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プロローグ(あとがき有り)

大粒の雨が降り注ぐ中、青年は立ち尽くしていた。

 ショッピングモールの駐車場。その一角には、御影石で作られた記念碑が佇んでいる。

 中心には噴水が雨を押し返すように吹き上がり、それを囲むように、犠牲者の名を刻んだ三本のモニュメントが天へと伸びていた。

 青年はモニュメントの一角を見つめたまま、ぼそりと呟いた。

「もう少しで、俺も仲間入りだな……」

 ぎっしりと名前が書かれたモニュメントの下段を見ると、そこには未だ空白の場所があった。

 失ってしまった家族や友人の横に並ぶ事は出来ないが、同じ場所に名前が彫られるのなら、それでもいいとさえ思えてしまう。

 その空白は、青年のように死を待つ人の為に残っているのだろう。青年以外にも、事件の重傷で入院生活を送っている人は少なくない。

 しかし、青年の葛藤は静まらなかった。たとえ死が訪れると分かっていても、頭の中では思想を止める事が出来なかった。

 あの時自分が忠告していれば、家族を失わずに済んだ。あの時、それよりもっと前から訓練させていれば、友人を失わずに済んだ。

 ……二人を失っていなければ、あの人との別れを惜しむ事は無かった。

 青年は自分の腹部に右手を当てると、手術痕を指先で探り、自身の容体を思い返す。

 四散した瓦礫が体を貫通し、臓器を破壊した。あの出来事さえなければ、青年はこれからも、生きていけると言うのに。

 やり残した事は山ほどある、置き去りにしてしまう人がいる、自分には、生き続けなければならない理由があった。

 それすらも、今では青年の両手から零れ落ちそうで、必死にもがいて掴もうとしても、降りかかる大粒の雨が指と指の隙間から零れ落ちていく。

 あの事件が、テロさえ起きなければ、ずっと平穏に暮らせたのかもしれない。

 淡い未来も、余命と言うタイムリミットを突きつけられてしまえば、タダの空想物語でしかなかった。

 自分が憎くて仕方ない、力不足で、情けなくって、それでも未だに未来に期待してしまう。きっと自分には、明るい未来が待っているのだと。あの人を悲しませなくても、いいはずなのだと。

 そして青年は思い付く。悲しませたくないのなら、自分より強い自分を作ればいい。自分より正義感の強い自分を作ればいい。そして、自分が消えて無くなればいい。

 青年は懐からスマートフォンを取り出し、ある人物に連絡を取った。

 自分を作る方法はある、自分のクローンを作り、自分が去れば誰も悲しませずに済むでは無いか。

 淡い期待が確信へと変わり、青年の黒い瞳に闘志が宿る。

 自分が去っても、代わりの自分が現れれば、きっと誰しもそちらを受け入れる。自分自身が壊れてから去れば、きっと新しい自分は受け入れてもらえるはずだと。

 すべてはあの人の為だ。家族になるはずだった、恋人の為に。

はじめまして、本居 幸です。Twitterから来てくれた方はこんにちは。

当作品は去年の一月から新人賞に向けて描き始めた物で、評価シートでコテンパンにされてしまった作品です。

ですが思い入れの強い作品なので、この作品で賞を取りたいと思い続けてしまいました。

文章の技量不足を疑い、何度も何度も手直しを続け、構成を見直し無駄を削り、推敲に推敲を重ね続けてきました。

……ですがそれではダメなんです。一つの作品に固着し続けるあまりに、この作品しか書けなくなってしまった事に気付き、作品を供養しようと考えました。

サイトに投稿してしまえば、二度と新人賞にも応募出来ないですしね。だから投稿を始めました。


しかし、落ちた作品だからつまらないとは言いたくありません。

これだけは言わせて下さい。この小説は、僕にとって世界で一番楽しい時間をくれた小説でした。

それでもよければ、お付き合い下さい。

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