第5話 闇の中でこんにちは 五
コボルトといったらクリーチャー感がある。ゲームではどちらかというと雑魚モンスター。すぐに経験値の足しにもならなくなって、なんなら倒さずにスルーしちゃうような扱い。でも、そんなこと言えない……。
可愛らしいとまでは言わないけれど忌避感があるほどでもない。そんなコボルトたちとの会話が楽しくなりつつあった。
「ヒトはどういう生活をしているの?」
「おとぎ話に残っているくらいだから、少し前の生活の様子は知っているのよね?その頃からと大きく変わっては……変わっているね。まったく違うかも」
コボルトの伝承が文献に出てくるのは13世紀から16世紀あたりだったかな?日本の室町時代あたりのころとして、あの頃と変わったもの——ありとあらゆるものが変わってしまった。
不可思議なものを探求する手段として科学が発達した。そういえば金属元素のコバルトはコボルトが由来だったはず。よく判らないものは精霊のせいって時代の名残みないなものだろう。ルネサンスや産業革命を経て人の暮らしぶりは変化した。電気の普及や半導体の登場も大きいと思う。
日本を基準に考えてみる。白黒テレビや冷蔵庫、電気洗濯機が「三種の神器」と呼ばれて普及したのは1950年代後半。カラーテレビやクーラー、自動車の普及はそのあとの高度成長期で1960年代。ざっと50年前。コンピュータやスマートフォンが当たり前になった世代には信じられないかもしれないが親やその親の世代は劇的な生活スタイルの変化を経験してきている。法律や政治経済、スポーツや文化、衣服や住環境だって変わっている。
500年の変化を簡単にまとめるなんて無理すぎる。
「んー、あまりに変わりすぎて説明ができないかも。実際に見て知ってもらった方がいいかな。人間は服を着て、共同して生活しているってところは変わらないけど生活する様子はまるで違うかもしれない。さっき言ったみたいにコボルトと聞けばモンスターと思い浮かべる人が多いので精霊らしさを強調した身なりを整えれば受け入れて貰いやすいと思うよ?たぶん」
「服を着ていいんだってさ」
後ろの方のコボルトが落胆を隠さずに口にしていた。
「ヒトと会うのに裸になれっていったの誰だよ」
「あの方が召喚の条件に裸って言ったんだから仕方ないだろ」
「ヒトのこと知りたいのに隠し事なく裸のおつきあいでしょ!って言うんだもの」
「完全に揶揄われたな」
ちょっと騒がしくなってきたところで、わたしを迎えにきてくれた彼女がひとこと。
「ひょっとして裸じゃないと召喚に応じないと条件に出されたとか?」
「断じて違います!」
わたしは強く否定すると、コボルトたちの人間世界への訪問計画について、召喚時間いっぱいまで相談に乗っていた。