2話
蓮人が置いてけぼりになってから、かれこれ三時間は経過する。
元々の集合時間が遅かった為に既に日は沈み、周囲の建物は、ぬくもりの感じそうな暖色系の灯を灯し始めていた。
辺りには背の高い建物は無く、真新しい住宅街が立ち並び、帰宅した住民たちが家庭の色を彩り始めている。
キッチンの排気口から漂うカレーの香り。はたまた魚が焼ける香ばしい匂い。かすかに漏れる、家族間の談笑が今の蓮人には堪えた。
ごく一般的な家庭がごく普通の日常を送れているのなら、例の不審物とやらも何ら問題が無かったのだろう。今すぐにでも迎えに来てほしいものだが、蓮人自身から行動できない理由があった。
それは蓮人自身、日谷の連絡先を全く知らないと言う、致命的な理由があるからだ。それだけではない、蓮人はスマホはおろか、連絡機器を持ち合わせてはいないのだ。
プラネットでは、プラネットを施工したネクスト社が管理を行わなければならない。それは通信機器も、例外ではなかった。
蓮人が以前契約していた通信機器メーカーは、日本から離れた東側の国に拠点を持つ、大手メーカーの物だったのだが、ネクスト社は系列的にいえば、西側。つまりはヨーロッパ圏のメーカーの為、プラネットに以前使っていたものを持ってきても使い物にならない。
その為新たなスマホは新居に用意されているのだが、その新居の場所も分からず、連絡も付けられず、まったくのお手上げ状態だ。
最終手段に、近くの民家に事情を説明して、ネクスト社の管理部に連絡を入れる事も出来るには出来るが、そこまでして連絡を入れる程重要な事ではない。何より恥ずかしい。
仕方なく、蓮人は夜の住宅街を一人で徘徊する事しか出来なかった。
真夜中に見知らぬ顔が徘徊しているともなれば、警備員の日谷に連絡も行くはずだ、おとなしく待つ事にする。
唯一、ペットの事が心配になるが、利口で活発的な子だ。主人が帰ってこないとなれば、自分で建物から抜け出して近所の住民に食事をねだりに行くだろう。
ふと、蓮人の頭に嫌な思い出が浮かぶ。自分の帰りが遅くなったため、例のごとくペットが近所の住民に食べ物をねだりに行った事があったのだが、後日自分がペットに餌をあげない虐待主人呼ばわりを受け、近所からの誤解を解くのに苦労した。
ただ帰り路に電車が事故に合い、手痛い通行止めを食らっただけだと言うのに……。
それを思い返すと、かつての近隣住民に腹が立ってくる。噂を広めるだけ広めて、いざ真実を知ったらただの平謝り。噂好きのおばさんは嫌いだ。
そんな思い出に悪態をつきながらも、蓮人が歩いていると、一層灯の強い建物を発見する。
コンビニだった。いくら会社が管理している島とは言え、買い物くらいは個人の自由。東京の一部のように物品支給ではない。
持ってきた財布の中には、軽いながらも一飯くらいの金額は入っている。蓮人はたまらず、「良かった」と、安堵の息を漏らした。
「いらっさいませ」
何処か気の抜けた声。だが東京で聞くよりも、閉まりのある声だと言う違いは分かる。
入店時はプラネット専用の通貨があるのではないかと思い、不安に駆られたが、値札に書かれた〇〇円と言う表示に再び安堵する。
ラインナップは東京のコンビニと変わらないが、一回り種類と品数が少ないようにも感じられる。弁当やおにぎりなどは、ぽつぽつと値札だけの商品棚が見受けられた。
目ぼしい商品を取り、レジへと運ぶ。
「全部で四百二十三円になります、温めますか?」
「いえ、結構」
会計を済ませようと小銭を出す、その時だった。店員はその小銭を取ろうとするそぶりを見せず、何かを間違えた人間を見つめるかのようなまなざしで、蓮人を見つめて来た。
「あのぉ、お客さん。悪戯なら他所でやってくれませんか?」
蓮人には悪戯と言う意味が理解できなかった。立派な日本円ではないか、何が悪いと言うのだ。
