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プロローグ


「やあキース。今日もダンジョンに入り込むのか? 稼ぐなあ」


 おっさんとなってしまった顔なじみに私は言われた。

 いきなりではあるが、私は長淵啓介という日本人である。私は異世界転移というものをしたのだ。この世界は魔法にあふれており、私は魔法の才能があったようで、ダンジョンに入り込んでは金目の物を回収していた。それがある意味趣味なのである。


「うん。僕にはお金の使いどころがなくてね。趣味だよ」


 そういって私は入り込んだ。


 このダンジョンには魔物がはびこっており、それをばっさばさ切り殺していく。ただただ楽しい。最近では自らに縛り、ルールを設けて切り殺す作業をしていた。


 そんなお楽しみ中の私に、声をかけてきた。


「長淵!」


 田村君だ。彼は私と違い、転生型だった。名前は確か、レッドといったか。


「お前、また一人なのか?」


 彼には以前、私が一人でダンジョンに来たことで咎められているのだ。


「僕の好奇心が抑えられなくて、やっぱりほかの人ともパーティにも入りにくくて」


 私は苦笑いでごまかそうもするも、彼らは許してくれないみたいだ。しかも彼の仲間らしき女の子からも「冒険者をなめるな」「考えが甘いですよ」とか言われてしまった。彼らは転生ということもあり、ダンジョンにすごく詳しく慣れているようだった。楽しみだけで入り浸っている私はアマチュアで、彼らはプロなのである。話を聞かないというわけにもいかなかった。


 しかし、来るなと言われても、私の楽しみなのだ。彼らの反応を見るに次は無い。


 私はとぼとぼと帰路を辿った。


 二


「ねえ。奴隷市場ってどこにある? 奴隷を買おうと思ってるんだ」


 私は顔なじみのおっさんに話しかけた。


「ほう」


「目的は凌辱、小間使い、戦闘、あと凌辱、それと凌辱、とにかくいろいろ探そうと思って」


「うーむ。意外だな」


 私は奴隷市場に訪れた。戦闘奴隷でも買えたらいいな、程度できた。所詮、使い道のない金だ。気にはしない。


「ここって、参加資格無いの? 仲買っていうか、業者? みたいなのは無いの? 僕、一般人だけど、買えるの? そう? じゃあ遠慮なく今夜のセリに登録っと。参加料どーぞ」


 どうやら、エルフが何人か入っているそうだ。


 私は適当に時間をつぶし、セリが行われる会場に来た。


 ほかの人が奴隷をセリ落としていく様子を私はのんびり眺めていた。中には獣娘や魔物娘といった女の子もいたが、どうにも好みではなかった。残念。


 競売人が先ほどより大きな声を上げた。目玉の登場だ。エルフ娘だ。


 ふむ。幼そうな、無垢な雰囲気が気に入った。どうせ落とせはしないだろうと思い、参加した。


 落とせた。


 焦るよむしろ。有り金全部で支払っちゃう。わーお。


 というか、受け取りの際に気づいたが、非公式の奴隷市場だったらしい。もう二度とかかわらない。


 さて。女の子を連れ帰った犯罪者こと私であるが、問題が一つ。コミュニケーションが取れないのであった。


「ここ、僕が契約してる宿。あー。君、名前は?」


「うるさい! 私はお前なんかより優れているんだ! 殺そうと思えばお前なんか殺せるんだぞ」


 受け答えになってない気がする。そもそも、奴隷契約とかなんかで私に攻撃するのは無理であるのだが、あえて言わずにしておく。


「そうだね。お腹すいている? ごはん用意するよ」


 私は、私ができる精一杯の料理を振る舞おうと思った。砂糖で甘く味付けされた丼ものだ。コメもこの世界では貴重品だ。私の故郷の味である。どんな反応をしてくれるか見ものだ。


「なんなのこれは? これが料理? 木の棒? フォークは? ナイフは?」


「これは僕の故郷の料理であり、親子丼。何も言わずに一口」


 私は最後まで喋らせてもらえなかった。というのも、私の渾身のどんぶり料理を器ごと投げつけられたからである。


「馬鹿にするな! 私は家畜じゃない!」


 どうやら相当怒っている。私は侮辱するつもりなどなかったのだが、何が気を悪くさせるのかはわからないものだ。きっと私の振る舞いが彼女を傷つけてしまったのだ。彼女の文化を傷つけたのかもしれない。今回は私が間違っていたのだと思い、話を切り替えた。


「ごめん。外で飯をたべるかい? 服、ボロボロだけど、気にしない? 僕は別にいいけど」


 彼女を連れ出して食事処に向かった。


 私はこの世界の暮らしは好きであるが、住人にはあまりなれなかった。粗暴なやつが多く、治安が悪いのだ。私の本業は冒険者ではなく、農家といったところか。ゆえに喧嘩っ早いのは苦手であった。


「ルリちゃん。飯を食いに来たよ。適当に二人分で」


 私は私が知り得る店の中で、一番落ち着けそうな店を選んだ。おばさん一人で切り盛りしている店だ。彼女のお気に召したのか、どうにか食事をとってくれた。彼女が食ったのを確認して、私は早々に店を出た。


 私の宿に戻った後も、コミュニケーションをとろうとしたが、うまくいかなかった。名前も未だ聞けなかった。



 次の日、私は彼女を武器屋に連れて行った。貴族お達しの武器屋だ。私はこういうものに頼ったことが一度もなく、初めてである。しかし心配はない。所詮は情よりも金だ。金により情が生まれるのである。


「やあ、店員さん。そう、君のこと。初めてなんだけど、ちょ、待って。とりあえずチップこれ。話を聞け。彼女に予算これくらいでいい奴見繕って。いやならチップ返して。うん、よろしく。素直な奴は好感がもてる」


 金属鎧に身を包んだエルフが居た。鎧のおかげでエルフの特徴も一切が分からない。エルフより聖騎士を思わせた。


 どうやら魔法金属らしく、見た目よりはるかに軽いらしい。着心地もいいらしいが、彼女は何も言わないので全くわからない。武器は弓っぽいものがあった。


 宿に戻ってきた。


「明日はダンジョン潜るつもりだから、体をやすめてね」


「ダン……ジョン? 冒険者?」


「で、君、名前は?」


 彼女はやはり無言で答えた。


「そうだな。あだ名でもいいよ。むしろニックネームがいいな。フレンドリーで。僕の名前は発音がむずかしいらしい。僕はキースって呼んで。エルフ……。うんエルン、君のことはエルンととりあえずそう呼ぶ。よろしくエルン」


 彼女は、無反応で答えるやり方に切り替えたのだろうか。ずっと無視である。適当にあだ名でもつければ、怒って名前でも明かしてくれるものと思っていたが、そうもいかなかった。

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