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第二章 華想学会はカルトで犯罪者集団だった!?


 伯父さんに家の居間に案内される。

 伯父さんの家は昔ながらの日本家屋と言った外見をしている家だ。

 壁には掛け軸、床には陶器、花などが飾られている。

 居間は畳の部屋だった。

 「お茶でも飲みながら語り合おうじゃないか。今からお茶を入れてくるよ、優。」

 伯父さんはよっこらしょと言いながらのっそりと台所へ向かっていった。

 僕は何をすればいいか分からずに困り果てていた。

 伯父さんがゆっくりとお茶を入れて居間に戻ってくる。

 湯呑に入った熱い緑茶を差し出される。

 一体伯父さんは何の用事があって僕を家に入れたのだろうか?

 そんな事を思っている事に伯父さんが感付いたのか、真摯な顔になって僕に語りかけてくる。

 「優、お前は自分で何をやっとるのか分かっとるのか?お前は罪もない女性に対してストーキング犯罪を行っているのだよ。」

 僕は言っている意味が分からなくて呆然とした。

 「優が産まれつき難病を持っているということは知っておる。そして私の弟、優のお父さんである拓也が華想学会に入っていることは知っておる。かつては私も華想学会に入信していたからなあ。だが、ある時気付いたんだ。熱心に華想学会の信者でなかったからと言って、亡くなった人に対して罰が当たったなんて言うのはおかしいじゃないか。我々の仲間だった人だ。ただ今生きている事に感謝して亡くなった人には弔いの言葉を。それでいいじゃないか。おかしいんだよ、華想学会のやっていることは。」

 僕の頭の中は混乱していた。今までの華想学会がやっていることがおかしいだと?僕の病気はどうなるんだ?

口の中が異様に渇いてしまったのでお茶で喉を潤した。

 僕は頭の中を整理しながら深呼吸をして伯父さんに反論した。

 「僕のやっていることは犯罪なんかじゃない!これは僕の病気を治すための行為なんだ!華蓮上人様に認めて貰わないと幸福にもなれないんだ!伯父さんだって華想学会会員だったのでしょう?何故分からないの?あの女性が誰であるかなんて知らない。ただ僕は集会の会長に言われたことをやっているだけなんです!やらないと幸福になれない、仏敵だから、病気も治癒しないんだ!」

 伯父さんは鋭い目線を僕に向けてきた。

 「華蓮上人様……華蓮上人様…私も以前はそうだった。だが先程話したように優のやっっている事は罪もない女性を追い詰め女性も、華想学会会員の人間も危うい事態となるだろう。人を殺すということは自分にも同じ因果が回ってくるということだ。直言すると、ストーキング犯罪をして女性を追い詰めたところで優の病気は治らないし、幸福になるわけではない。自分が自分らしく生きられるように精一杯努力してこそ、一瞬の幸福は手に入るんだ。犯罪行為なんてしたらそれこそ女性にしたことが全て返って来るだろうて。」

 僕は聞いていて頭の中が真っ白になった。何かが根こそぎ取れた感じがした。気付いたら目から涙が零れていた。

 「ぼ、僕の病気は……な、治らないんだね……こ、幸福にもなれないんだね……。」

 「残念ながら、そういうことになる……。今気付けたんだから、これから努力していけばいい。華想学会に頼らずに生きていく方法、幸福になる方法を探さなければいけない。優、ようやっと目が覚めたか。これから優の両親に辛く当られたりするだろう。そういう時は私の家へいつでも来なさい。」