突然悪態を取り始める店員に、睨み返す蓮人。しかし、蓮人より一回り歳の離れた店員は、店の外に誰もいない事を確認すると、何かを察したかのように蓮人に告げる。
「お客さん、もしかしてプラネット初めて?」
「え? う、うん。そうです」
図星だったため、素直に聞き入れてしまう。店員は続ける。
「この時期にしては珍しいから、最初は悪戯だと思ったんだけどさ。まあいい、プラネットは電子マネー以外での商売を禁止されているんだよ。正規のレジが無ければ、電子マネーの支払いが出来ないようにね。プラネットのどこかで、危ない物が秘密裏に取引されないように、原則として金銭の持ち込みは禁止なんだ」
「そうなんですか? じゃあこれは……」
「このくらいの金額なら、注意程度で済むだろうけど、早めに警備部に申請した方がいいよ」
「そうですね、早めにします……」
そうもなると困った、電子マネーが無ければ買い物すらできない。クレジットカードすら持ち合わせていない蓮人にとっては、八方塞がりだ。
しぶしぶと商品棚に商品を戻し、コンビニを後にする。
こうなるといよいよ後がない。最終手段のコンビニ店員に管理部と連絡を取ってもらう事も考えたが、ふと蓮人は思い出す。
プラネットには山岳地帯がある。人工島とは言え、自然を取り入れたこの島なら、もしかして。標高二百メートルもない小さな山が二つ程連なっているだけだが、片方には小型のダムも存在したはずだ。
ダムがあると言う事は、当然川もある。幼少期を青空の広がる山々に囲まれた辺境で暮らした蓮人にとっては、この上無い好立地だ。子供の頃、何度も家出した経験が役に立ちそうだ。
建物のベランダの位置。夕方辿った、港からのルートと走行時間から逆算し、現在地を割り出す。
比較的内陸に入っていた為、北側の山岳地帯に辿り着くのは容易だった。
まるで警備員から逃げる不審人物に似た行動ではないかと、自分の発想に鼻を鳴らしながらも、山岳地帯に向かった。
山岳地帯に向かう途中、川を見つけ、上流へと向けて河川を歩き始める事三十分。蓮人は一件の山小屋を発見した。
すでに川幅は狭く、水流が着実に早くなり、岩に打ち付けられた川の雫により、木や土が苔むした地帯。周囲に人工物は小屋以外に見当たらず、申し訳程度に砂利で舗装された道路が、小屋と川の間に広がる、広場のような空間に繋がっていた。
しかし、小屋の奥には木製のロッジらしき建物が建てられており、山間にしては、かなりの広さだったのだと感じさせる。
もとはカフェか何かだったのだろうか、小屋は広場側に連なるように建てられ、木目の残る風情ある扉が、広場と小屋のアクセスを簡略化していた。
灯は付いていない。しかし、長い間放置されているようにも見られない建物に、若干の申し訳なさを感じつつも、広場側の扉のドアノブをひねってみた。
すると、扉は蓮人を拒絶する事も無く、重い木製の扉を開いた。
「開いた? お、おじゃましまーす……」
その瞬間、小型の影が蓮人に襲い掛かる。山に住む獣でも入り込んだのかと疑いつつも、咄嗟に臨戦態勢に入る蓮人。しかし、聞き覚えのある声が蓮人の行動を遮った。
「ケイー、さみしかったよぉー……」
「ビッカ!?」
その姿は、蓮人の飼っているペット、化学合成獣のビッカの姿だった。
「もう! 遅いじゃないか。またボクを飢え死にさせる気?」
「いや飢え死にって…… 寂しさよりも食欲ですか。再開を少しでも長く喜ばないのか、卑しいやつだよほんと」
「さあ、早くボクにご飯を作るんだ!!」
そう言い、ビッカは小屋の電気を付ける。電気の場所を知っていたのなら、初めからつけてくれればいいのにと、蓮人は思っていた。
ようやくビッカが本来の姿を現す。猫に似た輪郭に、大きく膨らんだ耳を顔の側面にたらし、四足歩行の胴体の先には、今か今かと長い毛の生えた尻尾を嬉しそうに振っていた。
ビッカは犬と猫を人工的に合成した、化学合成獣と呼ばれる次世代のペットだ。脳に埋め込んだチップにより、疑似的に知力を向上させ、人語を理解し話す事が出来る。
