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仕事:狩猟士  作者: まほさん
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新米狩猟士レイの冒険はまだまだこれからだ! 4

 狩猟士の酒場で解散し、雷は魔法屋に向かった。

 魔法文字を刻印するための染料は特別なため、売っているのは大概魔法屋だ。

 この特殊な染料は、錬金術で作っている。

 椎名が錬金術を使える環境になれば、必要スキルレベルが低いため、素材を揃えればすぐに作れるようになるだろう。

 染料代も浮く、回復薬代の節約にもなるし、早く専用器具が欲しいところだ。


 魔法屋は、地図によれば大通りから外れた場所にある。

 大きな都市なだけあり、俗に魔法街と呼ばれる魔法に関する物を取り扱っている店が多い地区が存在する。

 そう時間があるわけでもないから、値段を比べて何件も回ることはできない。最初に入った店が適正価格だったらそれを購入しよう。

 そう決めて足早に歩を進める。子供の足といっても侮るなかれ、種族レベル5が持つスタミナと俊敏性を駆使すれば、大人顔負けの速度を維持できるのだ。


 店が連なる大通りから逸れる小道を行くと、小綺麗な街並みから、月日の流れを感じる建物が多い地区に出た。壁に蔦の絡まる煉瓦作りの店、花とともに生えた薬草の植木鉢が並ぶ店、看板に描かれた薬の絵。

 歴史情緒あふれる独特の雰囲気とでも言おうか。

 空気が変わったのを感じた。

 この世界の魔法というのは、さして特別なものではないけれど、神秘として感じている者がいるところにはいる。

 そういった者たちのために、どこか独特な空気を演出してやっているというか、夢の世界をあえて作っているというか、そんな雰囲気だ。

 作りものであるが、その作ったものの空気はどこか暖かい。

 金を稼ぐためだけの店ではなく、来た人を楽しませるための街づくりに皆が一丸となって協力している、そういったものを感じた。


 棚に硝子細工が並んでいるのが見える。飾りとして綺麗なものだが、魔法屋に並んでいるからにはなんらかの魔法道具なのだろう。

 店が向き合って間に挟んでいる道は大通りに比べると狭く、石畳はところどころ割れている。人通りは少ないが、妙な活気がある。

 目に止まったのは店先にたてた杖に止まった梟だ。雷がつい何の気なしに近づくと、ぐるりと首を回転させた。梟がそういう生き物だとは知っていても、ありえない角度になる首につい驚く。

 

 せっかくだから、この梟に誘われたことだしこの店に入るかと雷は決める。

 ざっと店内を見渡して染料を取り扱っていない、なんらかの魔法道具の専門店だったらさっさと出て行って次の店に行けばいいだけだ。

 透明度の低い硝子扉を開けると、ベルが鳴った。

 店内は雑貨屋とそう変わらないような品揃えだ。

 ただの雑貨屋との違いは、ひとつひとつが魔法道具ということだ。

 生活用品も、紙も、筆記用具も。全てに魔力がこもっている。

 魔法道具というのは普通の品よりも高いが、ちょっと奮発すればここにあるペンくらいなら子供が貯めた小遣いでも買える。手軽な値段で買えるものは、贈答品として人気だ。

 先客が一人いた。ペン軸の前でうんうんと悩んでいる若い男だ。


 店番の少女がベルの音を聞き顔を上げた。

 椅子に座り、本を読んでいたらしい。

 耳の先端がうさぎのように長く尖っている。椎名と同じ、エルフだ。


「いらっしゃいませ」


 今の雷よりも三、四歳くらい上で、まだ十代半ばもいってなさそうなのに、可愛らしいというよりは冴え冴えとした美しい容姿だ。

 エルフは人間よりも長寿だから、子供のような見た目でも人間の大人ほど生きているかもしれない。

 その経験があるからこそ、どこか近寄りがたい雰囲気を感じる顔になっているのだろうかと、雷は思う。

 まあ、少女の年齢も過去も雷には興味のないことだ。


 探すと染料はすぐに見つかった。

 棚にはたくさんの染料壺が並んでいる。色の種類が豊富だが、色は別になんでもいい。値段はこれまで道中で見てきた店の平均よりもやや安い程度。魔法屋が何店かあると、価格競争するのでそのためだろう。小さな町で一店舗しかないと、高く設定しがちだ。それでも適正範囲があるのか、異常に高いというものに出くわしたことはない。誤差は大体上下限5ゴールド程度だ。

 どうせすぐに使い切るものだから、大きいものを買う。刻印のための専用のペン先も手に取る。


 あとは、衣服に気休め程度の防御力増加をかけるための刺繍道具。

 軽石に大量に刻印し、かつそれを全て消費したことで技能レベルが上がった。

 それによって防御力を少し上げる魔法文字を新たに使えるようになったのだ。

 

 勘定台に持っていくと、少女は手早く会計を済ませた。


「刻印魔法でも使うの? お使い?」

「そうだよ」


 雷はためらわず首肯した。

 雷くらいの子供が魔法が使えるのは珍しくない。

 真実を教えても問題はないのだが、自分が使うといちいち否定して、なんらかの話題が発生し、受け答えのために面倒な会話を続くかもしれないと思うと、雷は否定する気力をなくす。


