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仕事:狩猟士  作者: まほさん
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新米冒険者レイの冒険はまだまだこれからだ! 5

「おう、イカズチじゃねえか。顔色悪いけどどうしたんだ?」


 宿の前で出くわし、案じた顔を雷に向けたのは、宿の息子のミハンだ。雷たちを含めて十数人泊まっている宿の料理を担当している。

 彼の料理を初めて食べた日、西洋版お袋の味、と感想を抱いた直後に、作ったのが青年だと知りかなり驚いた。

 

「……なんでもない。それより、風早さんたちは来てますか?」


 雷はなんとなくだが二十三歳より上に見える者相手には、丁寧に話すようにしている。

 今の雷より年上でも、その年齢より下に見える子供相手にはため口をきく。さっきのエルフはもしかたしたら二十三歳以上かもしれないが、見た目は十代前半の少女だったので子供判定だ。敬語は使わない。

 ミハンへの年齢判定は微妙に判断がつきにくく、丁寧語になったりならなかったりする。意識しないと丁寧語を忘れそうになる程度には、かつての自分と同年代程度に見えた。

 

「見てねえな。なんだ、はぐれたのか?」

「違います。別行動をとってたんです」


 誤解をうけたので、雷は訂正する。人とコミュニケーションを取る上で、誤解させたままにしていていい人物と、そうでない人物。誤解させたままにしていい事柄と、そうでない事柄がある。

 この場に適当に流してもいいが、後からやってきた風早たちとミハンの会話がちぐはぐにならないとも限らず、そうすると雷が嘘をついていたと即座にバレるわけだ。しばらく世話になる宿の従業員に、簡単にどうでもいい嘘をつく奴だと思われ妙な軋轢を少しでも生むのは避けたい。 


「あと、今日は出かけて食事するから、俺たちの分はいらないですよ」


 飯に関してはざっくりとした決まりがあった。宿代に含まれている飯代だが、朝飯を抜こうと、夕食を抜こうと変わらず一泊500ゴールド。寝坊して、食堂を開く規定時刻を過ぎたら飯はなし。夜も同じ、ある程度時間が過ぎたら飯はなし。早すぎる食事の提供も不可能。


「そうか、わかった」


 ミハンは頷いた。


「どこかオススメの飯屋はありますか?」


 美味い飯屋に行きたいのならば、地元民に尋ねるのが早い。椎名の自爆的な食事の楽しみ方には付き合いたくない。


「オススメなあ、お前さんも行くんなら、呑んだくれの親父がいるようなところはあんまり勧められねえか」

「俺は別に気にしないけど。ハンターズ・パブは大体そんなやつらのねぐらですし」

「そういやあ、イカズチたちは狩猟士だっけ。

 じゃあ、雉の夕鳴き亭だな。大通りを挟んで、この通りとは逆側にあるんだけどな、鳥料理が美味い。酒はもっと美味い。でも、狩猟士とか冒険者があんまり使わない店だからさ、騒ぎは避けろよ」


 冒険者が出入りしない店、というのは雷にとって朗報だ。あのザカル人とうっかりでくわしたくない。


「それは、もちろん。そうするに決まってる」


 雷とミハンは宿に入った。

 とりあえず部屋に荷物を置いて、一階にある食堂で待とう。外で待つには、まだ肌寒い時期だ。

 雷が部屋に荷物を置いて食堂に降りると、青年は客の飯の仕込みをしていた。

 