一般的な合成獣のペットはしゃべる事は出来ないが、ビッカは最近誕生した新しめの合成獣。しっかりと教育すれば家の手伝いもこなせるのだが、蓮人の甘やかしすぎにより、わがままばかり言うペットとなってしまった。
それでも、独り身の蓮人にとっては掛け替えのない家族である事には間違いない。
ビッカに誘導されながらも、広場側を向かうように作られたカウンターに案内され、再び食事を作れと催促。
しかし蓮人の瞳には、全く別の光景が映し出されていた。
カウンターからは小屋の内部が一望でき、様々な物が目に入る。
窓側に置かれた三つのテーブル、それにはそれぞれ二席ずつ椅子が用意され、彫刻の掘られた重厚感のある家具たちが小屋の景色に溶け込んでいる。
窓枠には針金で作った模型や、動物の木製人形やガラス細工が置かれ、窓枠の上部からはリアルな観葉植物の模造品が垂れている。
カウンター付近には、古いラジオやランタン、ナイフなどのアウトドア用具がインテリアとして施されており、小屋の一番奥には使い古された薪ストーブが天井を突き抜けて煙突が伸びていた。傍の金物には、薪や動物の皮で出来た手袋が用意されている。
必要な家具とインテリアが見事に調和し、独特の雰囲気を醸し出す小屋には、確かに生活の後を感じさせられた。ここには、かつて誰かが、住んでいた証なのだろう。
「ビッカ、お前がいるって事は、ここが俺たちの新居って事だよな?」
「うん、正しく言えば、裏のロッジがボク達の家だけどね」
そう言いつつ、カウンターから通じる昇り階段をビッカは刺した。
「俺、今さいっこうに興奮してる。養父に無茶を言ってこの島に来てよかった」
「……そうだね、ケイなら絶対気に入ると思ってたよ。ボクらの新しい人生の始まりだ!!」
「ああ…… そうだな」
蓮人は胸を撫でおろし、階段を上がる。ビッカのエサは荷物の中に入っていたはずだ、今日はビッカが一番好きな、牛煮込みスープにしてやろう。そう思いつつも、ロッジの一室で、先に送られてきた荷物を漁り始めた。
蓮人はビッカのエサを温めた後、ロッジに運ばれた荷物の整理を始めた。
幸いロッジにも、ある程度の家具は揃っていて、適度にスペースの空いた収納棚が各部屋に用意されている。
ロッジとしての機能出来るよう、必要最低限の生活用品はすでに用意されており、引っ越し特有のこまごまとした不十分さは感じられないだろう。
ふとした時に切りたくなる爪切りもある、綿棒だってある。掃除用具として箒や塵取りまで用意されていれば、しばらくは掃除機の無い暮らしでも過ごす事は出来るだろう。
蓮人が主に感動したのが、ロッジにはおそらくカフェをやっていた小屋にあったものより、遥かに大きい薪ストーブの存在だった。
それらを管理する為の灰取り用の箒、灰の被った金属製のバケツ、薪割り用の斧まで用意されている。
まるでキャンプに遊びに来たかのような充実感を感じながらも、蓮人はロッジの収納スペースに持ち込んだ荷物を入れていく。
持ってきた物が少ない事もあるが、ロッジの数多い室内の収納棚をいくつも使用する必要は無いようだ。
荷物の収納を終えると、蓮人はビッカと一緒にロッジの中を探検する事にした。
今まで蓮人とビッカが行き来していたのは、小屋側のカフェと階段で通じているロッジのリビングに、傍の一室。そしてロッジ側のキッチンだけだ。
外から見たところ、ロッジはそれ以上のスペースがあるように感じられた。
今だ行った事のない残りの一階のスペースと、さほど広くはなさそうだが、リビングには二階へ上がる階段がある。
山間の建築物独特の、厄介な構造にはなっているが、それはそれで探検のし甲斐があると言う物だ。
「よし! じゃあケイ、まずは何処を探検してみる?」
牛煮込みスープと、安いレトルト食品を堪能した一人と一匹は、浮かれながら話していた。
