5 魔物
遅くなって申し訳ないです。私立入試だったもので…
魔物。欲望に囚われた、哀れな人の末路。
典型的なファンタジー世界なら『ゴブリン』だとか『オーク』だとか、そういうのは序盤に出てくる謂わば『雑魚モブ』だ。
この世界でもそれは変わらない---。変わらないが、根本的に違う。彼らは元は人であって、少しながらに人格すら残っている。生きた人間が魔物になることだってあるそうだ。
それを退治、『殺す』となれば、平和ボケした現代人には無理というものだろう。最初は自衛隊などが応戦していたが、現代兵器が役に立たない魔物もいた。
---魔物は、【異能】を使ったのだ。人間だった頃の異能、そこに何かしらの感情が加わって。
例えば【憤怒】なら攻撃力の一点だけか限界まで強化される。
【傲慢】なら相手の異能を弱体化させる。
【嫉妬】なら相手を妬み、その一部を自分のものにする。
【怠惰】なら見えない防壁を展開。
【色欲】なら相手を幻惑に陥れる。
【暴食】なら相手の生命力を喰らい、強くなる。
【強欲】なら殺した相手の異能を奪う。
最も強力で厄介なのが、この【七つの大罪】だ。他にも【憂鬱】や【虚飾】、【金欲】や【正義】といったものがある。
元の異能に加え、感情の補正までかかると、現代兵器が太刀打ちできないのも仕方ないと言える。
どうやって判別するのか、という疑問があるかもしれないが、魔物のステータスは「見よう」と意識すれば見える。
そこにゴブリン【強欲】など、丁寧に書かれているわけだ。
魔物が現れてまだ日が浅いが、研究は日々進んでいる。どの欲望がどの魔物になるか、ということも、分かってきてはいるが情報が少ない。まあとにかく、厄介なやつらだ。
「そんな厄介なやつがすぐ近くにいる、ってのはどうも…」
とにかく逃げなければ。そう思って叫んだ男がいた方を見ると----
確かに、いた。姿は人型だが、鎧を纏っている。
そこから噴き出る圧倒的な闇、闇、闇…
黒い。一目見た感想はそれだった。
あんな魔物、今まで見たことも聞いたこともない。
生存本能が、警鐘を打ち鳴らしていた。
(ヤバい、逃げないと間違いなく死ぬっ!)
すぐに反対方向を向いた、その時には…
魔物は目の前にいた。
(え?)
思考がついていけない。理解したくない。ここで…死ぬ?
嫌だ。
なら足掻く。
恐怖ですくむ足を、無理やり奮い立たせる。
「ほう…」
…喋った?今、この魔物は言葉を発したのだろうか。
「いずれ相対する時が来ようぞ。ニンゲン」
次の瞬間には、魔物はいなかった。いや、魔物なんて生ぬるい存在じゃない。
あれは---
『魔王』だ。
この日、轟々雷句と魔王との、因縁の火蓋が切って落とされた。