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プロローグ

「こんにちは。ほ、本日はお時間を頂きましてありがとうございます。」


目の前の編集者が言う。今までに何度か話をしたというのに、未だに緊張しているようだ。


「かまわんよ。それで、今日は原稿が上がったとか?」

「はい!そうなんです。つきましては、提督ご本人に内容を確認していただきたいと思いまして……」


彼は私の伝記のようなものを書いている。最初は、これといって特別な所のない老人の半生など出版したところで、と思って断ったのだが、彼は諦めずに何度もやってきた。根負けしてインタビューを受けたのは高々1ヶ月かそこら前だったというのに、もう原稿ができただなんて……


「いくらなんでも早すぎるだろう。ひょっとして、話が決まる前から準備しておったのか?」

「方々に取材をして提督の数々の偉業を集めておりました。当時のクルーの皆様からは本当に興味深いお話をたくさん聞けましたよ。」


なんと、昔の仲間にも話を聞きにいったらしい。最近は忙しくて私も連絡を取っていないというのに……


「ほう、みな元気だったかな?ビットは?彼はどうしていた?アイツのことだ。どうでも良いような細かい事まで話したのだろう?」

「それはもう。皆様から聞けなかったお話もお聞かせいただけました。」


何を話したというのか。人間の機微にかけるビットの事だ。本当に話さなくていい小っ恥ずかしい話までしたのではないかと考えると、頭が痛くなってきた。


「……そうか。尚更恐ろしいエピソードが本にならないように内容をあらためないとな。」

「はい、お願いします。こちらの都合で申し訳ないのですが、2週間後に校正に回さないといけないので、来週には原稿をお返し頂けるとありがたく存じます。」

「わかった。なるべく早く返せるように読んでおこう。」


その後もいくらか雑談をした後、編集者は帰って行った。彼によると、今回の原稿は私の話を半分、取材によって得られた部分を半分混ぜたような構成になっているそうだ。つまりは、当時のクルーが私についてどう考えていたかこの歳になって知る機会を得たという事だ。些か恐ろしい気もするが、怖いもの見たさというか、俄然読む気にはなる。それに本に出来る時点でそこまで酷い書かれ様はないだろう。編集の彼はそこまで悪い人には見えない。なにより、ゴシップ誌ではないのだ。


「……今は仕事もひと段落している。早速読んでみるか。」


原稿を手に取って、目の前に置いた。それなりの厚みがある。その厚みを見てホッとする自分がいる。……この歳になって自分の伝記が薄かったら、なんというか、ちょっとさみしいだろうと思っていたのだ。実際に自分の話した事だけでは、こんな厚みになると思えない。ビットが頑張ったんだろうか。それとも、他の皆が?

1枚めくると、手書きの文字があった。今時珍しい。あの編集者もアナログ好きなのだろうか。そんな親しみを覚えながら、文字を追い始めた。書き出しはこうだった。



この本は、かのプレンダー提督の半生を本人や関係各所へのインタビューを元に物語として記したものである。

はじまりました。よろしくお願いします。

現在は提督であるプレンダー。編集者はプレンダーのファンなのです。

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