「ふうん、それならこれもオススメ」


 少女が取り出したのはゴム版に見えた。


「消費アイテムに使うぶんには、いちいち手書きするよりも楽よ。まずこの紙に図を描いたあと、それを裏返した状態でこれに貼って、彫刻刀で掘るの。自分で掘るのが面倒なら、あらかじめ反転した魔法文字が掘ってあるのもあるから。形がボコボコしたものでも、判子に魔力を通すと対象に合わせて形を変えるの。たくさん使う魔法文字があるなら、ひとつあると便利よ。

 お使いだから勝手なものは買えないでしょうけど、刻印魔法を使えるひとにこんなものがあったよって宣伝してくれると嬉しい」


「ふうん。わかった。ありがとう」


 会計をすませた商品を受け取り、そっけない返事をした。

 しかし内心はオススメされたものに、雷は正直迷った。

 魅力的な商品だ。

 一個のルーンストーンをちまちまと制作するのに、どれだけ時間がかかったことだろう。

 それがスキルレベル上げになったとはいえ、時短できる便利製品があれば、どれだけ楽か。

 戦闘に関わるものだから、狩猟士隊(パーティー)の予算で購入しても良さそうな品だ。無駄遣いはしないようにしているが、そこまで金にうるさい仲間たちではない。

 なんなら個人の予算で払ってもいい。

 しかし、今の雷は低いスキルレベルの魔法文字しか扱えない。

 今のレベルに合わせたものを買っても後々使わなくなってももったいないし、高望みしたレベルのものを買ってしばらく宝のもちぐされになるのも癪だ。

 直近の手間を省くか、今後楽になることを考えるか。悩ましいところだ。

 雷はショルダーバックに荷物を詰めこみ、店を出る。

 すぐに出さなければならない結論ではないし、買っても買わなくても大きな目で見ればどちらにしろ支障はない。そう思えば突発的な思考で購入するのはよくないと判断を下した。

 目的のものは購入した。とりあえず、コハンの街でとっている宿に向かおう。

 


 雷は早足で集合場所を目指した。

 宿は街の大通りにこそ面していないが、すぐ裏側の通りにあり何かと便利な立地だ。裏通りといえど、きちんと清掃の手が行き届いていて不快なところなどない。仕事がない下町の者を役場の者が雇い、掃除をさせているらしい。 

 夕飯時が近づき賑やかな大通りに出たところで、思いがけない後ろ姿を見つけてつい立ち止まった。

 旭日ほどではないが、背が高い男。猫科の動物を思わせるしなやかな筋肉に覆われた鍛えられた肉体。

 こちらが西洋ファンタジー的衣服だとしたら、背中側が見える黒い短髪の男は中東ファンタジー的な衣服だ。衣装の傾向の違いで、男は街の雰囲気から浮き、よく目立った。 

 心中で雷は焦った。


「うわぁ……」


 思わず嘆息した。片手で顔を覆い、天を仰ぐ。

 雷が一方的に知っている、ゲームのNPCの衣装に酷似している。

 民族衣裳であるから、もしかしたら似たような服を着ているだけの他人で、思い描いている人物とは違うかもしれない。

 しかし、雷にとってそれは一切救いにならない。 


 とある民族は、雷にとって一種の天敵だった。


 雷が最初の種族選択で選んだティタン神族は、この世界の神の血に連なる一族のひとつ。魔力と精神と器用さのステータス補正が高い。反面、HPと体力と腕力、防御力のステータス補正は低めだ。補正が低いといっても、人間の種族を選ぶよりも高かったりする。神と付くだけあり、全体に能力値が高いのだ。


 この世界では、神族は神ともども獣人や竜人などにとって信仰の対象となっている。

 ゲームでは、そういう性質が反映されていた。ティタン神族を主人公に選ぶと、獣人や竜人などのNPCから特別な反応が返ってきたり、仲良くなりやすかったりした。


 この世界には従属種族というものがいて、ティタン神族とダヤン神族をそれぞれ主と奉じるそれぞれ民族がいる。その民族出身のNPCは、他の種族を選んだ主人公だと仲間にするには手間がかかる場合があるのに、対応の神族主人公の場合は簡単に仲間にすることができた。

 そんな従属種族、彼らはゲームで表現されていた以上に、神族という存在に対して狂信的だった。


 今まではダヤン神を信仰する者が多い東側に土地にいたから、ティタン神族の従属種族に会うことはなかったが、 今、雷たちがいるのはティタン神信仰と、人間やエルフたちを作ったとされるダヤン神信仰をするものが半々程度にいる地域である。

 ゲームの知識および現地の知識でティタン神族の従属種族であるザカル人のNPCが同じ国にいることを、雷は知っていた。覚悟はしていたが、実際に見つけると胃のあたりがじくじくと痛くなった。

 あちらが雷に気づいていないのが不幸中の幸いだ。


 雷は自分の性質をよく理解している。忠誠と信仰を雷に向けられたとしたら、それに耐えられるとはとてもではないが思えない。

 出くわさないにこしたことはない。

 これからは、外出には気をつけないと。心に決め、雷は逃げるように宿へ向かった。

 


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