クラルテはエルテニア王国学術院淑女科に入学する
エルテニア王国首都エーロールにある学術院、14歳から19歳の試験に合格した者が通う学校。地位は関係無く、普通学習以外に騎士総合科、騎士幹部候補科、騎士後方支援科、魔術実践科、魔術研究科、機械兵器科、機械生活工具科、魔術兵器科、魔術生活工具科、領主科、淑女科、商業科と言った専科を一つ選び、その成績のみで価値判断をされる。
14歳になった私は学術院の学生寮へ、フィユモルト様は商会の店舗に居住区を併設したコーズ家の首都の居宅へ引っ越した。エタンセル家は田舎の子爵家でエーロールに滞在する事は滅多に無いので、集合住宅の部屋も持っておらず、当然使用人も居ない。エーロールに一人で滞在する私としては、生活の面倒をみてもらえる学生寮は誰に気兼ねも要らず、ゆったりと過ごす事が出来る。
フィユモルト様は商業科、私は淑女科に入学し、卒業後にコーズ領で結婚式を挙げるという事になり、各々の学科に励むと共に適度な交流をするという生活に変わった。
元々学生寮の部屋は大して広く無かったのだけれど、機械生活工具科の先生に子爵の注文以外で作った余りの材料を使った織物を見せて、織り機を手に入れられないかと交渉した結果、使用料を月々払う約束をして借り受けられた。
更に、先生から材料持ち込みの注文を受けられる様になり、食事にも事欠く程の生活費しか送られて来なかった最低限以下の生活が、向上して自分のお金を持つ事も、学術院の休日に自分で店を覗いて材料を買って織物を作る事も出来た。
「エタンセル子爵ももう少しルティの事を考えてくれたら良いのにね」
「子爵家はそんなに豊かではありませんもの。二年後には弟も学術院に入学するし、後継だからお付き合いにもお金が掛かると聞いております。ですから今の内に締められる所はしっかり抑えているのでは無いかと思いますわ」
「そうかなあ。僕は可愛いルティがもっと素敵になる様に、綺麗に着飾れる様になって欲しいけれどな」
フィユモルト様はいつも私を可愛いと褒めてくれる。自然に仰るその言葉は、母の『可愛いクラルテ』『大好きなクラルテ』という言葉を思い出して胸がふわふわとなって、恥ずかしいけれどとても嬉しい。
休日の買い物に付き合ってくれたり、カフェでお茶を飲んだり、偶に寮では絶対出ない贅沢なメニューを揃えたレストランに行ったり、フィユモルト様はコーズ家の仕事柄エーロールに詳しくて、色々なお店を案内してくれて楽しい時間を過ごしていたのだけれど、入学から三年目、その生活は変わってしまった。
後から思い出してみれば、その前兆ははっきりしていた。
「商業科の課題が増えて、休日も授業の資料を揃えたり、もっと詳しい市場調査が必要になって来たんだ。ルティと会える時間が減るけれど、何かあったら直ぐに私に教えてくれ」
「わかりました。お手伝い出来る事があったら仰って下さいね」
「ああ、ルティは私の大切なお姫様だからね」
「ハンカチに刺繍をした物を沢山作りましたの。宜しければお持ちになって下さい」
「ありがとう。やっぱりルティは凄いね。商業科の先生もルティの技術を誉めていたよ。淑女科に在籍しているのが残念だって。確かにそうなんだけれど、ルティは私の婚約者だからね。将来、店と家を切り回してもらう事になるし、勿論織り手としても活躍して貰いたいけれど、御婦人の顧客を相手にして貰うのには淑女科を卒業して貰うと助かるんだ」
「フィユモルト様のお気持ちは良くわかっております。愛しておりますわ、フィユモルト様」
「私もルティを愛しているよ」
一緒にいられる時間が減った。学科が違うとは言え、領主科に入学して来た異母弟のフィタンを見かける程度、商業科のフィユモルト様も見かける事がある。見かける回数自体が少ないものの、毎回フィユモルト様の隣にはキラキラと光を纏うハニーブロンドの少女がいて、笑顔を振りまいていた。
昼食で三つある学食が大混在しない様、学科毎の昼休みの時間をずらしているせいもあって、殆どの生徒が同じ学科の同級生と食事を取り、ごく自然に使う食堂とテーブルの位置も決まっている。商業科と淑女科はメインで使っている食堂も違う。だから、私は同級生に言われるまで、商業科は学年に関わらずグループを作っているのだと思っていた。
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