 雷は手近な席に座り、ショルダーバックから黒い手帳を取り出して開いた。

 この世界に来た時から所有していたものだ。

 コンソール代わりに現在のステータスを表示してくれる、不思議な手帳。

 インクをつけたペンで何か書こうとしても、書き込みできず、一方的に現在の情報を教えてくれるだけ。

 わかりやすく手帳の形をしているだけの現象、とでも言えばいいのか。

 創作物で「ステータス」というと視界の端に画面が出てくる説明のない不思議な現象と、同じようなものなのだ。

 『絶対に捨てられない物』扱いなのかもしれないが、一定距離手帳から離れると、勝手に衣服のポケットや鞄の中に入っている。

 失くしてしまったら困る物のため、便利な機能だ。もし、これが人形型でもしていたら恐ろしいけれど。

 雷たちは各自所持しているこの手帳でお手軽にレベル等を確認できるが、そうでない者たちは神殿や冒険者組合で《見抜く(シースルー)》の魔法で確認できる。一回1000ゴールド。日々の経験が蓄積されて得ているスキルレベルなどが結構な量になるため、これが妥当な値段らしい。戦いを生業としているものは、半年間に一回程度、自分の実力確認のために使用していると聞いた。


 仲間たちが戻ってくるまでの間、暇つぶしがてらそれを眺めていることにした。

 経験値はどちらのジョブに割り振っても、レベルアップにはまだまだ足りない程度しか溜まっていない。

 レベル2から3に上がるための経験値10000はつらいが、3から4にあがるための15000はなおつらい。

 レベル一桁台から経験値1万がいるなんて、レベルアップのための必要経験値がとてつもなく狂っている。

 ゲーム時代でも根気がいるレベリングだったが、現実世界になると苦行の階梯が更なる高みへと登った。

 

 ゲームの場合は半年間もあれば、根気よく続ければ全てのジョブレベル20、種族レベル100のカンストまで余裕で可能だった。

 それが、半年間、休養は挟みつつも頻繁に魔物との戦闘を繰り返しているにも関わらず、いまだにレベル5だ。

 

 あれだけ手に汗握る恐ろしい目に遭っているというのに、その成果はこの程度である。

 かくも辛い現実に、雷は打ちひしがれる。

 同時に、雷は思うのだ。

 これだけレベリングが大変なのだから、レベル5から狩猟士および冒険者の中堅扱いは、ある種妥当であると。


 死と隣あわせの狩に従事している者たちの最初に立ちはだかる壁は、レベル2から3への壁。このレベルに至ると、ようやくその道の先輩たちからは、こいつは一人前だと認められるようになる。

 前述した通り、それを乗り越えそしてさらにステップアップしたレベル5で中堅だ。


 この世界の住人は、なんらかのジョブレベルを10まで上げると、二つ目のジョブ取得枠が解放される。半年の間、人々の話を聞いていたから、これは確かなことだ。ここまで行くと、一流と呼ばれる。

 雷たちのように最初からジョブを二つ持っているのは、まずない。


 そして、任意のジョブを持つこともままならない。


 技能(スキル)というものがある。

 これらは努力次第によってどんな人でもどんな種類でも習得可能だが、それを高いレベルまで伸ばせるかは各人の努力や、生まれながらの才能による。

 一定のレベルまでスキルレベルをあげると、スキルの種類に応じたジョブという祝福を神から与えられる。

 神から与えられたジョブを、生きるための仕事にするものもいるし、そうでないものもいる。

 ただジョブに応じたスキルのレベルは、そうでない場合に比べると、とても伸びやすい。

 限界ともいえる壁はあるものの、スキルを使えば使うほど、腕前が上達するといっていい。

 そして技能を使い続けると、能力(アビリティ)という特別な力を得ることがある。

 それは不可能を可能にする力に近い。

 アビリティを持っていない人間には絶対に出来ない奇跡を巻き起こす力を、手に入れてしまう。

 ジョブに合う仕事につくと、毎日それを使うわけだからスキルがどんどんと磨かれていく。

 時にアビリティを使いながら、高いスキルレベルで成果を出すから、見返りも無論大きくなる。


 こういった背景があり、幼い子供の才能を見極めて、将来就く仕事を見越して対応する技能を鍛える。

 昔から、この地で行われていることだ。

 子供の未来を考えている親ならば、必ず行うことといっていい。

 親が育てたいスキルが子供の意思に叶うかどうかはさておき、親は子供のスキルを鍛えるべく教え、育てるのである。

 

