表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一章 気付けば華想学会入信中!

この作品はフィクションであり、特定の宗教団体、特定の個人名とは一切関係ありません。


 まさか、僕が入信していた宗教でこんなことになるとは思ってもいなかった。

 あの時僕が気付いていなければこんな弐本史上に残る大事件は起こっていなかったのだろうか。それとも別の誰かが僕の代わりに行っていただろうか。

 あの時の僕には知る由もない。運命の歯車は回ってしまったのだから……。



「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……!優の病気が治りますように!」

 母が仏壇の前で華想学会の幸福、無病息災の為のお願いの言葉を拝んでいる。

 僕も仏壇の前でお願いをする。

 南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……僕の病気が治りますように。

 僕の名前は小林優と言う。年齢は16歳で青白い肌に肩の骨格が少し発達していると分かるくらいの、やや痩せ形の体型をしている。

 僕は産まれつき難病にかかっていて、僕の病気の名前は原発性免疫不全症候群という。

 産まれつき免疫が上手く働かない為に単なる風邪が重症化し易いという病気を抱えている。そのために僕は毎日抗菌薬を飲んでいる。薬の値段はばかにならないみたいだが両親はそのことを隠しているし、お金持ちとは程遠い生活だが両親は僕に対してお金のことは心配しなくていいと言ってくれている良い親だ。

 正直言って貧しいといえる暮らしだが僕は両親に感謝しているし、難病のためにいつ死ぬか分からない。だから華想学会で良くしてくれている人、友人も含めて大切にしていきたいと思っている。

 少しばかり健康な高校生とは違うが、学校にだってちゃんと通っている。

 難病を持っているということは学校側に伝えてあるので、先生達も僕が病気がちなのを仮病じゃないかと言ってきたりはしない。

 難病を抱えているのでよく学校を休んでいた。風邪が重症化して咳が止まらない、熱が40度あるといった症状を繰り返していたからだ。

 僕の産まれつきの病気のために両親は治す術を探ったという。しかし現代医学ではどうにもならないと知り、知人に勧められたのが華想学会への入信だった。

 南無妙法蓮華経と百回唱えれば病気が治癒して幸福になれるという。

 病気が治らないのは信心が足りないからだという。

 両親は僕の病気が治癒すると信じて拝んでくれているし、僕も早く健康になりたいので病気が治癒するように言葉を言って拝んでいる。

 そう、僕は華想学会二世として産まれたので僕も華想学会会員だ。

 華想学会の言葉を信じているし、僕の病気が治らないのは僕の信心が足りないからなのだろう。

僕の信心深さはいつになったら、華蓮上人様に認めて貰えるのだろうか。

 日々精進するしかないのだろうな。

 南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……。



 「仏敵が現れたんだってさ!ほら、みてこの写真。仏敵そのものという顔をしているじゃない。」

 「仏敵だ!本部から通達があっただよ!これは仏敵のホームページに飾られていた写真らしい。なんでも我々を不幸に落とし入れ病気が治らないようにするんだってばさ!」

 「幸福になろうとする我々を呪っての事じゃー!仏罰を下そう!」

 仏罰下そう!仏敵を潰せ!仏罰下そう!仏敵を潰せ!仏罰下そう!仏敵を潰せ!

 華想学会会員の叫喚が続いていく。

 辺り一帯は異様なまでの熱気に包まれていた。

 今日は華想学会の月に一回開かれる集会の日だ。

 仕事をしている人も来られるようにするために日曜日の午後三時から集会を開いている。

 集会と言っても有名な華想会館ではなく、個人の家で華想学会信者同士で集まり集会を開く。

 近所の華想学会に引き入れることが出来そうな人間の情報交換や、信心が足りなかった為に亡くなっていった信者の話しをしたり、聖華新聞を読みあげたりと言った事を集会ではする。

 今回のように華想学会にとって危険人物……僕には危険人物とは思えないが、仏敵を潰さなければ僕の病気は治らない。

 本当のところ危険人物かどうかはよく分からないし、余計なことは考えないようにしている。長年華想学会会員だった大人が言うのだから間違いないのだろう。

 僕の病気を治すのを妨害する奴は許さない!早く健康な体で学校に行きたいんだ!普通に暮らしたいんだ!僕の幸福な暮らしを邪魔する奴は許さない!

