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状況を鑑みて助けを求めるのは正しい事です

「クラルテのフィユモルト様もいらしているけれど、こんな話するって仰ってた?」

「いいえ、私も初めて聞きましたし、こんなに近くにいらしたのは久しぶりですわ」

「いらしたって言っても、私的じゃ無いけれどね。ねえ、ブリュット様の言っている事っておかしいよね?」

「恐らくそうだと思うのですが、自信満々におっしゃっておられますし、商業科では普通の事なのでしょうか?」

「うーん、ちょっとモンラシエ様に相談して来るから様子を見てて」

「分かりました」


 少し大きめの声で「軽い眩暈がするので、医務室に行って参ります」とシャニーが言えば、私の左側に座っていたエルーリカが「お一人では危ないわ。付き添います」と立ち上がって支えた。

 周囲に軽く頭を下げて出ていく二人に、事情が分からず心配そうな目を向けるクラスメイト達に、声に出さずに小さな手振りと頷きで『心配しないで』と伝える方もいて、皆、クローネ様に注意を戻した。


「労働対価を求めているのではありません。私達の時間を奪うのであれば、それに見合った対応をしていただきたいと申し上げているのです」

「ですから、商業科を代表して私達がお願いしに参りました」

「意味が分からないのですが、作りたくも無い物を作らされる事と、それに取られる私達の手間と時間についてどうお考えかお聞きしたいと申し上げております」


 クローネ様の言葉に、ブリュット様達は目を瞬いた。とても驚いていらっしゃる様だけれど、私も話が分からなくて同じ様な顔をしているかも知れません。


「どうやら話をきちんと理解してくれていないみたいですね。奉仕を旨とする淑女科の皆様にとって、他の学科の手伝いを無償でする事は当然でしょう?それに対して我々商業科は、皆様に敬意を持ってお願いし、聞き入れて貰える事に対して心よりの賛辞を捧げます。皆様の奉仕精神は淑女の鑑として、購買会を通して学術院内だけでなく外部にも広まる事でしょう」


 自信満々に話すブリュット様の後で悠然とした笑顔を浮かべて私を見るフィユモルト様。確かに私も我が家とコーズ家からの依頼は無償で受けていました。でもそれは家族の為だから。学術院に入学して足りない実費については、機械生活工具科の先生に事情を話して仕事を受け、その利益で工面して来たのです。

 フィユモルト様が個人的にお願いしてくださったのなら、私は幾らでも作業致しますが、今回の事は違うと思います。


 我儘な子供に言い聞かせるように、優しげで柔らかい言動を崩さないブリュット様に対して、クローネ様が幾つかの質問を続けても、話は全く進みません。

 それどころか、わざわざ淑女科のイメージアップの為に、良い話を持って来たのに何故話をすり替えるのかと言われてしまっています。


「あらあら、商業科は無茶を言っても許されると勘違いなさっているのかしら?」


 よく通る声に振り向けば、教室の後方の扉からモンラシエ様が入っていらっしゃいました。お二人の五年生と、呼びに行ったエルーリカろシャニーも一緒です。


「これはこれは、モンラシエ令嬢、私は商業科三年のロデール・デテュ・ブリュットと申します。どうぞお見知り置きを」

「存じ上げておりますわ。先日、卿の御母堂様より茶会にご招待いただき、大変有意義なお話を聞かせて頂きました。宜しくお伝え下さいませ」


 モンラシエ様の優雅なカーテシーから口角をかすかに上げるだけの控えめな微笑みに、周囲から小さく感嘆の息が漏れる音が聞こえます。私もほぅっと息をついてしまいました。


「教室に入る前に少しお話を聞かせていただいたのですけれど、未だ三年生がうまく話を纏められない様なので、少しお手伝いさせていただきたいのだけれど、宜しいかしら?」

「モンラシエ様、これは三年生同士の話ですし、纏まりかけておりますからお手を煩わせる事はございません」

「そうなのですか?そちらの方、フォルネリ様の訴えにきちんとした回答をされていない様でしたけれど、態とお話をすり替えられるのは感心出来ませんわ。それに、わたくしは淑女科の監督生ですので代理として話す権利はありますのよ。ですが、やはりここは筋を通さないといけませんわね。サヴィーニ様は如何お考えかしら?」


 名指しされたシャロン・サヴィーニ様が、椅子を鳴らし飛び上がるように立ち上がって、慌てて頭を下げられた。

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