呼応
「勝者ガンヒルド!!」
ゴードリ先生が結果を叫ぶ
「あぁ!負けた負けた!!」
緊張の糸が途切れたかのようにロレンツォも地面に仰向けで倒れ叫ぶ
悔しがる素振りはなくむしろ清々しい表情になっている
「…強ぇな、アンタ。機会があればまた頼む」
「あぁ」
ガンヒルドはそう言いロレンツォから離れ俺やルミアがいる所へ来る
あの取り押さえ方ホントかっこよかったな
「やぁお疲れさん」
「ナイスファイトだったよ〜」
「ありがとう」
「技能や魔術を殆ど使わずに勝つなんて普通に見られるものじゃないよ」
そんな強者の相手する俺は大丈夫なのか?
「1番と2番で勝ったヤツは出てこい!」
ゴードリ先生こ声が聞こえる
試合が一周してルミアの二試合目が始まるからルミアの番である
「じゃ、私は行くね!」
「頑張って来いよ」
「応援してるぞ」
ルミアと対戦相手がみんなの中心に移動する
対戦相手は横髪を刈り上げさっぱりとした印象の男子、名前はレルクだ
「レルクは能力持ちではないためルミアは技能の使用は反則とする。試合始め!!」
ついに試合が始まる
「相手は能力持ちじゃないしアイツならまぁ大丈夫だろう」
「あぁ、ルミアはそもそも技能に依存しない格闘を主体に置いてるからな。使えなくともマイナスにならないか」
ガンヒルドが話に乗ってくれた感謝をしつつ試合をよく見て観察する
ハルとの試合からか相手はガンヒルドの試合同様にレルクの初手は守りに入っていた
対してルミアは接近し積極的な攻勢で距離を詰めパンチ主体のラッシュを打ち込む
「…しゃあ!!」
レルクは打ち込んできた連撃の描く軌道を見計らっていたように動きルミアの拳に合わせてカウンターをぶちかまし…
「おっと!」
「え?」
片手で放ったカウンターの直撃を上回る反応速度で弾かれる
続けて繰り出すもう一撃すら捌かれてそのまま押し切られた状態でパンチが命中する
「試合終了!勝者ルミア!」
それは開始6秒程のことであった
「…終わった?」
「そのようだ」
ガンヒルドはすごいけどルミアも人間辞めてないか?
明らかにルミアの動きを考えた上での対抗策だったぞ
カウンターの速度だって認識したところで止められるものではなかった
それを真正面から止めるルミアは強すぎだろ
「もう見えるよ。決勝はルミアと君なんだろうな」
止められるメンバーを見てみたいくらいだ
ロレンツォやハルは一回戦落ちだけど彼らも全体の実力から考えると上位に踏み込める実力はあった
俺が十人いたところで勝機のない相手だ
どうしよう本気で辞退しようかな
でもガンヒルドなら負けても悔しくないし相手にできるならとても嬉しい
「…ケンイチは勝つ気はないのか?」
邪な気持ちになっているとまっすぐな言葉が返ってきた
そりゃ負けたくない
だが勝機と勝つ気は違う
勝てる可能性なんて君がどれだけ手を抜くかで変わるもので俺が全力を尽くしても新人冒険者をしていた記憶だ
多少運動神経がいいとか武器が使えるとかそんなもんじゃ通用しないだろう
「ケンイチ?」
「勝てないからな」
その諦めたような答えを聞いたガンヒルドに笑顔は無い
少なくとも不機嫌なことは確かだ
「ちょっと待って!しょ、そんな顔しないでよぉ。自分のことがわからないからだ。ほら、己を知れば何とやらと言うでしょ!あれだよ!」
「…?…そうか。で己を知ればなんと言うんだ?」
そこにツッコミを入れるか
「百戦危うからず。『敵を知り』から始まるんだけど」
「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』か。…なるほど」
突発な言い訳だったがすごく納得してくれた
「その通りだな。…あぁ!別に私は怒ってなどいない、その…なんだ…」
誤魔化そうとしているのか言葉を濁している
「いや、そうだよ。やる気の無い奴と試合してもなぁ」
「そうではなくてだな…」
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「11番とゾーイック!」
ゴードリ先生に呼ばれとうとう俺の番が来てしまった
どう立回ろうか考えたがいい案は出なかった
ガンヒルドにああ言った以上辞退はしないがさっき啖呵を切ったから簡単に負けたくない意地だってある
「私は手を抜いたりしない。ケンイチも本気で来てくれ」
「わ、わかってる」
そうだ、全力でぶつかっても勝てないが全力で挑まないのはかっこ悪い
かっこ悪いやつよりかっこいいやつでありたい
「ゾーイックは能力持ちではないのだったな?」
「ごめんなさい、技能に関してはあるかないなも自分にはわかりません!けど魔力は無いです!」
「…そうか、何かはあったのか。偶発を考えると反則にはし辛い。ガンヒルド、お前はどうする?」
「出現次第私も使用可能、で構いません」
ハンデみたいになってるな
こっちはゾーイックのアニメ中の描写から技能も多分ないと思うけど
「わかった、能力使用無しで試合を始める。では試合開始!」
思い出せ、ロレンツォと戦っていた時の速さを
どうやって避けたり守ったりしていたかを
後、少しはできるやつと思われたい
足が動かせるように意識しろ
重心を低くして隙をなくせ
何より全力を尽くす
俺にできる攻撃は無い
ド素人のパンチやキックが武道家相手に効く訳がないのと同じだ
ただやられるだけ
だからチビチビ動き、最大警戒状態で相手をよく見て何もしない
必然的にガンヒルドは仕掛けないといけなくなる
無言のまま接近し仕掛けて来る
何が来る!?水平の手刀とそれの追撃!なら蹴りは3発目以降か!