 「仏敵を潰す事についてだが、華想学会の情報抜きだし技術……すなわちパソコン、スマートフォンを情報収集部にハッキングして貰い仏敵の位置情報をいつでも分かるようにしておく。既にハッキングは成功しており、仏敵の住所、仏敵の顔写真は華想学会の情報網を通じて華想学会会員に行き渡らせた。問題はいかにして仏敵が我々に刃向かうことなく精神病に見せかけて自殺に導くかだ。完全に仏敵の妄想内で起こっている事にするんだ。そのためには広大な華想学会の情報網を駆使しなければならない。仏敵の始末として顔写真は既に広めたな?」

 華想学会会員は真剣に耳を傾けながら頷いていた。

 「仏敵が我々のスマートフォンをもし見ても誰の名前かは書いてはいけない。ただ仏敵の服装の情報だけをメールでやりとりし、位置情報を事前に仏敵の近くの華想学会会員にメールで送る。これだけ仏敵が見ても何の証拠にもならない。その後は華想学会会員はメールを削除する。始末方法についてだが華想学会会員同士で連携して仏敵が近付いたら故意に大きな音を出す。例えば自動販売機の缶の出し入れをしている振りをする。ごみの片付けをしている振りをしながら瓶を地面に叩き付け、仏敵に対して威嚇する。仏敵が通りそうな道は我々の巨大な資金力を使って必要のないところに工事をして工事音で仏敵を弱らせる。」

 そうだそうだ!仏敵を始末するんだ!と集団で叫喚が上がる。

 「これは仏敵の妄想の中で起こっていることにするんだ。決して気付かれてはいけない。気付かれたところで証拠が提示出来ないのだから我々に対して何か言ってきてもターゲットの妄言ということになる。このようにして仏敵を追い詰めていく。我々の味方には警察もいるから警察のパトカーで威嚇、犯人をでっちあげてその現場をターゲットに見せるようにし罪悪感を埋め込んで行くようにし、周りの人間にターゲットが話しても信じて貰えないので一人で勝手に自殺するのだ。その道筋でやれば我々のターゲット始末は暴かれない。誰が暴こうか。暴かれたところで何の証拠もないのだから。はっはっはっはっ。」

 集会の会長は唇を歪めて目は澱みなく嬉々として笑っていた。

 「仏敵を自殺に追い込めば病気が治るぞー!」

 「私達の幸福が戻って来るのね!仏敵を自殺に追い込みましょう。」

 「そうだそうだ!我々の不幸を退治するんじゃー!」

 集会会場は狂乱の嵐が吹いていた。



 翌日から僕は仏敵を大人の華想学会員と共に威嚇して弱らせることになった。

 僕の出番は制服姿の高校生集団として男女共々仏敵の道を邪魔し出来るだけ声を張り上げて喋る、大声で笑うと言った事を担当していた。

 華想学会会員の集団を舐めてはいけない。クラスに10人くらいは居ると言っても良い。それ程弐本ではありふれた宗教なのだ。だから華想学会会員同士で友人になることは珍しくもない。

 僕は6人の集団でターゲットの妨害をすることになった。

 スマートフォンを開いてみる。

 ターゲットはあと5分程度で僕の近くを通過するらしい。

 とりとめのない会話に見せかけてターゲットの全生活を知っているかのようなことを臭わせなければならない。

 中々の難題だ。

 しかし僕の病気と幸福を願いやるしかないのだ。やってやる、やってやる!

 来た!ターゲットが通る。

 「それでさー村上ってさ、あいつ煙草吸いすぎじゃね?」

 「分かるー!容姿に似合わないんだから止めろよな。」

 「村上って暴力肯定らしいぜ。どうせ俺達に敵わないくせに何を言ってやがるんだ!」

 高校生集団の下品な笑い声が辺りに響く。

 仏敵とされたターゲットは女性だった。

 僕はこの女の人に対して直接の恨みがあるわけでもないし、詳しい素性は分からない。

 だけども集会の会長にこう喋れと命令が下されているのだ。

 僕は正直華想学会会員に同じ事をされると思ったら、発狂してしまうだろう。良くある考えかもしれないが、皆と同じ事をしていないと仲間外れにされる。

 僕は仲間外れにされたくないのもあるし、僕がターゲットと同じ立場に立つことになったとしたら耐えられるものではないだろう。つまるところ、僕は村八分を恐れていたのだ。

 だからターゲットの心情については深くは考えないようにして毎日、ターゲットの女性が通る度に、邪魔、妨害行為を繰り返しやり続けた。

 例えターゲットの住む場所が住宅街であろうが大声で喋り下品に笑い、別の華想学会会員の人は地元に帰れー!と大声で叫んだらしい。

 しかも夜中の1時だそうだ。例え華想学会会員でターゲットを囲んでいたとしても夜中はさすがに住宅街に対して迷惑じゃなかろうか?と思ったがそれ以上の考えは拭い去った。

 毎日毎日妨害行為を繰り返していると、近所の伯父さんが僕に手招きをしてきた。

 「ちょっと、こっちへ来なさい。あんなに小さかった優もこんなに大きくなったんだねえ。少し話があるから家で話さないかね?ここでは人が見ておるから。」

 僕は不可思議な顔をしながら伯父さんの家に入っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