01 半獣の発見
この『明半奇譚』2013年に出版社へ投稿した作品です。明治っぽさが出ればと思い漢字を多く使用しています。ルビをまめにふっているつもりですが、わからない字がありましたらごめんなさい。
それでは、さらっと流し読みしてくださると幸いです。
見世物小屋。
珍品、奇獣、曲芸など、人々の好奇心を煽るような物を詰め込んだ小屋から、威勢の良い声が上がっていた。
「さあて、そこ行くお客さん!世にも珍しい蛇女に兎男、頭が二つの狐、火を吹く男は何者か!?気になるだろう?どうだい、お代は見てからで結構だ!さあさあさあさあ入って入って、間もなく始まるよ!さあさあさあさあ入った入ったあー」
見事な口上に釣られて人々が小屋の前を往来する中、二人の男がひっそりと、街路樹の松の木影に身を潜めて、小屋を見ていた。
今宵は煌々と月が輝く空。
松の陰影も普段より色濃く、万物を隠すのには最適だった。
秋の夜は空気が澄んでいるせいもあるだろう。
「小頭殿、匂う」
紺青の着流しに鼠色の覆面頭巾をかぶった長身の男は、開いた目元の布を少しだけずらし、隙間から鼻を出して言った。
「“ハガネ”か?」
隣にいる、これまた長身の黒い詰襟を着た男が小さな声で問い掛けた。
短髪の黒髪の上にある帽子を目深に被り、ツバの隙間から覗く黒く凛々しい目元は、真っ直ぐに見世物小屋を見据えている。
着流しの男は無言で頭を縦に振り、出した鼻を頭巾の中へと仕舞った。
「わかった。行ってくる。ロウは…」
ロウと呼ばれた着流しの男は再び黙って頷くと膝を軽く曲げ、そのまま上空へと飛び上がる。頭上にあった松の枝は軽く揺れる程度で、通行人は気付いていない。
それだけ見世物小屋という娯楽は人を惹きつける。
詰襟の男はそれを気配だけで確認し、左脇にぶら下がる三尺棒に軽く手を添え、真っ直ぐに見世物小屋へと歩き出した。
松の枝に隠れる覆面頭巾の隙間から見える黄金色の瞳が、月に照らし出されていた。