夢か現か
「皆さんこんばんは!テレビ通販、マリオネットの時間でございます。」
深夜3時。
大抵の人たちが寝ているこの時間、その通販番組は
やっていた。
テレビ画面にはピンクスーツに身を包んだキツネ顔のセールスマンと、厚い唇を真っ赤なルージュで染めた中年の女性の二人が笑顔で映し出されている。
スタジオは一般的なセール番組の形態であり、机の上には商品である飲料が並べられていた。
「本日紹介するのは「ドリーミング」という、名前の通り夢のような飲料水でございます。この薬は、寝る前に、一度口に含むとあら不思議!自分の思い通りの夢を見る事が可能なのです!気になるあの子付き合いたい!もしも僕が受験に受かってたら!など、あるはずのない未来を、体験できるのです。」
男が話すのに合わせ、画面のモニターが瞬時に切り替わる。
理想が夢の中で現実になるなんて、なんて非現実な商品なのだろう。
「ここで体験者の声をお聞きしましょう。東京都世田谷区にお住まいの桂木宮子さん。宮子さん、商品の使い心地はどうでしたか?」
隣にいた中年の女性が大げさな笑顔を作りながら口を開く。
「ドリーミング、最高ですわァ!というのも私、生まれて41年、彼氏がいたことなかったんですよォ。だから、もう、地味男でもダサくてもなんでもいい、もはや夢でもいい、彼氏ほしいィッ!!と思って、ドリーミングを飲んだんですねェ、するとあら不思議ィ!
本当に理想の彼氏が出てきて夢のような生活をおくることができたんですゥ!まぁ、夢なんですけどねェ!イケメン彼氏に壁ドンも壁ずんも床ドンも一通りやってもらいましたァ!もう、思い残すことはありませんン!」
隣で相槌をうっていたセールスマンは、再び爽やかな笑顔をつくる。
「さぁ、皆様もどうですか?ドリーミング。試してみませんか?
今ならお試しセットがなんと、3900円!
お使いの際は使用容量をお確かめの上、ご使用ください。
…え?ワンセット買いたい?
お買い上げありがとうございます!」
応答のないのに話を進めるセールスマンは、テレビに向かってなおもにこやかに笑いかける。
「それでは、良い夢を。」