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夢から覚めたら  作者: もどきぬん
2/11

夢の中の、わたしは

高校二年生女子、名前を新谷みはるという。


みはるは私立高校に通う、地味で、真面目な女の子だった。なんていうか、教室のすみっこでいつも一人で本をよんでる、みたいな女の子。


人と話せないわけではないのだが、かといって特定の人といつもつるむわけではない、いい意味でも悪い意味でも空気。そんな子だった。


黒髪メガネにおさげ姿で、制服であるセーラー服のスカートはいつも膝下。

目は前髪で隠れていて暗い性格のように周りから見られることが多いのも、友達が出来ない理由の1つである。


家と学校を往復する毎日。学校で話し相手もいなければ、両親は昼夜逆転の生活を送る仕事をしているため、美春は家に帰っても話す相手はいなかった。




そんな美春は毎日、授業の休憩時間など暇さえあればノートに何かを書いていた。彼女の唯一の趣味だった。



○月x日 今日は友達とパンケーキを食べに行った。


☆月°日 今日はポカポカ陽気だったから、彼氏とお散歩に出かけた…



一言で言ってしまうと、妄想日記だった。

妄想の中の自分は、人に心を開き、素直に言いたいことが言える人物であった。友達も彼氏もいて、おしゃれにも気を使い、制服を着こなす、今時の女子高生な自分…。


本当は、そんな自分になりたかったのである。


周りのひとは彼女がそんな思いを秘めている事は微塵も感じていないだろう。

美春が書いているのは妄想日記も、物語を作っているのではなく、勉強の類だと思っているに違いない。




そして今、授業が全て終わった後に、日記に友達と一緒に遊んだ話を書いた。妄想というよりは、もはや創作物の物語に近い。



みはるはため息を吐きながら、ノートをパラパラとめくる。

妄想日記ももう13冊目だ。いい加減虚しい。

ノートを閉じ、椅子に座りなおす。


教室内の賑やかなクラスメートの会話が聞こえる。聞こうと思っているわけではないのだが、いやでも耳に入ってしまうのだ。


なにやら今から行くカラオケの話をしているらしい。


メンバーは男女2:2で合わせて4人ほどのグループ。グループの中の一人の女生徒がクラスの他のメンバーをカラオケに誘っていた。




彼女はそれを横目でちらりとみながら、いつものように何もみていないふりをして、あたかも机の上に置いてある水筒を取るためといったような動作をした後、実際に水筒を手に取り、中のお茶を一口か二口ほど、飲んだ。



「ん?」


なんだか今日のお茶は味が違う気がする。家にストックしてある麦茶はいつ作ったものだったろうか…。









そんなことをぼんやりと思いながらワイワイとうるさく騒いでいるその学生グループを眺めている。



女の子たちは2人ともおしゃれでかわいい。


(私もあの子たちみたいに可愛かったら、あの中に入れるのかな…)




いいなぁ、と思った。

私もみんなとカラオケに行きたい、あの輪の中に入りたい、と。そして、そんなこと出来やしないとも。



「夢でもいいから、理想の自分になりたいなぁ」



そう、つぶやいた瞬間だった。


急激な頭痛がみはるを襲った。



「いたっ…」



あまりの激痛に、目を開けていられなかった。

目の奥がチカチカして、体がふわふわしてくる。気持ち悪くて、みはるは体を机に預けざるおえなかった。

だるくて、暑くて、いやな感じだった。



「うう…」



…どのくらい時間がたったのだろうか、

だんだんと頭痛が治まり、目をあける。



「え…?!」



目を開けると、みはるはカラオケにいた。




「あいたかったー、あいたかったー、あいたかったーイエス!!!!きーみーにーー」



横ではクラスメートの生田太一という男の子がAKBの歌を歌っている。



「ど、どうして…?」


今まで教室にいたはずなのに、気がつくと、カラオケのソファに座り、先ほどのクラスメイト4人に囲まれているのだ。


私が混乱していると、

隣に座っていた4人のうちの一人である、クラスでもお洒落で目立っている海崎さんが話しかけてきた。



「どうしたの?みはる、ぼーっとしちゃって。はやく曲入れなよ。」



「か、海崎さん?」


みはるは驚いた。今まで一度もみはる、なんて親しげに呼ばれたこともないし、こんなくだけて話したこともないのに。



「海崎さん?何言ってるの?いつもみたいに結衣って呼んでよ。」



「え…」



パニックになりそうなこの状況を頭をフル回転させて考える。


なんだ、どうして、こうなってる??


まるで、なんだか、リアルな夢を見てるみたい…。


その時、クラスで二番目に可愛いクラスメートの高垣彩香が反対の席からデンモクを見せながら言った。



「みはる!みはるの18番の曲入れちゃったからね!歌いなよ!」



デンモクには、確かにみはるのよく聞く曲名が映し出されていた。


「なんでその曲が私の18番だって知って…」



言葉を言い終える前にみはるの目に、ふと、デンモクの画面にうつる自分の姿がうつった。それを見てみはるは驚く。

メガネがなく、おさげもなく、そして今時の女子高生風のに制服を着こなしていたのだ。


「?!これ、わたし?!」



その瞬間、

ハッと気付いた。



(…そうか。





これは、夢なんだ。




あの水筒の中身を飲んだから、理想の夢をみているんだ。)




