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夢から覚めたら  作者: もどきぬん
8/11

何かがおかしい


叫んだ瞬間、みはるは目を覚ました。



みはるは、ゆっくり、あたりを見渡す。


いつも通りの教室。


次の時間の予鈴のチャイムが鳴る。


辺りには、5分後の授業に間に合わせるように生徒たちがパタパタと忙しく移動教室への準備をしていた。



みはるは、じっと席に座り、考え込んだ。



「……………どうゆうことなの。思い通りになる、理想の薬じゃなかったの。」



みはるは静かに、ドリーミングを見つめる。



「先生との恋愛がばれて…それで…?考えたくない、こんなのが私の理想のはずがない。私は、現実から逃げるために夢をみてるのに、どうしてこんな夢…もしかして、今まで分量以上に飲んでいたから、もっと飲まないと効果が現れないのかも…。」



みはるは、自分のバックをあけ、ドリーミングを手に取った。



「たくさん飲まなきゃ…たくさん…」



そしてみはるはドリーミングを、飲み干した。

今ではすっかり慣れてしまった頭痛がみはるを襲い、みはるはまた、夢の世界へとはいっていく。



「みはる、大丈夫?」



目を開けると、海崎結衣と高垣彩香がみはるの顔を覗き込んでいた。


手には、移動教室用の教科書を持っている。



「う、うん、大丈夫…」

「ならよかった、早く移動教室いこー。」



「うん…。結衣、彩香…」


みはるは、ほっとした。友達と一緒に平和に過ごす、幸せな夢を見れたことに安心したのだ。やっぱり、さっきの夢で理想の夢を見れなかったのは、分量が少なかったせいなんだとみはるは思った。




時間割と時計を照らし合わせると、次の授業は理科だ。



「次って理科室だよね?」


高垣と海崎は笑って答える。


「そうだよー。ほら、はやくはやく!遅れちゃうよ〜〜」



いつもどおり笑顔の二人に手を引かれて、みはるは教室を出る。



理科室には二階から一階に降りなければならないのだが、二人は三階へ行く。



みはるは、不安を感じた。


「…あ、あれ、こっち理科室じゃなくない?」


「うん」


二人は、笑顔のまま、みはるを三階の一室にある、演劇部の倉庫へと連れて行く。


そして、中に入ると扉をピシャッと閉めた。



「倉庫…?なんでこんなところに…」




海崎と高垣は、いつの間にか、笑っていなかった。


「うん、なんでだと思う?」



「え、わかんない…」



海崎はそう…とだけ呟いた。

明らかに、二人の様子がおかしかった。


いつの間にかその場の空気は張り詰めていて、二人は言葉を発さずみはるを見つめていた。


チク、タクと壁に掛けてある時計が秒針を刻む音が聞こえている。



耐えきれなくなったみはるが口を開く。





「…え、えっと…どうしたの?」



みはるの言葉に被せるように、高垣彩香が言う。


「ねぇみはる、うちらに何か言うことない?」



「え…」


「うちら、知ってるんだからね。」



何を…、と言いかけたところで海崎結衣がいう。




「みはるさぁ、お昼、いつもうちらと食べないで誰と食べてるの?」



「えっ…と…」


みはるは口をつぐむ。夢の中で、いつもお昼ご飯を一緒に食べているのは。


「言えないの?」



みはるは、観念したように言う。


「小磯…先生…」


海崎は、ふぅ、と、ため息をつく。




「うちらさ、みんなに噂、否定してたんだよ。みはると先生が関係を持ってるって噂。先生となんて、まさかと思ってたし…。それで、みはるが先生とのことについて本当のこと言ってくれるの、ずっと待ってた。」




「え…」




(あ、あれ、どうして…理想の夢にならないの…。前の夢が、続いてる…??)


