第3話 闇の中でこんにちは 三
どうやらわたし宛のメッセージが用意されていたようだ。やっとこの状況を詳しく説明してもらえるようだ。
ようこそ、コボルトの世界へ
あなたはコボルトの求めに応じて召喚されました!(拍手)
ここにいるコボルトたちはヒトに興味をもったそうです。もっとヒトのことが知りたい。話したい。だから、ヒトを召喚してほしいとわたしに依頼してきました。彼らに頼まれたところで知らんぷりしていても良かったのだけれど、面白そうだったのでお願いを聞いてあげることにしました。
あなたが選ばれた理由は「たまたま」です(笑)。人が良さそうというより、ちゃんとコボルトたちと向き合って相手をしてもらえそうなヒトとして選びました。
このコボルトたちとヒトとのはじめての交流です。ヒトという種族らしさを強調したかったので身ひとつで召喚としました。手ぶらで荷物なしです。せっかくヒトを知ってもらおうというのにスマホのゲームを見せて交流なんておかしいでしょう?
それと、召喚は期限付きです。たった3時間です。時間がきたら元の世界に戻りますので心配は無用です。むしろ短い時間だから有効に使ってください。あなたにとっても素晴らしい時間になることを心より願っています。
最後にこの手紙の下にある紋章に右手の親指をあててください。召喚の間、コボルトの言葉が話せるように呪いをかけます。言葉は喋れても語彙や言い回しはいくらか異なります。こういうところも学んでみてください。きっとあなたにとっても素敵な経験となることでしょう。
親愛なるQより
この紋章に触れれば言葉がわかるのか……。
スマートフォンのロックを解除するように紋章に指をあてると、羊皮紙が次第に暖かくなっていく。と思った刹那、ポンと煙をあげて羊皮紙が消え去った。
「びっくりしたぁ!」
すでに煙は消えているというのに慌てて羊皮紙から手を離す仕草をしてしまうわたし。まわりのコボルトも目を見開いてびっくりしているようだ。
「しゃべった!」
今のはわたしじゃない。まわりにいたコボルトの言葉だった。コボルトたちの聞き取ったヒトの言葉はわたしの驚きの言葉だったようだ……。
「はじめまして……」
大雑把すぎるものの状況は理解した。たぶん目の前のコボルトたちに敵意はない。ならばやることはひとつ。挨拶からはじめるのが基本というものだろう。
「みなさんに召喚いただきましたヒトです。わたしは特別ではなくてヒトの中でも平均的な個体だと思います。短い時間のようですがよろしくお願いいたします。それと成人の女性です」
ざわざわとすることもなく、ひとことも聞き逃すまいという感じで話を聞いてくれているコボルトさんたち。このまま制限時間まで私が話し続けるのは勘弁なのではあるが反応を待つよりほかもない。
「はじめましてヒト。わたしたちはコボルトです。」
うん、中学校の図書館で指輪物語を手にとってからファンタジー小説をたくさん読んでたからなんとなくわかる。コボルトって言っても妖精寄りのコボルトだよね。ドイツ語圏で伝承があったんじゃなかったかな。身長は小柄で60cmほどで緑や灰色の肌だったり、体毛に覆われていたりって感じだったかな。
たしかに目の前にいるのは小柄な生き物。小学生や幼稚園児の大きさじゃなくて乳児くらいの大きさ。つかまり立ちした赤ちゃんくらい?それでいて細い身体だから人間の基準とは違うんだなとよくわかる。なんか不思議。そしてこころなしかモジモジと恥ずかしそうな仕草を感じとれなくもない。はじめてのヒトに緊張しちゃうのかな?
「それで……、どういった御用向きで召喚いただいたんでしょうか?」
全くもってとんでもない状況だけど危害を加えられる状況にはないみたいだし疑っていたらキリがない。どうにもならないし。開き直りが大事でしょう。
「はい、ヒトには教えていただきたいことがあります。」