涙を制服の袖で拭いながら伯父さんの家を後にした。

 僕の家に帰って来た。

 相変わらず母と父は南無妙法蓮華経と唱えている。

 僕は自分の部屋で休みたかった。今日あったことを両親に言いたくもないし、言えない。

 「優ー!!仏壇の前で拝みなさい!」

 僕は無言で自分の部屋に入っていく。

 「お父さんも言ってよ!拝む時間だわ!」

 「優ー!一緒に拝む時間だぞ!何をしてるんだ!」

 僕は自室に籠りながら泣き続けた。

 ガラスが叩き割られたように全てが壊れていく感じがした。

 今まで信じていた華想学会や華蓮上人様はなんだったのだろうか……。

 分からない。産まれてから既にずっと華想学会にいたからこれからどうなって行くんだろう……。

頭の中がぐるぐるとしていた。



 翌日、両親と一緒に朝食を食べたが僕は無言だった。

 無言のまま学校へ行った。

 学校へ着いてクラスの女子達が噂話をしている。

 「ねーねー聞いた?華想学会に狙われてたって人のニュース!」

 「あーあれね!テレビで見たー!通り魔殺人なんだってさ。」

 「え?マジー?私の見たニュースでは精神病者の犯行って言ってたけど。」

 「違うよー。華想学会にストーキング犯罪されてた女性が発狂して華想学会会員と思われる人を包丁を3本準備して6人殺したんだって!」

 「さすがカルト華想学会だね!よっぽど恨まれるようなストーキングしたんだよ!あー華想学会怖い怖い。」

 そうか、世間では華想学会はカルトだったのか。

 僕は何も知らなかった。伯父さんの言っていた通りだ。

 (罪もない女性を追い詰め女性も、華想学会会員の人間も危うい事態となるだろう。人を殺すということは自分にも同じ因果が回ってくるということだ。)

 僕は無気力に席に座って頬杖を付きながら窓の外を眺めていた。

 「優、おはよう!最近あんたおかしくなかった?急に熱狂的になったり冷静になったり……。今日はなんだか元気がなさそうじゃない。どうしたの?」

 この子は僕の友達で池田雅美という。快活な子で唯一心の奥底を話せる存在だ。

 「あのさ、華想学会に入っていることは言っているよね?そこで華想学会のやっていることは犯罪だってある人に言われたんだ。それが僕も幸福になる為に、女性に犯罪をしてしまった。クラスの女子が話してた、通り魔殺人になったのは僕のせいなんだよ……。」

 思わず嗚咽が漏れそうになる。

 「……そっか。そういうことだったのね。今気付けたんだから次から変えていけばいいわ。優が華想学会だからということで言いにくかったけど、世間では華想学会は犯罪集団だって有名よ?家の中に入って物を荒らしたり、情報収集部というものがあって個人情報をハッキングして抜き出すんですって。尾行やストーキングは有名な話ね。組織犯罪に加わってしまったという事なのね。今からでも遅くはない。華想学会を脱退して真っ当に自分が幸せになる道を探しましょう!」

 雅美は優の背中を撫でた。

 僕はまた華想学会がカルトであり犯罪者集団と言うのを見せつけられて、声を押し殺しながら顔を隠しながら泣いていた。

 何もかもが崩れていく。信じていたものがあればこその強さだったんだ。

 僕は今雅美から見て弱く映っているだろうか?

 弱く映っていたとしたら、これから強くなっていくしかない。

 信じていたものが壊れることはこんなにも辛い……。でも生きなければ。顔を上げなければ。

 「雅美、聞いても良いかな?」

 僕は俯きながら雅美に尋ねた。

 「ん?何?」

 「華想学会を脱退するためにはどうしたらいいと思う?」

 「そうね……。華想学会を脱退した人の話を聞いてみるとか。後は華想学会とは関係ない人の話を聞くのが良いんじゃないかしら?私も華想学会には入信していないわけだしね。」

 雅美は眼を見開いて言う。

 「でも、注意したほうがいいわ。華想学会脱退に関しても華想学会の連中は尾行、ストーキング犯罪をしてくるって有名だから。私は優の脱退を手伝うから、何か考えておくわ……。」

 僕は唾を飲みこんだ。



 その後、僕は殆ど白い霧の中に入っているかのように授業を受けた。

 授業内容はまるで別世界の話しのようだった。

 僕が生きているのか、死んでいるのかさえ分からなかった。

 それもそうだ。今までずっと華想学会に入信していて急に脱退という話になったし、僕が妨害行為を行っていた女性は僕達華想学会会員のせいで発狂して華想学会会員と思われる人達を通り魔殺人したのだから……。

 色々な事が頭の中で絡み合う。

 もしも僕が妨害行為なんて女性にしていなければ仲間を失うことはなかったのだろうか?そもそも通り魔事件はいつに起きたのだろうか?伯父さんと話した後か?

 あの日僕はいつものように妨害行為をしようと思っていたら伯父さんに家に入るように誘われた。たまたまだろうが運が良かったのかもしれない。いや、これは悪運とでも言うべきか?失われた仲間に対して運が良かったというのは失礼ではないのか?

