支え
ここから、先の話は
人によっては不快な表現があるかもしれません。
その事を理解し、受け入れる方はこのままお進み下さい。
『紬、一緒に帰ろう』
そう言ったはいいものの、気の利いた言葉なんて出てこなくて、仮にも彼氏可能性だというのに、変な空気感だ。
言葉が出ない自分に苛立ちを覚えてきた頃、時は既に遅く、紬の家に着いていた。
「あ、着いたね。じゃあ…」
何がどう、じゃあ、なのか。自分の言葉に疑問を感じ、しかしどうしようもなく、帰ろうとした時、
「あ!あのさっ!」
紬に呼び止められ足を止めた。
静寂。世界から自分たち以外が消えてしまったかのような。
「…上がってくれる?」
黙って頷くことしか出来なかった。
そのまま彼女部屋まで案内される。
「急にごめんね…?」
どうしても伝えて、確かめておきたいことがあったのだと彼女は言う。
「廉は…そばに居てくれるよね?どこにも…行かない…よね?」
彼女は弱々しい声を発した。
どこにも行かないよ、その言葉が喉に詰まってすぐには返せなかった。
しばしの沈黙。
「…なんでもない。ごめんね、忘れて。」
「どこにも行かないよ!」
彼女の悲しそうな声、寂しげな表情、下手くそな作り笑いに背中を押された。
やっとの思いで紡いだ不器用な本心が彼女に伝わったらしい。
紬は微笑むと、お茶淹れてくるね、と言い部屋を後にした。
残された俺は、今更ながら女の子の部屋に居るんだと変に緊張してしまい顔が熱くなった。
紬はすぐ戻ってきたが、今度は違った意味で話し方がわからない。
他愛もない話をしたのだろう。
話している中、ふと目を向けた先に時計があった。随分話し込んでしまっていた。
「長居しちゃったねごめんねまたね」
▽▼▽▼▽
『長居しちゃったねごめんねまたね』
廉が帰ってしまい、身体の力が抜けていく。言葉は無くても、そこにいるだけで支えになってくれていた。
廉だけじゃない。湊や湊音も支えてくれた。
ありがたいなと思うのと同時に、妙な感覚に襲われた。
虫の報せというやつだった。
次の日、母のいる病院から母の意識が戻ったと連絡を受けた。授業の最中だったが、そちらを優先させてくれた。
病室に着くと、母は状態を起こして座っていた。嬉しさと安堵で歩み寄る。
「紬、」
突然呼ばれた名前。思わず足が止まる。その声に、以前のような安心感がない。まるで、どこか遠いところから呼ばれているようだった。瞬間、悟ってしまった。
「紬、ごめんね」
優しい声。身体が駆け寄った。母を抱きしめた。優しく頭を撫でられる。
私はただただ泣いていて、それが母との最後になった。
ここから、この作品のエンドにまっしぐらです