「そうだな…… まずはロッジの玄関を探してみよう。 毎回、カフェから入るのは面倒だ」
「それならまずは一階だね!」
ビッカは飛び跳ねるかのような浮足で、リビングから、まだ一度も開けていない扉の方へと向かう。
しかし扉の前で止まると、蓮人が扉を開けるのを待っていた。どうせ待つ事になるのだから、先に行く必要はないと言うのに。
「こっちが玄関っぽいな」
「こっちにはお風呂があるよ!!」
一人と一匹は、お互いが言い示した場所を見ながら、広いだの大きいだの雑な感想を言っている。
玄関を少し開けてみると、その先は階段状になっており、先ほど辿り着いたカフェの先に広がる広場へと続いているようだった。
地面が平行でない坂の上に建てられている為か、なかなかややこしい。
その時、ふとビッカが尋ねる。
「ねえ、ケイ。カフェ側の玄関は下にあるのに、ロッジの玄関がある階が一階でいいの? 高さで言えば、カフェが下だから一階で、ロッジの玄関が二階にならない?」
「ああ、ロッジ側が一階でいいんだよ。見たところカフェとロッジは連絡通路があるだけで、建物的には全くの別物だ。おそらく、両方建てた後に連絡通路を作ったんだろう。最初から同じ建物として建てられた場合なら、カフェが一階、ロッジが二階、三階となるけどな。法律云々で言われたら、分からんけど」
「そっか、じゃあ一階二階と、あとはカフェって感じでいいんだね!」
「一階はこれで全部か?」
「みたいだね」
リビングから離れると、玄関はやけに寒い。いち早くリビングへと戻り、続けて二階の探索へと向かう。
しかし、二階にはリビングの傍の部屋と何ら造りは変わらず、ダブルベッドが一つと、鏡のついた化粧机。大き目の洋服ダンスと、部屋に付けられたタンスがある部屋が三部屋だけ。
まさに、ロッジの客間のあるべき形がそこにはあった。
気分次第ではそちらで寝るのもいいのだろうが、客間としてしか機能しない部屋に若干のがっくり感を残しつつも、二階を後にした。
「面白いものは何にもなし…… もっとこう、見た途端震えあがる程の物はないのかなー?」
「開かずの間、とか、殺人鬼が残した事件の証拠物資とかか?」
「そんな物騒なのじゃないよ!もっとこう、悪と戦い、平和を守る為に用意された、ヒーローの隠し部屋的なのがさ。きっと普通の日用品に化けたトンデモアイテムがいっぱいあるんだ。拳銃の弾が撃てるリップクリームに、ボールペンに見せかけた格闘用のスティック、そして超小型カメラの仕込まれたメガネとか、虫に偽装された盗聴器とか」
「とりあえず、ビッカはスパイ映画の見過ぎだ。そんなのがうちにあってたまるか、俺が捕まる」
ビッカはその言葉を聞くと、悲しそうな表情で、必死に前足を上げ、蓮人の右足に寄り添った。
「ダメだよそんなの! そしたらボク、また一人になっちゃうじゃん……」
蓮人は薄ら笑いをして、優しくビッカを振り払う。ちょっとからかっただけで、必死に主人に縋るなんて、可愛い奴め。
「大丈夫だよ。実在しない物が理由で、逮捕される奴が何処にいる。誰かの陰謀にでも巻き込まれたのか俺は」
小ばかにしていると、ビッカにも再びスイッチが入ってしまったらしく、前足で口元を隠しながら、蓮人の言葉に乗っかった。
「じゃあ、とうとう敵組織に正体がバレて、陰謀の闇に飲み込まれちゃうかも……!!」
「ビッカ」
「何?」
冷静に答える。
「個人の趣味を否定する訳じゃないが、たまにはスパイ映画以外にも見なさい」
「えぇ~」
蓮人はため息を吐いて、頭を掻きながらビッカに背を向けた。
するとビッカは、冗談を止め、蓮人に尋ねる。
「どこか行くの?」
「ああ。リビングのテーブルに、カギとプラネットでの身分証が入った封筒とスマホが置かれてた。その身分証がプラネット内通貨の電子マネーが使えるカードだと、同封されていたメモに入っていたんだ。ま、つまりは養父から最後の小遣いを貰ったから、今後の生活の為に日用品を買いに行くんだよ」
