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ダンジョン

 一


 今日はダンジョンである。


 彼女改め、エルンが居る。エルンはわずかに私より身長が高く、高価な金属鎧に身を包んでいる。客観視すれば完全に私の護衛である。聖騎士に武器が弓だけとは、私には違和感がある。なので今は弓に加え、私お手製の剣を持たせた。不満の出来である魔法剣であるが、見栄えだけなら一流だ。宝石、貴金属を散りばめた装飾剣に近い代物だ。


 魔力も非効率に循環しており、魔力も垂れ流しで、こけおどしには最適だ。


「キース。今日もか。がんばれよ」


「ういうい。がんばるよ」


 おっさんに挨拶をしてダンジョンに入り込んだ。


「初体験? エルルン?」


「なんだ!」


「ここは初心者用。ゴブリンがよくいるよ」


 そう、ここは初心者だ。死ぬ奴なんて、まずいない。私が散歩するのはもっと深く、危ない階層だ。


 私は彼女の実力を把握するために、ここに来たのだ。彼女は完全に魔法タイプの遠距離型だった。弱った、私とまる被りの戦い方ではないか。私は、完全な魔法使いというより、暗殺者に近いやもしれない。


 私は一通りエルルンの実力も見えたこともあり、宿に戻った。


「えーるるん!」私はわざと彼女をおちょくるように呼んだ。「今日の賃金。食事も湯あみも、君の好きなタイミングで行くといい。その鎧と弓、ボロッタ剣は君の物だ。気に食わなければ捨てておけ。その代り、捨てるということは裸で明日は戦うことになるからね、その時はその時で」


 私は内心、凌辱をどのタイミングで仕掛けようか見計らっていた。何故なら彼女は奴隷であり、人権などないのだから。私の好きなようにしたって問題ないはずだ。


 さて、私は彼女が食事に出て行ったあと、食事にありついた。借り宿の部屋で、小さな壺と魔術で日本料理だ。今日は卵が多いので、とろっとろオムライスを。うん。サイコー。


 私は彼女と同室なのだ。今は彼女は部屋を出ているが、戻った時、なんて会話をしようか。未だ名前さえ聞けていないのだ。ただ、私が一人で話すだけの時間が来るのだろうか。それは何とも虚しい。


 そんな時、彼女が部屋に入る気配があった。私は情けないことに、どうしていいかわからずに寝たふりをしてしまった。


「おい。キース!……寝ているのか」


 彼女が私に声を掛ける。私は名前を覚えてくれていたことと、彼女から私に声を掛けてくれたことがうれしくて、寝たふりを忘れてにやついてしまったのだ。


「笑っている……」


 彼女は呟いたあと、鎧を外して着替えだした。薄目を開けた私は、寝返りをするふりをして目をそらした。たしか彼女には、買った時の服がボロすぎて、ほかの服を買い与えていた。ドロワーズというのか色気のあるやつだ。


 きれいな女の子が、今、私の真後ろで着替えを行っている。何とも官能的なイメージが私を脳裏にへばりついてしまう。無心無心。あくまでも無心。さっさと寝ろ私。


 私はようやくにして眠りに落ちた。


 次の日。彼女の様子がおかしかった。立ち上がれば、ふらついている。私は彼女にそのままベッドにいるように言いつけた。症状を見ると、風邪に近い。しかし、それからどんどん熱が上がってしまった。


 私は医術のレベルの高い友達を急いで呼び寄せた。


「啓介。この子か? お前が見てわからないなら俺も同じだよ」


 彼は私と同じ転移型の日本人だ。私の後輩のような存在でありながら兄のようなとても頼れる存在だ。全くの同年齢だが。


「回復魔法が、本当にきかない」


「やっぱり自己免疫疾患みたいな?」


「外部が理由じゃなきゃ、やっぱり内側の問題しか考えられない。熱さましと鎮痛剤を分けるから、様子を見てくれ」


「ありがとう。助かる」


 彼女は体が痛かったのか、うめき声をあげていた。そして熱でうなされているのか、私にすがるような目で見つめてくるのだった。私は解熱剤と鎮痛剤を与えて、ずっと手を握ってやっていた。たまに頭をなでると、すごく落ち着くようだった。


 冷たいタオルをぬるくなれば変える。それをずっと続けていた。彼女が何度か眠ったりを繰り返しているうちに、意識がはっきりしてきたようだ。


「ようやく汗、かいてくれた。それまでずっと熱が下がらなかったんだ。水だ。飲める?」


 私は落ち着いている様子を見て彼女に命令した。


「服を脱いで」


 私はやましさもありながら、体を拭こうとしたのだ。しかし、脱いでもらったら、そんな感情もぶっ飛んだ。彼女は驚くほどにやせ細っていた。私は彼女の体を拭きながら、自分の愚かさを呪った。


「卵粥。これはたべれるか?」


 食欲も戻ったこともあり、もう心配はいらなかった。


 三


 私は彼女が本調子に戻るまで、適当に散歩に出た。二人きりで無言は苦しいのだ。


 私は愛刀を携え、ダンジョンに入り込もうとした。そのところで、田村君に出会った。転生型のダンジョン経験豊富な青年だ。


 私はこの前怒られたこともあり、ダンジョンに入りにくかった。しょうがなく、世間話をすることになった。


「僕、奴隷でも買おうと思ってまして。エルフのかわいい女の子とか? エルフは魔術以外でも夜伽にもと思えばわくわくしますよ」


 コミュ障な私のジョークだ。エロくない男は居ない。そして今は男二人である。受けると思えたのだ。面白いと思ったのだ。


「お前、クズだな。戦奴は戦奴であり、それ以外で虐げられるもんじゃないんだ。お前は人を人と思っていないのか」


 彼はどうやら正義感がある性格だったようだ。確かに私は反面、奴隷というのはいけないと思いながらも、それは所詮、ただの願望だけのつもりであった。


 ただ、買う前は、紛れもなくゲスの考えで奴隷を買っていたのだから、何一つ否定できなかった。戦奴で買った以上は、それ以外のことで求めてはいけないのだ。自分の考えがあまりに恥ずかしく思えた。これからはちゃんとした視点で評価していかなければ、と決心した。

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