10 エレオノーラ マーガレット
ある日のお昼休み。マーガレットが、忘れたグラタンを
個室に届けるエレオノーラ。
気が進まなかったが、ドアの前に立つ。二人の会話が聞こえて来た。
「お昼休み位しか、ゆっくり過ごせる時間がないのだから俺と過ごして欲しいな」
「ええ?……お昼休みしかって、入学式の次の日からずっと席も隣ですし、送り迎えの馬車もご一緒ですし、この前の学園がお休みの時は一緒にいましたし、その前の王妃教育がお休みの時も、その前の時も。だから、今日は、エレオノーラ様達と……」
「駄目だ。食堂には、男性もいっぱいいる。それにマギーと過ごす時間はいくらあっても足りない」
「ヘンリー様は、いずれヒロインと結ばれる運命なんです!だから私はのことは構わないでください。私は悪役令嬢になりたくないの。自由になりたいんです」
「本当に怒るぞ、マーガレット。私はヒロインとやらと結ばれる事はない。悪役令嬢って何だ?私から逃れる為の作り話か。マギー、そんなことばかり言うと王宮の私の部屋に閉じ込めてしまうぞ」
「!!」
マーガレット様、ヘンリー王子にそこまで話をしているの。
エレオノーラは意を決してノックをした。
「何だ?」
「失礼いたします。マーガレット様のグラタンをお持ちしました」
ヘンリー王子から睨まれた。部屋の温度が下がっている気がする。
二人のお邪魔をしてすいません!すぐ出ていきます。
「ああ、いつも迷惑をかけてすまない」
「とんでもございません。それでは失礼いたします」
そう言ってエレオノーラは個室を出て、ケイティの隣に戻って来た。
マーガレットはエレオノーラが落としたあのノートの事を信じてしまっていた。しかも自分が悪役令嬢だと思い込んでいる。早く誤解を解かなくては、ヘンリー王子がヤンデレを発祥しているのは、マーガレットが逃げるからだ。
その事を言うべきか、黙っておくべきか。
でも、ヘンリー王子はマーガレットに関することには容赦がない。まだ入学して間もない頃、マーガレットといつも仲良さげに話していた男子学生がいつの間にかいなくなったとかならないとか。噂では、マーガレットと話をした男子学生は、学園にある王室専用の執務室には呼びだしされて、それからどうなるかは誰も知らない。だから、男子学生はマーガレットとの接触を命懸けで避けている。女の子は、逃げているマーガレットの手助けをしたり、居場所を隠したりすると、やはり例の呼び出しがかかり、次の日から何故だかマーガレットとは関わらないようになる。
マーガレットがヘンリー王子を避けているのが、エレオノーラが書いたノートが理由だと知ったら、どうなるのか。
せっかく悪役令嬢から逃れられたのに、また、断罪かも。
ごめんなさい。マーガレット。私には無理だわ。
マーガレットも考えていた。
ヘンリー様に怒られてしまいたした。
全然ヘンリー様は、ヒロインとくっついてくれませんわ。
マーガレットはヘンリー王子から避けるどころか、逃げることにシフトチェンジしていた。
でも、逃げても逃げても追いかけて来ますわ。
婚約者に逃げられるのは、プライドの高い王子にとってはとても耐え難いことなのね。王家の威厳にも関わりますし。婚約者の義務って相当厳しいのだわ。
最近は、行動にも制限をかけてきますわ。
「街に行くのは止めてもらいたい」
婚約者が危険な目に合うのを防ぐためっていうけど、大げさですわ。もしかして、わたくしが街で、婚約者らしからぬ行動をとって、ヘンリー様の評判を下がるのを気にしているのかしら。それで、ずっと、監視しているのですね。なるほど、それで合点がいきましたわ。
だから、他の人との会話も制限してくるのですね。
でも、これではわたくしの息が詰まりますわ。