 仲間に対する申し訳ない気持ちと、僕の命が助かったんだという仲間に対する裏切りの気持ちとで、僕の胸は掻き毟られる思いだった。



 僕は授業の後伯父さんの家へ行くことにした。

 今日の雅美の話し、通り魔殺人の話しなどを話そうと思った。

 話さなければいけない。伯父さんに会いに行かなければ。

 いつもの家路の途中に伯父さんの家はある。

 緑の多い住宅街だ。

 アスファルトの隅には花壇があり花が咲いており、道には森の中へ入って行くような蔓科の植物が覆い茂っている道もあった。

 伯父さんの家の呼び鈴を押した。

 ……誰も出ない。

 今日はいないのかな?

 嘆息しながら伯父さんの家を去ろうとすると、伯父さんが扉を少し開けながら誰か窺うようにああ、優か、と言いながら扉を開けて中へ入れてくれた。

 前回と同じように居間へ案内される。

 伯父さんが湯呑に熱い緑茶を入れて居間へ戻って来る。

 心なしか前回より体力があるように見えた。気のせいだろうか?

 僕は率直に伯父さんに話を切り出した。

 「伯父さん、僕、華想学会を抜けたい。どうすればいいの?クラスの友達が話していたんだ。僕が妨害行為を行っていた女性が通り魔殺人事件を起こしたって。しかもその被害者が華想学会会員なんだって……。僕もうこんな仲間を失うようなことはしたくないよ!僕のしたことでこんなことになるなんて夢にも……。」

 伯父さんが唐突に話を遮る。

 「分かっておる。優からその言葉を聞けると思っておった。仲間か……。かつては私も仲間だったが、今は仲間とは思っておりゃせん。言っただろう。人を殺すということは同じ因果が回って来るのだと。今回はその因果が回って来たに過ぎん。こんな事件が起こるだろうと思っておった……こんなことは言っては何だが優が助かって良かった……。」

 僕は体育座りで蹲りながら嗚咽を漏らしていた。

 「まずは華想学会脱退についてだ。華想学会脱退については優の両親が華想学会に入っておるからのう。優の両親と私は殆ど絶縁状態だが……優の両親を説得するしかない。そのために私も優の家へ行ってもいい。優自身も両親を説得するんだ。まずはそこから始めよう。」

 僕は涙を目に蓄えながらこくりと頷いた。

 「華想学会脱退についてだが、奴らは華想学会の秘密を知っている奴を始末しにくるだろう。つまり優も優が妨害行為を行ったことと同じようなことをされるということだ。気を付けなければならない。心してかかれ。」

 伯父さんは鋭い視線を僕に向けながら言った。

 「ところで通り魔事件はいつ起きたの?あの日僕は夕方に伯父さんの家へ居たじゃない。僕が帰った後?」

 僕は唐突に話を振る。

 「そうだ。優が帰った後だよ。夜の6時頃だっただろうか。華想学会会員の子供2名、その親2名、毎回ゴミを片付ける振りをしておった会員1名、工事員1名、が滅多刺しにされて殺されたという事件だ。その後、通り魔殺人した女性は血まみれになった体で倒れておったから発見され警察と救急車に通報されたそうだが……。こんな事件はもう二度と起こしてはいけないよ。これは華想学会が招いた事件でもあるのだから……。」

 僕は息をする隙もなくまばたきを繰り返していた。

 「両親をもしも説得出来そうになかったら私を呼びなさい。分かったね?私はいつでも待っておるから。」

 僕は伯父さんに礼を言って伯父さんの家を後にした。

 僕は家路について僕の家へ帰って行った。



 いつもの僕の家に帰って来た。

 母と父が拝みなさい!と僕の肩を掴んできた。

 僕はなんだよ、と母と父と睨み合いになる。

 「どうしちゃったの?急に拝むのをやめて。」

 「そうだぞ、お前の病気は難病でな……治すのにお母さんもお父さんも苦労してようやっと見つけたのが拝むことなんだぞ!」

 僕は沈黙していた……。分かるのだろうかこの人たちに?僕が説得出来るのだろうか?華想学会はカルトで犯罪集団で犯罪に協力しているだけなんだってことが。

 僕は沈黙を破り喋ることに決めた……。

 「父さん、母さん、良く話を聞いてほしい。父さんと母さんが拝んでいるこの華想学会の拝みでは僕の病気は治らないし、幸福にもなれないんだ。」

 まあ、どうして、何を言い出すんだ優、と父と母が目を見合わし混乱し始める。

 「華想学会を僕は抜けたい。母さんも、父さんも、華想学会を抜けよう。見たでしょう、こないだの通り魔殺人事件。あれは華想学会員の人間が殺された事件なんだ。母さんも父さんも女性の近くで布団を叩く振りをして大きな音を出していたいじゃないか!あんな通り魔事件が起きてしまったのは、父さんや母さん、僕のせいなんだよ……。あんな事件が起きないようにしないといけない。」

