兎にも角にも
映画研究部。それが俺、久慈浩介の所属している部活だ。
「(今日は、どれを見ようかな)」
手に持っているいくつかの映画を見比べる。新作の海外映画もいいけれど、日本のもまたいい。もういっそどっちも見てしまおうか。いや、それだと下校時刻が過ぎちゃうし…。
「ひゃっ」
「うあっ」
しまった、誰かにぶつかってしまった。
「ごっ、ごめんなさい」
ぶつかってしまった相手と目が合い、息をのむ。綺麗な黒髪。透き通るような白い肌。
なんて綺麗な人なんだろう。
「っ!?」
彼女は声にならない声で悲鳴を出すと、顔にお面をつけた。
お面をつけた?
アメリカンな兎のお面をつけた彼女は立ち上がってあたりを見まわし、一つ息を吐いた。
「顔、見ましたよね、」
か細いけどとても綺麗な声。
「見ましたけど…」
顔を見られて何か問題があるのだろうか、こんなにも綺麗なのに。
疑問を持っていると、彼女は俺の腕を引いてずんずんと歩き出した。
「えっ」
白くて長い指、綺麗な爪。またも目を奪われた。
奥の教室へ入れられると、彼女は勢いよく扉を閉めて、その場にしゃがみこんだ。
手で何度か足をたたいたり、うーと唸ったり。何をしているのか全く理解ができない。
「あ、あの」
声をかけると、彼女は勢いよく顔を上げて立ち上がった。
「さっきの私の顔に、み、見覚えとか、ありますか、」
スカートを握りしめている手が震えている。抱きしめたいという感情を抑えながら答えた。
「綺麗だなーとは思いましたけど、」
「そ、そうじゃなくって、どこかで、見たことがある、とか、」
そういわれ、彼女の顔を思い出してみる。だが、あの顔をどこかで見たことがある気はしなかった。
「ないです。」
そういうと彼女は胸に手を当てて安心したように息をついた。
「よかったぁ…」
「あの、顔を見たこと、何か問題があるんですか?」
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