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夢から覚めたら  作者: もどきぬん
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せんせい。




目を開けると、みはるは昼間の高校にいた。



自分の姿をみると、体操服に身を包み、校庭の隅にある体育館倉庫の裏手にいた。


「みはる?急に黙ってどうしたの?具合悪い?」



目の前には海崎結衣、高垣彩香、生田太一、向井武の四人がいた。




「う、ううん、全く。」



それならよかった、と四人はお話を再開する。

どうやら、授業の体育をサボって私を含めた五人でおしゃべりをして楽しんでいるらしい。



校庭では、5人を探す体育教師の小磯先生の姿が見える。





「みてみて、うちらのこと探してるよ」



「こいせんには悪いけどさ、テニスの球打ち30分なんてどんな苦行だよって感じだよね」




みはるは、小磯先生を困らせることに罪悪感を感じたが、ここで授業に戻る提案をしたら場を白けさせるのはわかっていたため、何も言わなかった。それに、まぁこれは夢だからいいか、と自分を納得させる。



(そういえば、また、この四人と一緒か…。最初の夢の時も元々私と仲良い、って設定だったし)



みはるは、最初のカラオケの時の夢を思い出す。もしかしたら、夢で見た人間関係などの関係性は、次の夢に関係していくのかもしれない。




「おーまーえーらーこんなところにいたのか!!」



「げっ!!やべぇ見つかった!!」





体育倉庫裏から顔をのぞかせた小磯先生は半ば呆れたような様子で、退路を断つように五人の前に立ちはだかる。


しかし、一瞬の隙を見て倉庫の反対側の隙間から私たちは脱兎のごとく逃げ出した。先生は焦って追いかけてくる。追いかけてくる先生を振り返った瞬間私は足をもつれさせて、盛大に転んでしまった。



「大丈夫か?!」



足からは血が出ており、白い靴下を赤く染めるほどだった。


(ゆ、夢なのに痛い)


四人と、先生が心配してみはるに声をかける。


小磯先生は足を動かせないみはるの肩を支え起き上がらせ、そして生徒へテニスの試合を続けるように指示を与え、保健室へと向かう。



歩けないみはるの肩を支える先生の体温が腕から伝わってきて、みはるは保健室にたどり着くまでの間、ずっとドキドキしていた。



小磯先生はみはるをその間もずっと心配してくれていた。




保健室につき、扉を開けるが中に保険医の先生はおらず、保健室は薄暗かった。



電気をつけ、みはるは椅子に腰掛ける。


歩けないと思ったら、どうも血が出ているだけでなく、足をくじいてもいるようだった。




先生はみはるの足を手で支えながら怪我の傷口に消毒液をぬり、絆創膏を貼る。



手が直接足に触れるたびに、なんだか、変な感じがする。



みはると小磯先生は長い間無言だったが、恥ずかしさのせいか、みはるがそんな小磯をちゃかす。



「わぁ先生、女子高生の足触ってる〜」


「え?!う、うるさい。そんな言い方するなら手当してやらないぞ」



小磯先生はどこか、照れているようだった。



みはるはそんな先生の顔をじっと見ていた。



先生の顔は、なんというか、醤油顔という感じで、みはるのタイプの顔ではないのだが、やはりその人柄に惹かれたのだろうか、と、みはるは少し考えた。



小磯先生は、テーピングをするためのテープを探すために立ち上がり、保健室の棚へと向かう。



みはるはわざわざ先生自ら保健室に付き添ってきてくれ、その上治療までしてくれることを嬉しく思い、感謝の言葉を口にした。

「先生、ありがとうございます。」



「いーえ。新谷のためだったらいくらでもやりますよ。」



「え…?(そ、それって…)」




「ははは、新谷は可愛いなぁ」



そういい、小磯はみはるの頭をぽんぽん、と撫でる。


みはるは動揺した。顔があかくなる。





(夢だからなのか…先生がめちゃくちゃドキドキするようなことしてくる〜!)



恋愛経験のないみはるは、小磯に少しからかわれただけで舞い上がってしまう。



そして小磯は棚から持ってきたテープをみはるの足に巻きつけていく。



「お前とこうして二人になるのも、あの時以来だな。」




「え?」




あの時って、どの時なのだろうとみはるは考える。




「ほら。お前が進路に悩んでて泣きついてきた時だよ」




ああ、と、みはるは思う。

そういえば、高2の初めに、まだ先の受験が不安で先生に相談したんだっけ。

その時にみはるは国立に進もうと進路を決定したことを、思い出す。




「あの時から、随分とお前もがんばったよな。急に成績が良くなってびっくりしたよ。」


えっ、とみはるは言う。


「先生私の成績があがったの、なんで知ってるんですか。」




担任の先生でもないのに、生徒の成績を知っているなんてことは、あまりないことだった。



「えー…だって…あんなこと言われたら、いやでもお前のことが、気になるじゃないか。」



(あんなこと?)


みはるには、心当たりが無かった。


みはるは先生に、あんなことって?と聞く。

先生は顔を赤くしながら言う。



「あの時…新谷が俺に告白してくれた時のこと。」


「え?!」


みはるは、驚いた。


現実では進路相談しかしてないはずなのに、夢の中ではその時私が小磯先生に告白したということになってる?!



「あの時、おれ、はぐらかしちゃったんだけど…本当はすっごく嬉しかったんだ。ずっと気になってた生徒からそんなこと言われて…」



「先生…」


先生の顔は、真っ赤なままである。



テーピングはもうすでに終わったはずなのに、先生はみはるの前から動かなかった。


「ねぇ新谷、今もあの時と同じ気持ち?」



「え…」



みはるは言葉に詰まる。

突然のことにどう返していいのかわからなかった。



すこしずつ、心を落ち着かせながら、先生に言う。


私の、私の気持ちは



「は…い」




そう言った瞬間、みはるは抱き寄せられた。



自分の背中に回った先生の腕に、力がこめられる。



みはるの心臓は波打ち、はちきれそうだった。



「嬉しい…うわー、やばい、顔がにやける…

おれも、こうゆうの、ダメだってわかってて、ずっと返事言えなかったんだけど…。…俺も新谷が好きです。…ダメな先生でごめんね」




「先生…」





みはるは抱き寄せられたその胸に顔を埋めた。



みはるは、幸せだった。






その時突然、乾いた拍手が聞こえる。



「パチパチパチ〜

いいお話でした、まるで少女漫画のようです」


顔を上げるといつの間にか先生はいなくなっており、少し先の方に拍手をしているセールスマンがいた。



暗くて何もない空間にみはるはまた来たのである。


「お前は、セールスマン…」


実はみはるは先ほどまでが夢だということをすっかり忘れていた。そんなみはるをいいところで現実に引き戻したセールスマンに多少の嫌悪を覚えた。




「あんた、私のこと…バカにしてるでしょ?」


めっそうもない、といったようにセールスマンは頭を振るが、その顔はにやけている。



「先生と付き合う夢、楽しかったですか?」



みはるは静かに頷く。好きだった先生に好きだって言われて抱きしめられて、最高の気分だった。




「それはよかったです。あなたが満足しているのなら。でも…勘違いしないでくださいね。これは夢であって、現実ではないのですから。」



「…わかってるよ。」



勘違いするわけない。こんな幸せな夢、実現するわけないのだから。



「ならいいのですが。」


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