 あれは仏敵が悪いじゃないの、そうだそうだと父と母が喚き散らす。

 僕は精一杯深呼吸して言う。

 「あれは仏敵が悪いわけではないんだ。仏罰が下ったとしたらそれは僕ら側に下ったんだよ。だから華想学会の人間が6名も死んだ。父さん、母さん、分からないの?仏敵が僕ら側で仏罰が下ったのは僕らなんだ!何の罪もない人を仏敵とし仏罰を下すなんてことは間違っているんだ!本当に仏様が居るとしたら僕らの蛮行に罰を下したのは仏様なんだよ。それは華蓮上人様ではない!天から見ている仏様が僕らをきちんと見ていて、僕らを悪と見なしたんだ。もうこんなことは止めよう。止めるべきだ。僕は華想学会を抜ける。」

 母はもう私倒れそう……と言って頭を抱え膝を床に付いた。

 父はお前の言った事に納得しているわけじゃないからな、今日は母さんの調子が悪いので一端話を終るが、また明日話すぞ。と言って倒れそうな母を抱えて寝室に母を連れていった。

 翌日の朝食は険悪な雰囲気だった。

 母は箸を握ってはいるが震えている。

 父は右手で拳を作りながら口を真一文字に結びながら味噌汁を左手で口に運んで行く。

 父は一言だけこう言った。

 「帰ってきたら話がある。」

 僕は沈黙していた。

 僕は礼儀として行ってきます、とだけいって学校へ向かった。

 太陽は燦々と差し込んでいる。

 花壇の花は生命の息吹を感じるように真っ直ぐ太陽の方向を向いている。

 蔓科の植物は原生林を感じさせた。

 こんなにも自然は生きている。

 なのに僕はどうしてこんなにも朝から何の希望も感じられないのだろう。

 頭の中に白い靄が包みこんでいた。

 あー何も考えたくない。

 けれどいつもやって来る太陽と月。

 現実は回って来るしやって来る。

 自分がどんな状態であれ現実は突き付けられて行くんだ。

 白い靄の中現実感が遠のいていく感じがした。

 学校へ着く。

 華想学会を脱退しようとする前は、授業も楽しかったような気がする。

 何気ないことが輝いていた気がする。

 今では僕に仏罰が下っているのか……なんて考えながら失笑していた。

 背中を誰かがバシンと叩いてくる。

 僕は叩かれた方向に振り返る。

 「優!どうしたの?そんな沈んだ顔しちゃってさ!もしかして、華想学会のこと……?」

 僕は何も答えない。

 「そう、華想学会の事なのね……。あのね、私の両親にも華想学会で悩んでいる優の事を話してみたの。そしたら華想学会脱退を私の両親も手伝ってくれるんですって!」

 僕は沈黙している。

 「……余計な事しちゃったかしら?」

 手で口を押さえながら雅美が言う。

 僕は雅美に重たい口を開く。

 「僕は華想学会から脱退したいという事を両親に言ったんだ。そしたら母さんは調子が悪くなるし父さんは殴らんばかりの雰囲気さ。僕の家族は滅茶苦茶だ……それも僕に仏罰が下っただけの話なんだろうけどね。」

 僕は頭を掻きながらいたずらに舌を出す。

 「馬鹿!優に仏罰が下るなんて考えは華想学会にまだ支配されている証拠だわ。本当に仏罰があるとしたらこないだみたいな通り魔事件になると思うから。優に仏罰が下るなんて考えは捨てることよ。それこそ神のみぞ知る、ということね。」

