プルミエールは淑女科の後輩に助力する
「慌てなくても大丈夫ですよ。わたくしがついておりますわ。サヴィーニ様は名馬の産地を治める伯爵家の御令嬢で、三年生の中では代表とも言える立場でいらっしゃいますから、商業科から持ち込まれた話についてどう思われたかブリュット様にきちんとお伝えなさいまし」
「わ、わたくしは、いえ、淑女科は」
「お待ち下さい、シャロンは私の婚約者です。私の頼みは聞いてくれるよね?」
「貴方はどちらの方かしら?お名前をお伺いしても宜しゅうございます?」
「し、失礼致しました。私はクラレンド・アンバーと申します」
「大穀倉地帯の一つを治めるアンバー伯爵家のご令息でいらっしゃいますよね。存じ上げておりますわ。特に大麦とその加工品が有名ですわね」
「ご存知でしたか……。モンラシエ公爵令嬢にお見知りおきいただき光栄です」
アンバー様の言葉にハンカチで口元を押さえ小さく首を横に振り、私達に意味深な流し目を送りつつ極小さく肩を竦めるモンラシエ様。学術院最高位の令嬢であるモンラシエ様は、完璧令嬢として多くの事を暗記していらっしゃいます。
態々知っているアンバー様の名前をお聞きになったのは、モンラシエ様がサヴィーニ様に話し掛けているのに、名前も名乗らず割り込んで来たという無礼を間接的に咎める為なのに、謝罪をなさらないアンバー様に対して呆れておられます。
「モンラシエ様、わたくしからご無礼をお詫び致します」
「あらあら、サヴィーニ様はわたくしの大切な後輩であり学友ですわ。謝罪はそれが必要な本人から受けるもので、今の貴女の立場でなさる事ではありませんわね」
「そうですね、我が商業科が持ち込んだ問題ですので、私からお詫び致しましょう」
新しく入って来られた方は、六年生のカラーである青いラインの入った商業科を示すブローチをなさっておられます。
「淑女科三年生の方々に、商業科監督生であるティエール・コント・ラフォンよりお詫び申し上げる。急に無理なお願いをしてしまい、大変失礼且つ驚かせてしまった事について、令嬢方にお許し頂けますようお願い致します」
「まあ、ラフォン卿がその様に頭を下げてしまっては、三年生同士でのやり取りが出来ませんわ」
「先にモンラシエ嬢が間に入られようとされたのでは?」
「いえいえ、わたくしは三年生の代表となるべきサヴィーニ様に淑女科三年生の総意をお話しくださる様にと促しただけです」
「それでも我が科の三年生は萎縮してしまうでしょうね」
「学術院では正当な事であれば、爵位や立場は関係無く発言する事が出来ますのよ。それに、そちらの三年生方が淑女科が従って当然という様な事をおっしゃった為に、萎縮してしまった後輩にわたくしが助力しても構いませんわね。その事実を認めたからこそ、ラフォン様から謝罪があった訳ですし」
微笑み合うラフォン様とモンラシエ様ですが、物凄い迫力があります。
「シャロン、商業科からのお願いに調整が必要の様だけれど、君は僕の為に時間を割いてくれるよね?」
「ルティ、君の作品は既に商品として高い評価を得ている。商業科を全力で応援してくれるね?」
「クラレンド様、あの」
「フィユモルト様のお願いであれば」
いきなりフィユモルト様に優しい笑みを向けられ、胸がギュッと締め付けられます。この笑顔を見るのは久しぶりで、エタンセル家で辛い思いをしていた時に、この笑顔に何度も救われました。
パンッパンッ!!!
大きな音に体が震え、音の方を向くと笑顔のモンラシエ様が胸の前で手を合わせておられます。
「アンバー卿、コーズ卿、御二方はラフォン卿とわたくしの話をきちんとお聞きになっていたのかしら?ラフォン卿、お任せしても宜しいでしょうか?」
「勿論ですよ、モンラシエ嬢。ブリット卿、アンバー卿、コーズ卿、先生から得た許可は、淑女科に協力を要請する事だと聞いているけれど、間違いは無いよね」
「はい。ですから授業で作成する作品の寄付と、余暇時間を慈善の奉仕活動にあてていただきたいという協力を求めました」
「三年生は色々誤解をしているみたいだね。作品で使用する材料だけれど、基本的な物は淑女科で用意し、高価な物を使いたい場合は各自購入して持ち込みとなっている。淑女科の経費は生徒の学費から出ているから、元を正せば材料費は全て淑女科の生徒持ちとなる。慈善奉仕活動というのは、自己解決出来ない問題を抱えている方に対して、自分が出来る事を出来る範囲に対して自主的に行う事だけれど、三年生は購買会の為に淑女科三年生全員のお金と空き時間全部奪わないといけない程、困窮しているのかな?」
「サヴィーニ様、貴女の立場はよく分かります。家同士のお付き合いもあるでしょう。けれど、今回の問題にそれを持ち込んで考えてはいけません。ブリュット様は侯爵家令息ですから気後れされる所もありましょうが、三年生の中で一番家格が高いサヴィーニ様が言い負かされてしまえば、皆様全員がそれに従わねばなりません。また、幾ら許嫁といえど、公私混同をなさってはいけません。エタンセル様も同様ですわよ」




