運命は許さない
「お、オレは悪くない!!」
男が目の前にいる女に向かって言った
彼はその女に怯えながら言った
「…」
女はただ何も言わず男の言葉を聞いている
「オレはお前が!ガンヒルドが怖いんだ!」
膝を付き涙を流しながら吠える
「だから…もう一緒にはいたくない」
「…そうか」
男はその一言を聞き頭下げると走って去って行く
「うん、クズだ」
テレビを見ながら男がそう言った
彼は中島健一。アニメを見ることと運動部にカウントされない微妙と人々に言われるスポーツをすることが趣味の高校生だ
…俺が撮り溜めしていたファンタジー系で魔術と科学、古代と現代が交差したバトルものアニメ
『アリアントクライシス外伝 ガンヒルド』を視聴した感想が思わず言葉に出てしまった
女はガンヒルド・クルバフ
この外伝では主人公だが本編では悪役で主人公の友やヒロインを殺しまくりファンが選ぶ絶対に許さないヤツの筆頭だ
そしてさっきの男は赤い髪とここではなかったがゲスな行動と表情が特徴的であるゾーイック・フェミニテーションというやつだ
外伝時の恋人だったガンヒルデを一人ぼっちにし絶望させる一端、彼女が堕ちる原初の元凶で他にも原因はあるけれど本編すっ跳ばしてファンが選ぶクズキャラを独走し、ある意味有名になったキャラクターだ
さっきシーンはゾーイックの友達や親に自分がした失態を恋人のせいにしてばれる前に別れるところだ
「はぁ〜こたつで温まりながら見るアニメは最高だ〜。あれは胸糞悪いけど」
俺はちょっと寝転がりまた続きを見ようと考えたがそのまま眠りについてしまった
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「ん…」
俺は寝落ちしたのか…続き見ようと思ったんだけどな…
こたつから抜け出して洗面所へと向かい顔を洗う
「…?揺れてる?」
床が揺れてると思い数秒経つ頃には揺れが激しく立っていられなくなる
「うわぁ!!?」
上につんでいた物や壁に掛けていた家具がすごい勢いで落ちて
「いやぁぁあ!!」
「はっ!?」
ベッドから跳ね起きた
「ゆっ、夢かぁ〜は〜恐ろしや〜」
夢だったと一安心しているとあることに嫌でも気づく
ここは自分の部屋じゃない…
どこだここは?
俺の住んでたアパートの居間より広いぞこの寝室…でも見たことはある…
まさか…ここって…
例のクズキャラの私室じゃないか!!
ならここで寝ている俺は何なのだ?
部屋にある鏡を覗きこむように見る
「何だオレかよ…?」
いや待って!
今なんでそう思った?なんで安心できた?
何度見ても自分が移りこんでいる
…自分とゾーイックの意思が混同しているからだろうか?
想像の世界に別人としてすり替わるような案件は事実ならば現実にはあるだけで世間は大騒ぎ、全国放送ものだろう
神隠しでどこに行っていたかよくわからないと言ってるのはもしかしたら話しても信じられそうにないから
そう考えることもできる
慌てても何も変わらないのでできる行動する
起床してからゾーイックとしてやることは頭の中に入っておりいつものようにと部屋を出て階段を降りると
「おはよう……母さん?」
「あら起きたのねゾー、今日は私も学校に行くのよ。だから急いでいるの」
そういえば今日は学校に親と進路相談をしにいきこれからどうするか決めるんだった
「わかったよ。うん」
朝食をすまし準備ができ母親と共に学校に出発する
登校中は前を見て安全確認して歩く以外することもないのでアニメのことを思い出す
…『アリアントクライシス』の外伝、『ガンヒルデ』は主人公に立ちはだかる非情な敵、ガンヒルドがどうしてそんな道に進んだのかを追憶したアニメだった
ガンヒルデは背が高く眼帯をした美女で描かれていて残酷無慈悲だった本編でついたあだ名は
「銀髪のヤバいヤツ」「全自動皆殺し機」「推し殺し」「まさにガン子」「癌蛭怒」
など錚錚たるものだ
そんなガン子は…ガンヒルデはゾーイックと同じ学校から卒業して本人が持つ素質から軍隊への入隊を選択する
その後に恋人になるゾーイックから一方的に別れを告げられその後不幸や裏切りに遭い人間不信になり絶望したところを国を乗っ取ろうとする集団につけこまれ彼らと行動する
つまるところ元は悪人ではないむしろ善人だ
しかし『今』、ゾーイックとガンヒルドは恋人ではない
なら俺のすることは…
ガンヒルデと完全に関係性を持たない!!