雅美は意気込んで肘から上を曲げ腕を上げてぐっと拳を握りしめていた。

 僕は雅美に授業が終わったら付いて来て欲しいところがある、と言って、雅美は大丈夫だと親指を上に上げて印を出してくれた。

 僕は目を開けたが白い靄がかかっていた。

 授業も何を喋っているか分かっているがラジオの音声のように聞こえた。

 海の中から誰かの声を聞いている。

 そんな風に聞こえる授業だった。

 目には白い靄がかかっているのでノートなど勿論取れない。

 何が書いてあるか分からないしそもそも人の顔も見えない。

 僕は視力が悪かったのでコンタクトをして授業を受けていたが、目薬をしても白い靄はなくならず授業は理解できずに終わってしまった。

 放課後、雅美と一緒に付いて来て欲しいところがあると言って伯父さんの家に案内した。

 呼び鈴を押してみる。

 以前と同じように伯父さんは誰かを窺うようにしながら注意深く家の中へ入れてくれた。

 伯父さんが目を丸くして言う。

 「おや、今日はお友達と一緒なのかね?」

 雅美は早口で挨拶する。

 「あの、挨拶が遅れました。優の友達の池田雅美と申します。宜しくお願いします!」

 深々と雅美は伯父さんに向かってお辞儀をする。

 そんなにかしこまらんでいいよ、と言いながら伯父さんは台所に行きお茶を準備する。

 雅美が小声で僕に言ってくる。

 「ねえ、この人は誰なの?優に似ているようにも思えるけど……。」

 「紹介してなかったね、僕の父方の伯父さんなんだ。僕に華想学会は犯罪集団であり病気も治らないし、幸福にもなれないと助言してくれたのがこの伯父さんさ。」

 ふーんと、雅美は手を顎に当てながら答える。

 「今日雅美を伯父さんに会わせようと思ったのは華想学会の脱退のことについてさ。どうしても僕一人では両親を説得できそうにないから、雅美を伯父さんに会わせるのが良いんじゃないかって思ってね。」

 それは良い考えね、と話している間に伯父さんが熱い緑茶を湯呑に入れて居間に戻って来た。

 「それで、話と言うのは華想学会の脱退の話しについてだろう?」

 伯父さんがお茶を啜りながら言う。

 「そうなんだ。僕の両親に華想学会を脱退したいと話したら、母さんは体調が悪くなり父さんは今にも殴り出しそうな雰囲気で……。どうにかして両親を華想学会から脱退させたい!そして僕も華想学会から脱退したい!」

 「うむ。とうとうこの日がやって来おったか。」

 伯父さんは季節を問わず何故だか分厚い綿が沢山入ったコートを着ていたが、それをふん、と脱ぎ捨てる。

 それはブンという重たい音を立てて床に落ちた。

 伯父さんの体には手首にはパワーリスト、足首にはパワーアンクルが付いていた。

 伯父さんの服はタンクトップに半ズボンという服装だったが年齢に合わずに筋骨隆々としていた。

 伯父さんの年齢は今年で50代後半の筈だが、逞しい体をしていた。

 1、2、3、4、と伯父さんがストレッチをしながら言う。

 「私はなあ、優のお父さんである拓也とは華想学会の脱退で喧嘩して絶縁しておった……。でもなあ、優の事となれば別だ。久しぶりに拓也とやり合うしかなさそうだのう。」

 すかさず雅美が入って来る。

 「私は暴力には反対ですよ、伯父さん!いきなり入って来た私が言うのは何かもしれないですが、私はまず人と人は対話出来ると思っています。だから対話を……。」

 伯父さんが雅美の話を遮る。

 「対話?人と人とが対話可能な時代なんてあったのかね?通り魔殺人事件は何故起きた?それは華想学会と被害女性の決定的な対話不可能性だろう。」

 でも…!と雅美が口を挟みかけたが伯父さんは話を続ける。

 「拓也と私は対話を試みたよ。昔にな。それでも拓也と私は分かりあえなかったし、華想学会脱退を巡って殴り合いにもなった。だが強情な拓也は華想学会に残り続けると言った結果がこれだ。優に迷惑がかかっておるとなったら別だ。拓也とやり合うしかないのだよ、雅美ちゃん。これは男同士の問題と言うやつだ。」

 雅美は苦虫を噛み潰したような顔になりながら、そうですか、と小さく言う。

 僕は伯父さんがこんな姿を隠していたなんて分からなかった!いや、以前動きが速くなった気がしたが気のせいだと思っていたからだ。

 伯父さんがスーッと息を吐きながら腕はお腹のあたりで曲げてお腹に力を集めているように見えた。

 「では、行こうか。優の家へ。華想学会脱退に向けて着替えてから出発するぞ!」


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