こんな事なら、早く婚約破棄をしてほしいと思ってしまいます。ヘンリー様の事は好きですけど、ヘンリー様は、そうではないのだから。ただ、王家の威厳の為にわたくしと一緒にいるのですね。
婚約者の義務を遂行しているに過ぎないのはわかっております。
婚約破棄されても、大丈夫。
隣国の祖母の所に行きますから。
祖母の所には子供の時にいって以来ですね。あの時は何故隣国にいったのかしら。体調が悪くなったからと思っていましたけど、何だか今と似たような理由の様な気がします。
それぞれの思惑が渦巻くなか月日はどんどん流れて、入学式からもう一年。今日は1学年下の入学式だ。
終わったらしく、ぞろぞろ講堂から新入生が出てくる。
「姉上!」
エレオノーラはいつものメンバーで教室移動の為に歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえたので振り向いた。
「ラファエル!入学式終わったの?」
「はい!姉上、今日はもう帰れるのですか?」
「今日はまだ授業があるのよ」
「そうなんですか」
そう言いながら、ラファエルは一緒にいるメンバーを不審そうに眺めた。
「この新入生はどなたですか?」
ケイティがエレオノーラに聞いた。
「あら、ごめんなさい。この子は義弟のラファエル。
ひとつ年下なの。ほら、ラファエル、ご挨拶なさい」
「ラファエル・ローレライです。いつも義姉がお世話になってます」
それから攻略対象者とその、婚約者の6人の長い紹介が終わった。
「ケイティよ。特待生なの。エレオノーラ様にはいつもお世話になってるわ。あなたがラファエル君?……とっても可愛いのね。やっぱりエレオノーラ様に懐いているんだ」
「カインだ。よろしく。こら、ケイティ、エレオノーラの弟ぎみだからって、友達感覚ではいけないぞ。彼は公爵家の令息なんだから」
「はい。ごめんなさいっ」
「じゃあ、行くわね」
エレオノーラが行こうとすると、
「待って、姉上」
手を取ってラファエルが引き留める。
「なあに?」
エレオノーラはラファエルを見た。
この子また、背が伸びているわ。昔は私より小さかったのに、もう、目線は上だわ。
「この、カインって奴、姉上の名前を呼び捨てにしています。それこそ、礼儀に反するんじゃないですか」
「ああ。そう言えば、ずっと名前呼びね」
前世では名前呼びやニックネームなど、好き勝手に呼び合っていたので、気にならなかった。
「名前呼びって、そんな事許していいんですか?」
「今さらいいわよ。カインとはもう周知の仲なんだから」
「周知の仲?それはどんな仲なんですか。姉上、僕に黙ってその男と……姉上が許しても、僕は許さない」
エレオノーラはラファエルの勘違いに顔を真っ赤にして
手を振り、説明した。
「な、何を言っているの。友達って意味よ!カインは隣国からの留学生で、私もいずれ隣国に留学したいから、いろいろ、隣国の事を教えてくれるているのよ」
「え?隣国?姉上、留学するのですか?」
「ええ。まだ決まった訳ではないけど、希望は出しているわ」
「そんな、父上や母上から許しは得ているのですか?」
「ええ。一応話しているわ。まだ留学できると決まってないけどね。ああ、もう時間がないから行くわね」
エレオノーラ達は去っていったが、ラファエルはそれをじっと見つめていた。
「なあ、弟ぎみっていつもあんな感じなの?」
カインが、エレオノーラに聞いた。
「ごめんなさい。ふてぶてしい態度で」
「いや、いいんだが、仲がずいぶんいいんだなって思って」
「そうですね。家族みんな仲がいいですが、実は義弟とは血が繋がっていません。でも、幼い頃から一緒にいるので本当の姉弟みたいですわ」
「そうなのか?それは、失礼した。でも、なるほど、わかったぞ。だから、俺に対してあんな態度なのか」
カインがぶつぶつ言っていたが何を言っているのかわからなかった。