みはるは、二人の顔を見ていられなかった。

ゆっくりと下を向く。






「でもみはるさ、言ってくれなかったじゃん。何にも。まぁそれはいいんだけどさ。でも、私たちは信じてたんだよ。」


うん…と、みはるはつぶやく。



汗が出てきて、動悸が高鳴るのを感じる。

みはるはこの場から、逃げ出したかった。


「でもさ、見て。」




海崎は、みはるに、携帯の画面を見せてきた。そこには、ラブホから出てきたみはると小磯先生の姿が映されていた。




「!!」



みはるは、その写真から、目を反らせなかった。そんなみはるを尻目に、海崎は続ける。



「なんか、裏切られた気がしたんだよね。あんたに。それにさ、あんたの噂を私たちが否定していたせいで、うちらのグループ、周りからそうゆう目で見られるようになっちゃったんだよね。」



「そ、そうゆう目…?」


みはるは、二人の顔を見る。

彼女らは、無表情だった。



隣でずっと黙ってみはるをみていた高垣が、口を開いた。


「先生ともフツーに寝る、みたいなさ。うちらのグループ、なんて呼ばれてるか知ってる?ビッチの集まり、って言われてるんだよ?この間も有名な三年の不良グループいるじゃん、あいつらにうちら襲われかけたんだからね」


みはるは、何も言えなかった。

高垣がみはるを鋭い目で見た。


「あんたのせいだから。」



みはるは目の前がくらくらした。



「まじありえない。先生ととか不潔だし…それだけならまだしもうちらを巻き込まないでよね」


みはるは小さい声で、ごめんなさい…と言った。





「本当に悪いと思ってんの?」



「思ってます」


「本当に?」


「はい」



みはるの言葉を聞いて、海崎はふぅ、とため息をつく。


「じゃああれやんなきゃね」



「あれ…?」


みはるは弱々しくきき返す。

その時、無表情だった二人の表情が少し晴れて笑顔になった。


みはるは言い知れない恐怖を感じる。



海崎は後ろの壁をトントンと叩き言った。




「謝罪会見。」



その瞬間、倉庫奥の扉からりゅうと、マサキが現れた。二人ともニタニタと笑っており、手には鋏が握られている。



「太一…?武…?」


「やっほーみはる」



まさきは鋏をチラつかせながらみはるに近づく。

「ねぇこれなんだかわかる?」


みはるは恐怖で尻餅をつき、後ずさりする。

後ろには海崎と高垣がいつの間にかおり、しゃがんでみはるの腕をつかんだ。



「う、うそでしょ…お願い…やめてよ、友達じゃん」


その言葉に太一は堰を切ったように笑い出す。


「はははははっ!友達だって!まじウケる」


そうだよ、と武も続ける。


「お前みたいなビッチもう友達じゃねーよ。お前のせいで同族だと思われて俺らのグループみんな白い目で見られてるんだよ。」


みはるの目からは、いつの間にか涙がこぼれていた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…許して…」



