってしまう?確かにわたくしは隣国に行きました。その時の記憶は曖昧なのですが、それはエレオノーラ様が原因ではないことは確かですわ。ただ、お手紙を頂いたことは覚えていますわ。とても嬉しかったから。でも、それもわたくしを呼び戻して、ヘンリー様の婚約者にする為だったのですね」
あの時は祖母に、あなたの体調も良くなったし、こんな手紙を送ってくれて、あなたのことを思っているいいお友達の令嬢がいるし、ヘンリー王太子殿下もあなたの事を心配しているので、自国へ帰りなさいと言われたのである。
「そ、それもありますけど、あの時はヘンリー王太子殿下の落ち込み様は尋常ではなかったのです。それで、お茶会も暗くなってしまい、コゼット様達とマーガレット様がいた頃は良かった、あなた様がいたから、お茶会が楽しく明るいものになっていましたわ、あなた様を呼び戻せないかしらと、相談して私が代表してお手紙をお送りしたのです」
「本当に?コゼット様達もそう思われていたのですか?
ヘンリー様も落ち込んでいたのですね」
「本当ですわ。コゼット様達にも確認して貰っても構わないです」
「いいえ。疑って申し訳ありませでした。それに一方的に責め立てしまいました。それも重ねてお詫び致しますわ」
そういえば、マーガレットもエレオノーラに婚約者を代わってもらおうとしていたではないか。
それを思い出して、自分はエレオノーラを責める権利がないと思い、涙も引っ込んだ。
「……ヘンリー様の初恋がわたくしだったなんて……
それでは、わたくしが悪役令嬢ではないのですか?断罪はされないのでしょうか?」
マーガレットが心配そうに聞いてくる。それにはケイティが答える。
「王太子殿下の様子を見ると、ヒロイン枠?みたいなものなのかしら。攻略対象者の側近候補達の婚約者の方達もヒロイン枠かしら」
「ヒロイン枠?それなら、殺される方なの?!」
マーガレットがまた、叫んだ。
しまった。ヒロインにも酷いのがこのゲーム。
「あ、ま、間違いました。えーとヒロイン枠ではなく、特別枠、そう、マーガレット様は初恋の相手なのでヒロインなんて関係ない、本当は結ばれる相手だったが本当に結ばれた、というルートです!殺されるルートではありません、安心して下さい!」
慌ててケイティが言い繕った。
「何だかよくわかりませんが、身の危険はないのですね?それなら安心しましたわ。わたくしは断罪されてしまうのではないかと不安に思っておりました」
ほっとした様子のマーガレット。
ヘンリー様はヒロインに惹かれないどころか、全く接点を持とうともしない。それはヘンリー様の初恋がわたくしだから……
そう考えたら急に恥ずかしくなってマーガレットは顔を赤くした。
その一方エレオノーラとケイティの話にはついていけない所もあった。だってノートは訳している途中でなくなったから。
「ケイティとは、また存分に話しましょうね。そうだわ!私の家に泊まりに来ない?」
エレオノーラはケイティといろいろ話し合いたいからと、提案してみた。
「ええ?いいんですか?あたし、平民ですよ」
「いいのよ。だって、前は、友達の家に泊まったりしていたでしょ?」
「エレオノーラ様がいいって言うんなら、泊まりたいです。楽しみだな」
「いいですわね。羨ましい……」
二人共、はっとして、マーガレットを見る。
今度はエレオノーラが話を続けた。
「マーガレット様が悪役令嬢でもなく、ヒロインでもないというお話でしたわね。えーと、マーガレット様は殺されたりしませんけど、ヘンリー王太子殿下はヤンデレを起こしていますね」
「ヤンデレ?その意味を教えて下さい」
その言葉の意味が今までわからなかった。ヘンリー王子がヤンデレって何?とても気になる。
「ヤンデレって好きすぎてその人の事を束縛したり、監視したり、閉じ込めちゃったりする人のことです」
ケイティが分かりやすく説明した。
「なるほどですわ……」
マーガレットはヘンリーの言動に思い当たるところしかないようだ。
そのままエレオノーラが続けた。
「マーガレット様は婚約前はヘンリー王太子殿下が大好きという態度でしたが、それが学園に入学した辺りから殿下を避けるようになりましたね。攻略対象者の攻略は、追いかけて、次は、逃げる、の繰り返しで、最後、攻略対象者が逃げるヒロインを捕まえるんですよ。なので、ヘンリー王太子殿下を避けたのが、ヤンデレを発祥した原因かと」
だって、それが、<スクールライフで捕まえて> の名前の
由来ですからね。言わないけど、逃げてばっかりだと最後はバットエンドで殺されちゃったりします。
「え?それなら、ずっと逃げようとしているから、束縛がひどくなっているのですか?」
「そういうことですわ。だから、これからは前みたいに
ヘンリー王太子殿下、大好きという態度を示したらいいと思いますわ。マーガレット様はご自分が悪役令嬢だと思って、ヘンリー王太子殿下を避けようとしていたのでしょう?もう、断罪や殺される、心配はないのですから」
「ヘンリー様、大好きですか?今さら、そんな恥ずかしいことできるかしら」
「うふふ。まず、そうやって殿下の不安を取り除いて上げて下さい」
「不安を取り除く……。ヘンリー様は不安だったのでしょうか。だから、束縛してしまう」
婚約者の義務ではなかったのね。わたくしに気持ちがあるから、束縛する。そう思うと、束縛も悪くないと思ってしまう。
「それと我慢せずに、したいことを頼んでみてはいかがです?ご姉弟とお出掛けしたいとか」
「すぐに却下されてしまいますわ」
「そうだわ。いいことを教えますわ。王太子殿下にお願いする時の秘訣などを教えます。マーガレット様は可愛い方ですから、女の子の秘伝、斜め45度に首を傾けるとか、上目遣いをマスターして、挑んでください」
ケイティが手で胸にどんと叩いて張り切った。
「何ですの?それらは……」
マーガレットが不審そうに聞いてくる。
それは、ゲームでも、ヒロインがお願いする時にやっていて、ヘンリー王子にも有効だった。
「では、見本を見せます。それからお二人共、特訓ですね」
前世であざといポーズをふざけて友達とスマホに撮りあっていたあたしは張り切って言った。
「私もですか?」
エレオノーラがたじろいた。
「ええ、勿論です」
しばらく、ケイティの指導のもと女3人で特訓した。
「まあ、マーガレット様、お願いポーズをマスターされたんですね。お上手ですわ!これで、ヘンリー王太子殿下もイチコロですわ」
「そ、そうかしら、エレオノーラ様も可愛いかったです
わ。これが、ケイティ様から教えて頂いたギャップ萌えっていうのですか?」
「でも、一番可愛いかったのはケイティね。さすがヒロイン。何でもしてあげたくなっちゃう」
「えへへ、ありがとうございます。これで少しはヤンデレも治まると思いますよ」