「もう遅いよ?」
ビッカはリビングに立つ、時計を見ながら言った。時刻は午後の十一時半になる。
「コンビニは見つけてある、明日の食料調達だよ。ビッカもそろそろ寝ろよ」
「気を付けてね?」
「ああ、もちろん」
その後、蓮人は薪ストーブに多めに薪を入れ、近くのソファーの上に毛布を用意しておいた。
ちゃんとした寝床は後日作るとして、今日はそれで寝て貰うしかない。風呂好きのビッカだが、さすがに今日は風呂に入れろとせがむ事も無かった。
財布の中に身分証をしまい、スマホをブレザーの内ポケットに入れ、財布はズボンのポケットに突っ込んだ。
さすがに制服のままでは無く、上着をもう一枚羽織って来ればよかったと後悔しながら、持参したライトを片手に、ロッジの近くの倉庫で移動手段を探す。
かごは付いていなかったが、一台のマウンテンバイクを見つけ、付近にぶら下がっていたチェーン式のカギを取り、引っ張り出してマウンテンバイクにまたがる。
蓮人は倉庫に入っていた物を思い出しながら呟いた。
「まったく、このロッジの前オーナーとは趣味が合いそうだ」
マウンテンバイクを走らせる事二十分、徒歩より遥かに早く辿り着いたコンビニに、悠々と再登場する蓮人。
店内では先ほどと同じ店員が、薄目を開きながら首をこくりと曲げている。
「先ほどはどうも」
「えっ…… ああ、さっきの」
寝ぼけながら、店員は蓮人に顔を合わせる。
挨拶を済ますと蓮人はカゴを取り、保存できるレトルト食品と猫用の缶詰をカゴの中に放り込み、レジまで運んだ。
「お願いします、電子マネーで」
「用意出来たんだ」
店員が商品のバーコードを読み込ませながら、蓮人に聞いた。
「ええ、偶然引っ越し先に辿り着きまして。やっぱり新居に、全部の荷物を送るのはダメですね」
「そりゃそうだ。日本の引っ越しとは違うんだから、もっと計画持てよ少年」
少年と言える歳では無いのだが、助言をくれた恩人に対しては反論する気は起きなかった。
その会話と同時に、レジの電子音性が『カードを、タッチしてください』と言っていたので、言われた通りに財布から身分証を取り出し、タッチをしようとする。その時だった。
「ちょっと待った」
「何ですか?」
店員の手は、タッチをしようとしていた蓮人の腕をつかんで止める。そして店員は続けた。
「悪く思わないでほしいが、少々怪しいんでな」
「怪しいって、悪戯がですか?」
「いいや、ちげえ。さっきは電子マネーの事すら知らなかった、季節外れの新参者のくせして、どうしてこんなに早くカードを用意出来たんだ。学生だったら、普通引っ越してくるのは二月や三月だろ。前みたいにテロを起こされたんじゃたまんねえからな、念のためカードを確認させて貰っていいか」
「ああ、そう言う事でしたら、ご自由にどうぞ」
一瞬、蓮人が嫌そうに身分証を渡す仕草を身の差が無かった店員は、奪い取るように蓮人の身分証を受け取る。
そして身分証を確認した時、目を丸くして、声を震わせながら蓮人に聞いた。
「お前…… この名前は……!!」
「……あまり追及しない方がいいでしょう。お互いの為にも、ここはあくまで、普通の客が来たと言う事にしてくれませんか?」
「ああ、そうだな…… 悪かった、返すよ」
蓮人は身分証を受け取ると、不機嫌そうにレジにカードをかざす。
そして商品の入った袋を取ると、煙のように去っていった。
「ありがとうございました……」
客の姿が外に消えた後でも、店員は声をかける。
しかし、どうにも店員の頭には、青年の苗字が浮かんで仕方が無かった。
「蓮人って…… まさか、な……」
どうもこんにちは、本居です。
Twitter見てて思ったんですが、僕って宣伝ド下手なんですね。
近未来SF作品と謳っていますが実態はヒューマンドラマですし、キャラの大前提があらすじでもプロローグでも分からないですよね。
そこで閃きました。本居さん、副題付けます。