みはるを見下ろすように言葉のナイフがみはるを突き刺す。


「ビッチ」

「不潔」

「汚い」

「死んじゃえ」

「あんたなんかもう友達じゃないから」




くすくすくす、と四人は笑う。

みはるは茫然自失し、涙がただ流れていく。



そして、海崎は太一の持っている鋏を指差す。

「ねぇ、はやくつかおーよこれ」


「使お使お」



そして太一が手を上に上げて周りに言う。



「はーい学生ちゅうもーく」



いえーーい、と、みはる以外の3人は呼応する。



「今から、みはるちゃんの、断髪式を行いまーす」



「いえーーい」



「うちらに迷惑をかけた罰として、長くて、綺麗な、みはるちゃんの髪を切りまーす」



「いえーーーーい」



みはるの髪が引っ張られる。

体は押さえつけられているので、動けない。




「いや、やめて」



みはるは抵抗するが、

みんなは笑いながらその光景を眺めている。



「はーいじゃあちょっと大人しくしててねー」


こそばがみはるの髪をぐいっと上にあげる。



「いやぁっ、どうして…友達じゃなかったの…」



ジョキッ



髪の毛が、ハラリ、ハラリと落ちていく。



形の不揃いな髪ガタができあがっていく。



みはるの足元はたくさんの髪の毛で埋め尽くされた。



ジョキッ


ジョキッ






髪を切られたみはるは、その場でうずくまり、ただ、ひたすら耐えていた。




「ビッチ」

「不潔」

「汚い」

「死んじゃえ」

「あんたなんかもう友達じゃないから」






みはるは、切られた後も長い間、そのまま地面に突っ伏しているままだった。


そして四人は




みはるを一人残して、部屋をあとにした。



「うっ…うう…」



みはるは一人になった後、静かに一人で泣いていた。



どれくらい、時間が経ったであろうか。



がたん、と、ふいに背後で音がした。足音が、みはるのそばまで近づいてくる。



みはるは顔を上げられなかった。



そして背後から、声がかけられる。



「みはる」



みはるは、その声を聞くやいなや、すぐに振り向いた。

目には大粒の涙で溢れている。



「せん…せい…」


視線の先には、小磯先生がいた。

短くなったみはるの髪をみてもなお、微動だにしない小磯先生に、みはるは抱きついた。



「先生…先生!わたし…!」



みはるが口を開くと同時に、小磯先生は言葉を、口にした。


「俺は、正しい道を歩んでいたんだ。」

「え?」


小磯先生の目の焦点は、どこか、遠くを見ていた。



みはるは先生の方に手を回しつつ、先生をじっと見つめる。



みはるの動きに関心がないかのように、小磯は話を続けた。


「小さい頃から、親の言うことを聞いて、何一つ間違えずにそのまま親の敷いたレールを歩いてきたんだ。私立の小学校に行き、有名大学付属の中学に入り、高校では生徒会長を務め、大学では一つも単位を落とすことなく卒業をした。GPAは、3.8だった。そしてそのまま教授の推薦でこの学校に先生として赴任したんだ。」



「どうしたの…先生…」


先生は、瞬き一つせず続ける。


「俺の人生は、順風満帆だったんだ。」


手には、鈍器のようなものが握られていた。


「お前さえいなければ!!!」


そして、みはるの頭を、その、鈍器のようなもので殴った。一回だけではなく、続けざまに、なんども打ち付ける。

今までの自分の過ちを悔いるように、誰かを、憎むように。


みはるは声にならない声を出しながら、頭をかばった。頭からは血が流れている。


先生は、いつの間にか鈍器のようなものを手から離し、拳でみはるを殴っている。


「どこで俺は道を間違えた?そうだ、お前が俺に告白してきたのがいけないんだ。俺たちが付き合っていなければこんな理不尽に職を失うなんてことはなかった。全部お前のせいなんだお前のせい。なぁみはる、どう償ってもらおうか?」


先生の手は、次第にみはるの首をしめはじめる。ゆっくりと、力強く。みはるは朦朧としながら、先生の名前を呼ぶ。


「せ……ん……」



先生は、みはるをみているようで、みはるをみていない。


「なぁ、お願いだよ…みはる…。」


みはるは、抵抗するのをやめた。腕が、だらしなく下がる。


「俺の前からいなくなってくれ…お願い…お願いだよ…みはる…!!!」


そこで、先生はハッとして、みはるがもう動いていないことに気づいた。


「みはる…。みはる…?あれ、おい、嘘だろ、…なんで動かないんだよ…違う、俺じゃない、俺のせいじゃない」


恐怖に駆られた先生は、みはるから手をはなした。そして、恐る恐るといったように血を流し動かないみはるに話しかける





「みはる、おきて、起きて、起きろよみはる。どうして…みはる…。あ、ほら、これみはるのだろ、飲んだら楽になるよ、水飲みなよみはる…みはる…。

起きないなぁ、みはる。うん、そうだ、みはるはきっと寝てしまったんだ、だから動かなくなってしまったんだ。あは、そうだ、そうだ。…ほらみはる、起きて、早く起きて、また僕と一緒に暮らそうね、みはる…」


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