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仕事:狩猟士  作者: まほさん
15/23

新米冒険者レイの冒険はまだまだこれからだ! 15

 仲間の無事を確認したので、獣人は俊足を生かし一足早く帰ることになった。

 援軍の要請に対して、不要になったことをいち早く伝えるためだ。

 デスソースの激痛にのたうちまわるエルフを尻目に獣人の男が駆け去っていく。雷はドーロゥに対して深い同情を抱きながら目と口に重点的に浄水(クリーンウォーター)をかけた。

 エルフがようやく落ち着くと、助かったと言葉短く礼を告げられ頭を下げられた。

 よかったよかったと旭日が大袈裟なくらい喜ぶかたわらで、仲間の無事の生還を泣いて喜ぶでもなく、謝辞は告げられたが助けられたことにドーロゥは大仰に感謝するでもなく、

「俺たちに殺されなくてよかったな」

「死なずに済んだのはたしかにありがてえが、この状態は不幸中の幸いにしても酷すぎんだろ」

 と、仲間内で冷めた会話をしているのが雷の印象に残った。

 強烈な苛みは消えたが、目の痛みと舌の痛みはまだ完全には消えていないらしい。

「目の治療をもちっと重点的に頼む。まだ目の奥が痛えぞ。それに甘いものが食いてえ、強烈に甘いもんが食いてえ」

 雷に治療をたのみ、顔に似合わず甘党なのか甘いものをしきりに食べたがっていた。

 頼まれた雷はクールタイムが終わるごとに浄水(クリーンウォーター)を繰り返す。なんというか、魔法での目の治療というより、水で洗い流してるだけな気がする。解毒魔法の存在とは一体、と雷は遠い目になりながら訝しんだ。

 低位の解毒魔法なので、全ての症状に効く訳ではないとはいえ、毒性が低いはずの香辛料の刺激すら消せない魔法とは一体なんなのだろう。

 これも自分の魔法に対する未熟故であろうか。

 それとも毒とも薬とも調味料とも言い難い刺激物を、魔法が毒のうちにいれていないせいだろうか。

 どちらにせよ、水で洗い流してやっているだけのような魔法の無駄打ちに、少し思うところがある。

 治療した後のゆっくりとした帰り道、血涙花獣に乗っ取られていた間の話をドーロゥに聞いた。

 ドーロゥの推測も混じるが、どうもあの特殊個体は、魔力がやけに高かったらしい。

 魔法使いの森精霊(エルフ)を上回り、なおかつその魔力を利用して肉体の強化に回していたようだ。

「なんでわざわざ高い魔力を使って肉体を強化するんだ? 強い魔法でもぶっぱなせばいいじゃねえか」

 旭日は疑問をなげかけた。

「知能のある生き物の支配をできる特殊能力と高い魔力は持ってても、使える魔法がそれだけだったんじゃねえか? 体の支配しても俺の使える魔法を使用できなかったところを見るに、いろいろと制限はあるんじゃねえの」

 ドーロゥは答えた。

 ともかく、これらの事態は狩猟士の酒場(ハンターズ・パブ)に報告しないといけない。

 植物系の魔物が増えている今、また似たような魔物があらわれる危険性がある。

 椎名がとった対処が正解かは別として、精神を乗っ取られた者でも助けられるというのは重要な情報だろう。

 それは血涙花獣討伐を請け負ったドーロゥたちの仕事として、自分たちのことだ。

 大量に生えたドラゴニクス草はそのままだし、まだ日が高い位置にある。このままこの日の仕事を終えて解散するには早い。

「酒場に戻ったあとはどうするんですか?」

 雷は風早に尋ねる。

「私たちの依頼は半端になってしまったからね。時間もまだあることだし、レイ君たちと再度合流して草刈りか、それかもうひとつの依頼をこなしてしまうのもいいね。こちらから近寄らない限り、積極的襲ってくるタイプの魔物ではないとはいえ、都市付近のロズレを放置しておかれるのは怖いだろうから」

「じゃあ、薔薇女でいいんじゃないですか? 緊急性があるのはどっちかっていうとこっちじゃあないですか。だいたいちまちま草刈りは性に合わないっすよ」

「ぼくもそれでいいと思いますよ。門の前で解散して、私たちは薔薇の乙女(ローズレディ)でも狩りますか」

 レイたちと合流して、もう一度ドラゴニクス草の群生地に向かうのは面倒だから薔薇の乙女に向かわないかと提案してくる旭日と椎名に、雷は難色を示す。

「えー、MPを結構消費したので、この状態でローズレディと戦うのは怖いですよ。刻印(ルーン)魔法は燃費がいいとはいえ、あれで半分は使いましたよ。ただでさえ全力疾走で疲れてるんですから、今日本格的に戦うのはやめませんか? レベルが上の相手とは万全で戦いたいです」 

 消費したMPを回復するマジックポーションは持っているが、かなり値が張るものだから、おいそれとは使いたくない。

 すぐに魔力を回復しなければならない緊急用であって、避けても問題のない連戦のために使うのはもったいない。

「ああ……お前だけ全力疾走だったもんな」

 旭日は半笑いが混ざりつつも、得心がいった顔でうなづいた。

「雷くんはぼくたちの中で一番疲弊してますからねえ……」

「今日の一番の功労者でもあるしね、雷君の意見を尊重しようか」

 風早が今日の方針をまとめがてら、さらっと雷をねぎらう。

 足止めをしてドーロゥごと血涙花獣を殺すのを止めただけなのに、褒められて面映い。

「割といけると思うんだけどなあ……」

 薔薇の乙女(ローズレディ)狩猟がなくなったことに旭日は肩をさげた。

「不確定要素が多いのは確かなので、今日は雷くんのいう通りにしておきましょう。通常のエンカウントならば相手取って問題ないとは思いますがね、昨日のトレントのように大量に発生していたり特殊個体がいたりする可能性もある。……それはそれで楽しそうですけど」

「余計な一言が怖いですよ、椎名さん」

 困難な敵にほど突っ込みにいきたがる椎名に、雷は痛む頭を抑えた。

「分かる」

 旭日はうんうんと首を縦に振って賛同している。雷に、ではなく椎名に。

「驚異度が高い魔物ほど、倒した時の達成感はずば抜けてますしね」

 そして風早も椎名と旭日の同類なのだ。

 往々にしてこういう連中なので、雷の気苦労は絶えない。

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