同級生達はフィユモルトと女生徒の距離に憤慨する
学術院の昼休みの食堂。そこで私は仲の良い同級生達と食事を終えて、のんびりと話している中で、その話題が出た。
「クラルテ様、コーズ様はクラルテ様の婚約者なのですよね?」
「そうですけれど、何かございましたか?」
「商業科の新入生のランコントレ嬢を紹介されました?」
「どなたでしょう?」
学術院ですれ違った時などにご挨拶方々、ご一緒におられる方のお名前をお聞きした事はありましたが、ランコントレ嬢のお名前は聞いた事がございません。
私が首を傾げていると、皆さん顔を見合わせて気まずそうにされている。
「私達、お話しするかどうか悩んだのですが、淑女科の仲間としてこのままにして置く訳にはいかないと思いましたの。落ち着いて聞いて下さいます?ねえ、一番詳しいエルリーカ様からお話しして下さいな」
「わたくしですか?あの、でも、わたくし、弟から聞いた話ですし、あの、弟の勘違いかも」
「聞かせて下さいませ。正しいかどうかは自分で確認致しますし、皆様から聞いたとは言いませんわ」
「そう、ですか?」
エルーリカ様には商業科と同じ食堂を使っている機械生活工具科に通われるお兄様がいらっしゃって、商業科の新入生のヴェルミオン・ランコントレ男爵令嬢が学年も関係無く多くの男子生徒の方々と仲良くされているのを食堂を使う方々には周知の事実で、特にフィユモルト様と仲が良く、プレゼントのやりとりをしている所も見かけているのだそう。
お兄様から何の気無しに「こんな事があって、俺も可愛い後輩と仲良くしたいな」と聞かされたエルーリカ様は、聞き覚えがあるフィユモルト様の家名であるコーズ伯爵家の事が気になってお兄様に詳しくお話しを聞いて下さり、私の婚約者のフィユモルト様だと分かったので、騒ぎにならない様、淑女科で仲良くしている同級生の皆さんでこっそり情報を集めて下さっていたとの事。
「皆様にはご心配お手数お掛けして申し訳ありませんというお詫びと、私の為にお心遣いいただき心より感謝を申し上げます」
「ううん、それは良いの。私達、クラルテ様が大好きなのだから」
「そうよ、刺繍の授業では講師の先生より上手で、課題も助けて貰っているもの」
「それに、婚約者の為に淑女科で頑張っている私達みんなを馬鹿にする行動よ、許せないわ」
「あら、シャニー様はまだ婚約者が決まっていないじゃない」
「ええそうね、そうだけれど、コーズ様がルール違反をしていて、私達の大切なお友達のクラルテ様に失礼なのは変わらないわ」
「これは淑女科への挑戦では無いかしら?」
「商業科全部が悪いとは言わないけれど、見て見ぬふりは許せませんわ」
私を置いて盛り上がっていく皆様。これはいけませんわ。私の為に騒ぎがあっては、皆様の立場が悪くなってしまいます。
「あの、皆様、私の為にお心を痛めていただきありがとうございます。ですが、ここで騒ぎになっては、淑女科を悪く言われてしまう可能性もございます。はっきりした事も分からず、フィユモルト様から直接事情を聞いていない状況で声高で話しては、宜しくないかと思います。私の方できちんと確認致します」
「それはそうだけれど、クラルテ様は優しいからあちらの方にごまかされてしまうのではないかしら」
「婚約者のいる男性に堂々と近寄れる相手だもの。控え目なクラルテ様に対してひどい事を言ってくるかも知れないわ」
「ありがとうございます。私を思って下さるのは本当に嬉しいのですが、はっきりした理由も分からない状況ですので、先ずは筋を通して確認しましたら、皆様にお話しします。その時はどうぞ聞いて下さいませ」
皆様、心配そうな顔をなさっているものの、納得して頷いてくれた。
「その通りですよ、エタンセル嬢」
後ろから押さえてはいるものの聞き取りやすい声がして、振り向くと五年生のプルミエール・モンラシエ様が見惚れてしまう様な美しい微笑みを浮かべて私を見ている。
慌てて立ち上がり、視線を下げて腰を落とすと「わたくしからお声を掛けさせていただいたのですから、どうぞ顔を上げて下さいませね」と涼やかな声と共に、両腕にそっと手を添えられた。




