真性イケメン
※イケメンが出てきます。イケメンに拒絶反応の起こる方はすっ飛ばしてください。
(ふっふ~。今日俺、なかなか早いんでない?)
揚々と待ち合わせ場所に向かう。普段なら、デートでこんなに早く来ることもない。が、今日は特別。クリスマスなのだから。
(いや、違うな。)
単に、クリスマスだから、ではない。今年のクリスマス、最悪ならもう二度とないかもしれないからだ。 世界が終わるかもしれないのだから。
(よそう。デート前に暗いこと考えない!)
待ち合わせ場所に着くのとほぼ同時に思考を振りきる。そこにはすでに廉が立っていた。
「…おはよ。廉、早えな。他は?」
「おはよー。俺も今来たところだよ~。二人はまだ来てないよ。」
廉が気を遣ったのがわかる。廉の手は、紅く悴んでいたのだ。
「…俺には気ィ遣わなくていいのに。トイレ行ってくるわ。」
「ははは、いってらっしゃい。」
思考を切り替えるためにその場を離れた。逃げたのではない、戦略の立て直しのためだ。
(くそ、今日も廉にカッコいいとこ持ってかれんのか⁉)
いや、今日くらいは俺だって。
▼▽▼▽▼
待ち合わせ10分前、到着。私が着いてまず目にしたのは、、柱の影に隠れて廉を見ている湊音だった。相応の理由がなければ不審者だ。いや、あっても不審者に変わりはないのだが。
「なに見てんの、不審者さん。」
「あ、紬。出ていくタイミング図ってんのよ。」
「タイミング?」
「そ。今日くらいはオトコ共に花持たせてやろうかなーって。」
「…本音は?」
「遅れてって、ごめん待った?ってのやりたい。」
「いいな、それ。私も混ざる。」
私も、湊音とともに柱の影に隠れ、作戦に加わることにした。
▼▽▼▽▼
トイレという名目の作戦タイムから戻ると、廉が逆ナンパされていた。さらに同じ視界の端には、柱の影に隠れる湊音と、その後ろでおろおろする紬が居た。
(あいつら、なにしてんだ?)
よくわからないが、このまましばらく眺めてた方が面白そうだ。ナンパが終わるまで待とう。
「廉、なに今の。ナンパ?」
「あ、おかえり。そう、かな?一人ですかぁ?って。」
「うん、それはナンパだ。もてやがっt 」
「後ろ。あぶない。」
グイッと廉に引き寄せられる。
背後をソフトクリームを持った少女が通りすぎた。
(この時期にソフトクリームって…寒くねえのか。)
そんな疑問とは裏腹に、少女は嬉しそうに走って戻ってきた。親の所に戻るのだろうか。
ちょうど、目の前に来たとき、少女がつまづいた。不幸中の幸いで、廉が咄嗟に支えたために怪我はないようだ。しかし、その手に持っていたソフトクリームは廉の上着に見事に命中していた。母親らしき人が青い顔で駆け寄ってくる。
「こら!なにやってんの!すみませんうちの子…が」
その母親もソフトクリームの行方に気がついたらしい。さらに青い顔で、「すみません!すみません!」と謝罪している。
一方の女の子は泣きそうだ。
「あ、あいす…」
「アイスじゃないでしょ!謝りなさい!」
「お母さん、そんなに怒らないであげてください。」
廉は母親に言うと、今度は屈んで女の子と目線を合わせ言った。
「ごめんね。俺の上着がアイス食べちゃった。これでもう一個買ってきな?」
とポケットから五百円玉を少女に渡す。
「そんな…受け取れません!うちが悪いのに!」
今度は母親が狼狽えている。ここは少し助け船を出してやった方が良さそうだ。
「お母さん、カッコつけさせてやってくださいよ。」
「いや、でも…!」
「まあまあ、小さい子のやったことですし、気にしないでください。」
廉のこの台詞が、止めの一撃となったらしい。
ごめんなさいとありがとうございますを言ってから、親子は去っていった。
「ひゃー、カッコいいねぇ、廉きゅん?」
「小さい子のやったことだし、その呼び方はキモい。」
そう言いつつ、廉は満足気な顔で、かつ慣れた手つきで上着を拭き始める。
「ひゃー、やっぱ上着脱ぐと寒ィな~。」
「イケメンかよ。」
「なに、男に褒められてもなんもねーぞ?」
「あ、イケメンは否定しないんだ。」
「…死ね」
満足気な顔が、さらに紅く染まっていく。照れていてもイケメンは画になる。世の中、ただしイケメンに限るとはよく言ったものだ。
見るのに耐えかねたのか、女子二人も柱の影から出てくる。声を揃えて「ご、ごめーん、待ったー?」
やりたかったのはそれか。二人の声は上擦っていて、演技なのはバレバレなのだが、やはりイケメンはここでも炸裂し
「いや、俺たちもさっき来たとこ。二人とも、今日はお洒落だねえ。可愛いよ。」
おそらく、ここで俺と女子二人の思考は一致した。
(イケメンめ…!)
どーも、イルミネです。
三人(イケメンめ…!)
私(イケメンめ…!)
ただしイケメンに限るとは、ホントよく言ったものです。生きづらい世の中だぜ…