みはるは、先週のある1日を思い出した。




その日、試験前日のみはるは深夜自宅で1人、勉強をしていた。そして、勉強の合間に取る休憩でみはるは、テレビを見ながらお酒を飲んだのだ。


いや、みはるは高校生だし、お酒はダメなのだが、冷蔵庫に入っていたほろよいを缶ジュースと勘違いして飲んでしまったのだ。


そして、深夜3時頃、もうこの時間帯になると面白い番組などなかったので、たまたま流れていた通販番組のチャンネルをつけたままにしていた。


その番組は、インチキ臭そうな番組であり、深夜でなければ放送されないようなものだったと思う。


そこで紹介されていた商品は、夢の中で自分の好きな夢が見れるという、インチキそうな番組にふさわしくいかにもインチキ臭い商品であったが、アルコールに弱い彼女はお酒の勢いもあって頼んでしまったのだ。



(その商品名は…なんていったっけ、確かドリーミング?)


それを今日お茶代わりに水筒に入れてきたのを思い出した。あんなの、絶対にインチキだと思っていたが、まさか本当に、本物だったなんて。



(それにしても、なんてリアルな夢なんだろう。現実とこれじゃ区別がつかないくらい…)



みはるにとって

夢とはもっと、ぼんやりしているものであって、こんなにはっきりと意識があるものではなかった。



それで混乱してしまったのだが、この不思議な現象もドリーミングのせいだとすれば全て説明がつく。




みはるは、友達が欲しかった。友達と、一緒に遊びたかった。



そして今、その妄想が夢の中で、実現しているのだ。




(なんて…素敵なんだろう。)



みはるは、そう思った。

みはるの気分は今、最高だった。

この夢の中なら、自分の思い通りに話が進んでいくのだ。



「はいマイク!歌って!」



クラスメイトから渡されるマイクに、みはるは今までにないほどの笑顔で答える。



「うん!!みはる歌いまーす!」






みはるは、思いっきり歌った。今まで自分を抑えていたものを取り払うかのように、大きな声で、歌った。


今までのみはるは、人からどう思われているかということに囚われ過ぎていて、自分を出せずにいた。



平凡で、静かに、平和に波風起たさず生きられればそれでいい。



そう、妥協してしまったみはるは、今の、地味で真面目で、空気な自分の姿を作り出してしまっていたのである。





(でも、本当の私は…



本当になりたかった私は、


みんなと同じように、おしゃれして、遊んで、はしゃいで、楽しんでる自分!)




…みはるは、楽しかった。この状況に、興奮していた。



だから、


あたりが急に静かになり、カラオケの部屋が消え、じぶんが真っ暗な空間に一人立っていることに、


「あれ?」


クラスメイトのみんながいなくなるまで、気がつかなかった。





「ち、ちょっと待ってなにここ…?真っ暗?みんなはどこ??ていうか、なんでなにもないの?」




しかし、みはるは不思議さを感じこそすれ、恐怖を感じはしなかった。ここが夢だからだろうか。



その時、背後から不意に声がした。




「こんにちは」


「えっ、誰?!」


みはるは突然声をかけられたことに驚いて、後ろを振り返った。


そこには、どこかで見たことのある、ピンク色のスーツを身につけた狐顔の青年が立っていた。



「私は、セールスマン!」


「セールスマン…?」



「あなたがお飲みになった商品の、セールスマンです!!ほら、テレビに出てた!」


「あ…ああ〜!」


そういや、ドリーミングを飲んだ客の夢の最後にセールスマンが出てきて感想を聞くと商品の説明書きに書いてあった気がする。



(なるほど。こんな感じで現れるんだ)



セールスマンは、手を揉み、爽やかな笑顔で語りかける。



「それで、どうでした?ドリーミング。」



みはるは、笑顔で答える。



「とってもよかったです!新しい自分になれたっていうか…なんていうか、すごい…」



「そうですか、それはよかったです。今回新谷さんがお買い上げなられたのは、ドリーミングお試しセットです。もし、この夢の続きを見たいのなら、1番お得な『初めてセット』の購入をお勧めいたします。続き、みたいですよね?」



「え…と」



みはるは悩んだ。というのも、最低でも100本から3万円で売っているドリーミングは、時給980円のコンビニバイト学生の身にはかなりの負担であるからだ。


そんなみはるを尻目にセールスマンは口を開く。



「悩んでいらっしゃるようですね…無理もありません。学生には安くはないお値段でしょう。ここは改めて後日またにしましょうか。…まぁ、初回で買わないと初めて割が適用されないんですけどね…その場合5万円になるんですけどね…分割払いも後になるとできなくなりますしね…」


「うっ」


(脱毛サロンかよ…)


5万円を出すことは、週2で朝の時間のみしか働いてないみはるに払うことは不可能だった。

だから、ドリーミングに楽しさを感じてしまい、なおかつ金欠のみはるを陥落させるには、今の説明で十分だった。



「買います…」



「さようですか!!お買い上げありがとうございます!」



みはるは自分の収入と支出を考える。


(うう、やっぱりきつい…


1日1本ということを考えると、一粒240円くらいか…?

高いな…

お年玉切りくずすしか…)




「では商品の注意事項を説明させていただきます。商品は、必ず1日1本以上は…って聞いてます?」



「えっ、あ、はい?なんでしょう?」



「ちゃんと聞いてくださいよ〜大事なことですから。」



みはるはすいません、と、口では謝っておきながら、やっぱり頭の中は金額のことでいっぱいで、注意事項のことなんて、上の空だった。


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