1話
「カグヤちゃん~! 降りておいで~~~!」
家の開け放った窓を通して姉のヒザシが声を張り上げる。
近所迷惑だし恥ずかしいから止めろと何度言っても分かってくれないヒザシに軽く呆れながら窓に足をかけて一息に飛び降りる。
着地と同時に地面から伝わる震動はすべて空気中に逃がし手に持っていたスマホをポケットに突っ込んだ。
「カグヤちゃんは止めろって何度も言ってるだろヒザシ姉?」
「あ、そういえば言ってたね~ ごめん忘れてた~」
「ったく、それで? どうしたの?」
「ああ、そうそう! 月影のシノミヤさんがカグヤちゃんと会いたいって!」
「はぁ? 月影って言えば魔神討伐数9位の大手ギルドだろ? そんな所がなんで内みたいな弱小ギルドの人間と会うんだよ?」
「しらないよ~ けど勧誘か何かじゃないのかな~? ほら、カグヤちゃん全面的に優秀だし~」
「だとしてもでしょ、俺くらいの才能なんて大陸見回せば腐るほど居るだろう?」
「そんなの私に言われても分かんないよ~」
ヒザシが困ったように頬を指でかきながら答えてる。
まあ確かにヒザシは聞いて報告しただけなんだから分からないよな。
「まあ良いや、それで? シノミヤさんは何処の部屋で待たせてんの?」
「第三応接室だったと思うよ~?」
「そんな適当に、まあ良いか。 分かった、行ってくるよ」
俺は言うと飛び降りたばかりの家へ扉を開けて入った。
第三応接室は三階建ての三階、最上階のギルド長室隣に有る。
階段を登り最上階の部屋前に到着した俺はコンコンコンコンッと4度ノックした。
「カグヤくんだね? 入りたまえ」
「失礼します」
中からの返事を聞くとドアを開け入室する。
待っていたのはドアに背を向け座る金髪で長身の男だ。
俺は対面の椅子に座ると、その整った顔と希薄な感情を感じさせる青い目を真っ正面から見据え口を開く。
「なんのご用でしょうか?」
「なに、そう固まるでない。 私は君をスカウトに来ただけだからね」
「スカウトに、ですか? なんで俺を誘うんです?」
「惚けても無駄だよ、君の才能は弱小ギルドで費やすには甚だ大きすぎる。 その才能は月影のような大手ギルドでこそ活用されるべきとは思わないかね?」
「冗談でしょう? そうゆう理由なら俺の前にヒザシ姉を誘わなければ筋が通らない」
「もちろん誘ったさ。 まあ断られてしまったがね」
ヒザシは俺なんかより数十倍も才能に溢れている。
俺なんか人一倍努力して強大な力を持ったけどヒザシは無意識の魔力循環だけで易々と俺を遥かに上回ってしまってる。
まあヒザシに関してはギルドマスターとしての責任でギルドを捨てるなんて事は無いだろうがな。
「では俺の答えも変わりませんね、お断りします」
「そう言わないでくれよ? 私としてもどちらかに来てもらわなければ面目が保てないんだ」
「知らないな、家はギルドメンバー全員が家族なんだよ。 家族を裏切る気は、俺もヒザシ姉にも無いってことさ」
「その家族を助けたかったら来てくれよ? 弱小のメンバーはたかだか数十人だ、君達以外のメンバーは私共で回収させてもらってるよ」
「人質とは汚いな? 大手の遣り口は汚水と聞くが本当らしい」
「酷いな~ 私も必死なんだよ、手段を選ぶ余裕なんて今や何処にも無いんだから」
と、唇を噛んで言ったシノミヤの目には明らかな狂気が写っている。
「ああ、確か第三位の魔族を逃がして逃げた奴に一つの町が破壊されたんでしたか? その全軍指揮を取ったのがシノミヤさんって事ですよね?」
「ははは、その通りだが調子に乗っていると不要な命まで落とすぞ?」
「調子には乗ってませんよ、ただ可哀想にと思いましてね?」
俺は目尻を吊り上げ口許を吊り上げて言い『プルルルルルッ』と鳴ったスマホを出して電話に出た。
「ああ、分かった。 それでは失礼します」
「キサマァッ! 奴等がどうなっても良いのか!」
「ええ構いませんよ? まあ出来るならですがね」
言いながら踵を返し部屋を出た。