俺は逃げる為にどうする!どう避ける!
素人のガードなんてたかが知れている
だから避けるしかない
来た!腕を前に構えんとするや否やガードを崩しに上半身を狙ってきてる!
「うぉぉぉお!!」
君がそうするなら俺は!
滑り込む!!
「む!?」
直撃は無し!!完全に避けた!
あれ!?靴の裏なんか当たった!怖ッ!
でもノーカンだろ
そのままでんぐり返しであの踊るような連撃の餌食にならないよう距離を取り相手を探る
痛い!無茶は筋肉痛に響く…
だけど、まだ負けてない
「はぁ…」
「…」
緊張しているのにため息が出る
ガンヒルドがどんな顔をしているか見たくない
もしかして呆れているだろうかどうだろうか
あんなもんロレンツォが強者だから正面で受けられたんだ
腕を振り抜く速さや隙の無い追撃をあんな近くで劣勢であれ見切れるなんて普通じゃない
そして同じ手は通用しない
また来た!
0.1秒が物を言う卓球の世界の経験からだろうか
体は鈍いが目では動きがなんとか追える
していたのはもう一年以上前だけど
他に避ける術を考えても成功する気がしなく逃げる
パンチだろうとキックが来ようと同じだ
だがわかってる、こんなのは試合じゃない
勝ちに行かないと
だから次は!
「!」
脇腹に当たる蹴りを腕で防御して止める
「…待っていた」
次も避けると思うことを
ガンヒルドが脚を下げるより速く触れている脚を強く押しのけてのけぞらせることができた
付け入る隙が見えた!なんとかなれぇ!
「え!?」
嘘だろ、のけぞった瞬間にした攻撃を片足だけで防ぐか!?
まま躱され最短の反撃が来てしまう
どうすればいい?どうすりゃいいんだ!?
あぁ、来る!!
_まだだ、終わらせるには早すぎる!!
腕にまた重い感触があった
なんだろう…この気持ちは
負け犬がそれでも食らいつくような…でも誇り高い気持ちだ
ごく短い時間に、次の一手にたどり着かない間でゆっくりとそう思えた…
(力の波!ケンイチのか!?)
ガンヒルドは防がれた瞬間に発生したロレンツォの時に似た衝撃波によって次の一手が出せなかった
「来る、かぁ!!」
無意識で叫び健一は反撃する
その拳の一撃は健一には決して出せない強さがある
オーバースペックだ
それは、
それはまさに
「技能だ!技能が出た!」
ゴードリがガンヒルドに伝わるよう言った
返事はしなかったが彼女はわかっている
対応する為にガンヒルドは魔術の展開を始めるが、守りは的確に弾かれ攻撃は阻止され行使するまでの時間を稼げず体制が数手決壊する
「う…」
一転して不利な状態になる中でガンヒルドは模索をする
(拳法ではない、どんな技能?何か発動する条件や状況を満たした?)
回避を封じられたが放たれる強烈なアッパーカットを強引に押し込め止める
「くっ!」
しかし止めることは完璧ではなく腕は頭の所まで弾かれ体はガラ空きに、守りは追撃を防げない時間伸ばしになった
次で本当に沈む
(全て伏せて不意打ち…勝つためになら何でもするか。私は油断したか…)
負けを認めたくはなくとも体が追いつかない
……