なぜならゾーイックはクズだがガンヒルドと同じく悪ではない。もっとも正義とは皆無だけど…
クズなのだ
トカゲの尻尾切りのように人を見捨てるヤツで他人の心情を知ろうとしないヤツではあるがそれは悪とは違う
自己保身の極みを具現化した人間だ
だから関わらなければ因縁のないガンヒルドは悪の道には走らない
そうとわかれば!
「だからオレ…私は冒険者を目指したいと思います!」
「あっはい」
「え?」
教師と母はすごく驚いた
冒険者は学校でも育成しており体を張る仕事なのになぜか軍隊志望と切り離されていたのだ
なのでガンヒルドと一切関わらない
それに今の俺がやってみたいに仕事だからだ
それからガンヒルドと一切関わらずに卒業し俺は冒険者になった
冒険者とは言うなればすごく稼げる可能性のある自由勤務のアルバイトで親の財産がちゃんと子どもを養えるほどあればまず冒険者になることは選択しない
とにかく冒険者組合にくる依頼を受け生活の糧にする仕事だ
その名の通りな依頼もあるが大半は市民の生活の支えになる依頼みたいだ
しかしここでは一定の依頼数、報酬を年々達成すると年金制度よような保証制度があり老後も努力と力量次第では安定する
さらに実力が高い優秀な人材なら軍人や警護職にもヘッドハンティングされる
そして絶対的な才がないだろう俺は年金制度に手が届くように冒険者業に精を出し勤しむ
独り立ちしてできることは可能なできる限り頑張った
なんかすごい社長をやってるゾーイックの父さんそして母さん…とクズ、本当にごめんなさい
俺は反対されてそれでも吹り切って冒険者になった
でも俺が逃げるだけで救われるだろう人がいるんだ
だから…
あれから冒険者生活はあっという間に過ぎ一ヶ月になる
新人としては実力がある部類に俺は入れた
生活の軌道も安定し節約しながらなら問題なく暮らせている
そして今日も依頼の書かれた紙を取り受付に持っていく
「すみません、これお願いします」
「はい、ラクソンさんの畑の警護ですね」
受付で依頼を確認中に
床が大きく揺れた
「うわぁあ!?」
「どうしたのですか!?」
「床が!地震だ!!」
「何を言ってるんですか?地震なんて起きてませんよ」
受付の人が言ってる意味がわからなかった
まともに立っていられないのに
「えっと大丈夫ですか!?」
「あああぁぁぁぁぁ!!!」
「うわぁ!?」
跳ね起きた
そこはゾーイックの部屋でヘッドの中にいた
何がなんだかわからず階段を降りる
「あら起きたのねゾー。今日は私も学校に行くのよ。だから急いでいるの」
「ええ!?」
このやり取りは記憶にある
進路相談をしたゾーイックとして目覚めたあの日だ
「ええじゃない!ゾーも早く用意しなさい!今日は進路相談の日でしょ!」
「わ、わかったよ…ねぇ僕が学生なの?」
「…頭でも打ったの?」
時間が巻き戻ったことは俺だけが知ってるみたいだ
だけどどうして時間が巻き戻ったのだ?