三日目 日記
三日目
──今日私は真実を知る。
朝──朝日が閉じた瞼を透かし、瞼を開く数秒前。
まず感じたのは、やけに暖かいなと言う違和感だった。
(あれ……? 暖かい?)
昨日、何とか日雇いの仕事を探し当て、くたくたになって安い宿屋に止まった私。
馬小屋よりかは少しだけ上等かなと思える部屋。
藁を固めた安いベット、薄手の毛布、隙間風が吹き込む薄い壁。
「最高の一日だったわ!」
薄手の毛布に包まりながら私は、差し込む月明りを頼りに日記を書いた。
書くのは初めて経験した仕事の事。痩せすぎだからいっぱい食べなさいと、宿屋の女将さんがサービスしてくれた食事の事。そして、初めて見た街の景色と人との触れあい。
初めて自由を知ったその日の事を日記に書き記し、少しだけ丈が足りない毛布でも暖かく寝れるように丸まって寝た。
──筈だった。
目を覚まして、私は違和感の正体を知る。
「え!? え!? なんで!? なんで私こんな所で寝てるの!?」
そこは昨日私が寝た安い宿屋とは似ても似つかない、一泊金貨数枚は必要なんじゃないかと思えるくらいの部屋。
ふわふわのベットに厚手の毛布。壁には品の良い装飾品まで飾られている。
混乱している私の元に一人の女性が扉を開けて入ってきた。
「ご朝食の準備が出来ました……って……ええ!?」
ベットから身体半分を上げた状態の私を見て動揺するこの宿屋の女将さんらしき人。
あらあら! まあまあ! と何か勝手に解釈をし、「お楽しみのところ失礼しました」とそそくさと部屋から出て行った。
再び一人になった私はゆっくりとベットから立ち上がり、状況を整理してみることにした。
(身体は……無事……)
とりあえず、自分の身体を確認してみて、何もされていないことを確認。
まあ、そんな事をしなくても、初めては凄く痛いと聞くから何かされていたらすぐに気づくと思うけど、一応ね。
そして私は周りを見渡して、気が付いた。
「誰もいない……いや、誰かがいたのね。男?」
よく見れば、テーブルの上には不用心に置かれた金貨の入った袋。
それ以上に、この宿屋の女将さんらしき人が言っていた「お楽しみのところ失礼しました」と言う言葉は、私をその誰かの彼女だと思ったからこそ言った事だろう。
「う~ん……分かんない!」
10分程どういうことかを考えて、私はそれ以上考えるのをやめた。
情報が少なすぎて、全く分からないのだ。
(とりあえず無事だし、逆にこんな豪華な部屋に泊まれていい日記のネタが出来たわ)
王宮を追放されてから、なんだか私の考え方が変わったなと自分でも思う。
凄くポジティブな考え方になって生きるのが凄く楽しい!
私はそう言えば日記はあるのかしらと、部屋中を探し回り、ベットの下に落ちていたのを見つけて、安堵しながら新しいページを開いた。
昨日の日記の次のページ。
忘れない内にこの不思議な体験を書いておこうと、開いたそのページには……。
「……え?」
角ばった男の人の文字で、つらつらと日記が書かれていあった。
自分は異世界に召喚されてしまった事。
ボロイ宿屋の様なところで目覚めた事。
手元に日記があったので付けてみようと思った事。
とりあえず、女神に貰ったスキルで魔物を倒し、金を稼いでいい宿に泊まった事。
「あっ……あっ……あああ……」
読んでいくうちに私は、体温がどんどん下がっていくのを感じた。
やっとだったんだ。長い間耐えて耐えて、ようやく奇跡的に手に入れられた自由。
やりたいことだって沢山あった。
もっとお金を貯めて、この街の外に出てみたいと思ったし、国を出て旅をしてみたいと思った。
海を……小説の中でしか見たことの無かった『海』と言う巨大な塩水の湖をいつかみて見たかった。
恋をしてみたかった。結婚をしてみたかった。幸せに……暮らしたかった。
「なんで……なんで……今更……」
ボロボロと涙が出てきて、日記に落ちる。
涙が日記帳に染み込んで、インクが少し滲んだ。
──私は転生に半分だけ、成功した。
まだ、結論は出せない。
だけど、この日記を見て感覚的に理解してしまったのは、私の身体は、一日おきに勇者様の身体と入れ替わる事。
昨日は勇者様、今日は私、そして……きっと明日は勇者様だろう。
知ってしまった。知ってしまったから、私は行動しなくてはいけない。
既に追放されたとは言え、私は聖女。
国民の為にこの身を捧げるのが宿命であるし、それが出来るならそうしなければいけないと思っている。
つまり、私は再び王宮に行かなければならない。
勇者様の英知と力は王の元で使われるのが最も国の為になる。
私一人が再び幽閉される事で、何人の……いや、何万人の国民が救われるのだろう。
再び私が王宮に行き、この状況を説明すれば確実に私の自由は無くなるのは分かる。
だって私自身は無価値なのだから。
私はただ、昔と同じように幽閉されて、二日に一回勇者様になる道具として扱われ続けるだろう。
それは凄く嫌だ……でも……。
「私は聖女……勇者様に私の身体を……すべてはこの国の発展の為に……」
私一人の我が儘は絶対に許されない。
私はちょっとだけ、ベットに寝ころんで目を閉じた。
瞼の裏に浮かんでくるのは私にとって昨日の記憶。
初めての自由を謳歌した最高の一日の記憶。
目を開けて、私は日記帳に書き込んだ。
【あなたは勇者様です。王宮に行って王の指示を受けて下さい】
最後に【少しだけお金をお借り済ます】と、書き込んで、勇者様が置いて行った金貨の入った袋の中から、昨日私が稼いだ分だけを抜き取った。
「今日だけ……今日だけ自由にしてもいいよね」
多分この程度のお金じゃ一食安い食事を食べれるだけ。
でも、私はそれでいい。
今日だけ、自由に何を食べるかを決めて、自由に街を歩くんだ。
「明日は……どんな日記を書いているんだろう」
きっと今日寝て、目を覚ましたら私は王宮にいるだろう。
そこで見る景色は……何度も見た狭い部屋の景色。
聖女の間の景色。
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