 本人が育てて仕事にしたいスキルのジョブを得る前に、親の意向によって育てたジョブを習得してしまった。そして、望んでいたジョブを得られなかった、という悲しい事態は世の中にはままあることらしい。

 任意のジョブをプレイヤーの意思で選べるゲームとは大違いだ。


 ちなみにこの世界の戦闘にたずさわる仕事に就く者たちの大半は、そんな悲しい事態の経験者だ。

 職業とは全く違う技能は伸びにくいが、それでもスキルレベルをあげることは可能なため、戦いに関する技術を必死に磨いているのだ。

 レベル5の狩猟士のジョブが、農民(ファーマー)というのはよくある話だが、仲間になるNPCたちは大抵戦闘に携わるジョブを持っていたから、そんな裏話はこの世界に来て初めて聞いた。


「おや、雷くんだけですか?」


 手帳を眺めていると、椎名がやってきた。

 

「他の二人はまだ来てませんね。椎名さん、良さそうな楽器はありましたか?」


「気になるものはありましたねえ。でも、祝歌に添える音を出す楽器ではなく、趣味用ですね。お金が貯まるまで手を出すのは躊躇う感じです」

 

 椎名は雷の向かい側にある席に座った。


「そういえば、椎名さん、聞いてください。ついさっき大通りでザカル人を見ました」


 雷は重々しく告げる。幼い顔に似つかわしくない苦悩が見え隠れしていた。


「おや、彼、ですか。冒険者団(クラン)・瞬刻の一閃に所属しているという、例のアノ。商国の首都にいるという前情報は持っていましたからね、この街で姿を見ることもあるでしょう」


 プレイヤーとしても、この世界に住む狩猟士としても知っていた男の存在。

 この従属種族の男は、想像した通りのNPCであればレベル20。拳闘家と神官がレベル10ずつ。三つ目のジョブ枠が解放された状態で止まっている。自分たちの現状と比べると、最早化け物の域だ。


 化け物であるので、その存在の噂は広範囲に知れ渡っている。商国の冒険者組合にある最大クラン《瞬刻の一閃》に所属するザカル人の男ライオラ。

 商国に入国する前から、近隣の国でぽつりぽつりと噂を聞き始め、入国すると更にその噂をよく聞いた。

 クラン名の代名詞、商国最強の冒険者、主を探す男、神を求める男、糞ったれ神官(ファッキンクレリック)、全てを粉砕する拳闘士、などなど。枚挙にいとまがない呼び名と共に、冒険者個人の話などあまりしない狩猟士の酒場でも、話題があがる実力と功績を持っている。


 ライオラは狩猟士の酒場で会えなくなったNPCのひとりである。


 『精霊の贈り物』にはなかった冒険者組合という存在。どうやらゲームでは二つが統合されて、表現されていたような感じである。

 酒場で会えていたはずの人物が、狩猟士ではなく冒険者組合のほうに属していたりと、細かな違いも多かった。

 冒険者組合に属している変化を見せた人物は、創作物の世界で見る限り人当たりのいいまともなひとであった。

 逆にゲーム通り酒場にいたままの人物は、人付き合いを倦厭するめっぽう戦い好きなネジの外れた者であったりもした。


 ライオラは実力的には怪物だが、性格は口は悪いが根が真っ当だ。冒険者になっているのも納得の人物だった。

 彼はいずれ自分が仕えるべき主、ティタン神族と出会ったときのために自身を極限まで鍛えているそうだ。雷には全く関係のない話である。

 

「彼がいるのなら、外で食べるのはやめておきますか?」


 椎名の気遣いに、雷は首を振る。


「広い街ですし、会う可能性は低いかと思っています。それに、待っている間にミハンさんにオススメのお店を聞いたんですが、冒険者たちの出入りが少ないという話なんですよ。そこで食べませんか?」


「料理人のミハンさんのお勧めなら味の保証もばっちりですね。いいんじゃないでしょうか」


 場所の説明をしていると、道中出くわした風早と旭日が一緒に戻ってきた。

 ミハンお勧めの店を二人にも教え、他に行きたい場所もないからと、その店に向かった。


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