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夢から覚めたら  作者: もどきぬん
9/11

わたしの、記憶



みはるは、目を覚ました。



身体中から汗が出ていた。嫌な汗だった。それに、動悸もする。


みはるは呼吸を落ち着け、今見たものが夢だということを認識する。


「…なんで、理想の夢の中の私が死んでるのよ。意味わかんない、めっちゃうけるんだけど。本当、意味わかんない…」


みはるが今の夢を反芻している間、

突然、背後から声をかけられた。



「新谷、みはるさん。」


みはるは振り向いた。


声の主は、セールスマンだった。

みはるはセールスマンを睨みつける。




「そうよ。なんであんた、現実の世界にいるのよ。夢の中でしか出てこないんじゃなかったの。」



セールスマンは、間をおいて、再びみはるの目をみて、彼女の名前を呼ぶ。



「みはるさん」


質問に答えないセールスマンに、みはるはイライラする。


「ちょっと、質問に答えてよ!」




「………副作用が、あなたには出てしまっているんです。」




「は?副作用?」



セールスマンは、悲しそうな顔をして、

だからちゃんと、説明させてって言ったのに。と、小声でいった。





ドリーミングの容量は1日に一本が限度である。それ以上飲むと、副作用が出てしまうのだ。しかし、みはるは慢性的に1日に一本以上ドリーミングを飲んでいた。



「これを、確認してみてください。」



バサッ、とみはるの足元に一冊のノートが投げつけられた。



それは、みはるの妄想日記だった。



みはるはその妄想日記をひろいあげ、

パラパラとめくる。




その日記には、






真面目で地味な自分が、平和に日々をおくろうとする、そんな日常が妄想として書かれてあった。



「なによ、これ。私が書いてた妄想は、友達もたくさんいて、いっぱい遊ぶって妄想だったはず…」




セールスマンは、みはるの目を見てゆっくりといった。





「この薬の副作用は、夢と現実の区別がつかなくなること。つまり、あなたが今まで現実だと思っていたのは夢で、夢だと思っていたのが現実なんです。」



「…え?」



「覚えていませんか?」


セールスマンは話し始めた。



みはるが、初めてドリーミングを買った時のことを。



「あなたは初めてドリーミングを購入したとき、こう言っていました。地味でもいい、友達がたくさんいなくてもいい、ただ、平凡な人生を送りたい…と」



「どうゆう、こと」



みらるの目が、大きく開かれる。



「あなたは、派手な自分を変えたかった。そのために薬を飲んでいたんです。」


みはるには、訳がわからなかった。混乱する頭の中で、冷静にセールスマンの言ったことを整理する。



今まで自分は、地味で友達のいない自分を変えたいと思って、夢の中で派手な自分になった…つもりでいた。





だが、本当は。


本当は、副作用のせいで、夢と現在の区別がつかなくなり、そう思っていただけだった。




本当の自分は、派手な自分で、そんな自分を変えようと思ってドリーミングを飲み、理想の地味な自分を夢の中で見ていた…?





「じゃあ、この、今の、地味な私は」


セールスマンは、静かにみはるを見つめていう。


「夢の中の姿です。…私は夢の中にしか現れることができない存在なんですよ。」



みはるの目に、恐怖の色が見える。みはるはセールスマンにしがみつき、叫んだ。



「意味、わかんない…意味わかんない、意味わかんないよ!!」



そんなみはるをセールスマンはずっと見下ろし、眺め、そして言う。




「地味で平凡で、何もない毎日を送っているあなたは、夢のあなたです。友達がいて、先生という彼氏がいて、最後に虐められて今、先生に殺されそうになっているのが現実のあなたなんです。」



みはるは、言葉が出なかった。言葉がも出せず、瞬きもせず、床に膝をつけた。






「私が夢だと思ってた理想が、現実で、現実に起きたとおもってたことが、夢だった…?」





「そうです。」


みはるの口元は、笑っていた。

ただ、目だけは笑っておらず、ゆっくりと闇しか見えない空を見上げて呟いた。



「それっておかしいよ。…だって、わたし、さっき、死んじゃってたもん。現実でしんでたら、夢なんて見れないじゃない」


セールスマンは、首を振った。


「あなたはまだ、しんでいません。死ぬ直前に薬を飲んで、この夢の中に来たんです。あなたは今、最期の夢をみているんですよ」





「うそだよ」


いつの間にか、みはるの目には、涙が込み上げていた。



「残念ながら、嘘ではありません。」



「うそ」



「違います。」



「うそだよ…!!!」



セールスマンは、みはるの顔をじっと覗き込んだ。



「思い出してください。本当のあなたを。」



みはるは、セールスマンを見上げる。


「本当の…私」



目の前にいるセールスマンは、悲しそうな、顔をしている。


「あなたは、地味で、平凡で、平和な毎日を過ごすような人でしたか?」




「私…」







セールスマンはそこまで言うと、静かに、みはるの元へとゆき、手を差し伸べた。



「さぁ、もう時間ですよ。起きましょう」




しかし、みはるはそこを微動だにせず、ずっとしゃがみこんでいる。


「セールスマン」



みはるは、セールスマンに言葉を投げかけた。


しかし、



セールスマンは、そんなみはるを見ずに、さようなら、といい、静かに闇に溶け込んだ。



その後みはるは、ゆっくりと立ち上がり、


呟いた。



「思い出した…私…」




「私は」



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