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ホラー

彼女が残したモノ

作者: 愛されたモノ

永遠(とわ)と初めて会ったのは、漫画研究会の新人歓迎会の時だった。

ウーロン茶が入ったコップを両手で持ち、怯えた様子で周りの顔色を伺っていた。

そんな永遠に話しかけたのは、大輔(だいすけ)のほんの気まぐれだった。

大輔は3年生だったが、アニメやゲームしか興味がなく、漫画研究会の中でさえ必要以上に仲良くなろうとはしてこなかった。

ただ、この時は永遠の怯えた様子に仲間意識を持ったのかもしれない。

お酒を飲んでいたからだろうか。大輔は珍しく口数が多かった。もっとも、話す内容は自分が好きなアニメやゲームの話ばかりだった。それでも、永遠は終始笑顔で話を聞いていた。

そして、次の日から、なぜか永遠は大輔の側に居ることが多くなった。だからといって、2人に何かあるわけもなかった。この時はまだ、大輔にとって永遠よりアニメやゲームの方が大事だった


|永遠と男女の関係になったのは、5か月後の学園祭の後だった。

2次元にしか興味がないと言ってきた大輔だったが、セックスに興味がなかったわけではない。

そして、いざセックスをするとなると大輔は我を忘れた。

永遠は地味な容姿だった。決して、男を興奮させるような容姿では無い。何年前のデザインかと思うようなメガネをかけ、目を合わせるとすぐに俯いてしまう。髪は、今では絶滅したと思われる三つ編みだ。さらに何かから守るように鼻から口にかけて隠してしまうため、表情は見えない。ただ、その怯えた様子が大輔の中に眠る何かを刺激した。要するに永遠は苛めたい気持ちにさせる雰囲気をまとっていたのである。

メガネを取り上げ、顔を隠そうとする手を掴み手を広げると、永遠は恥ずかしそうに俯いた。その表情が大輔をさらに興奮させた。

女の扱いをアダルトビデオぐらいでしか知らない大輔は乱暴に永遠の服を脱がした。そして、大輔は息を飲んだ。普段の服装からは太めの体形と思っていた永遠の身体は女性らしい体系をしていた。もちろん、グラビアアイドルやモデルに比べるとお腹には少し肉がついている。ましてや、大輔の部屋にならぶアニメヒロインのフィギュアと比べられるわけはなかった。しかし、それが、逆に大輔に生の人間の身体だという実感を持たせた。アニメで培った大輔の診断によるとバスト87、ウエスト65、ヒップ88だった。

そんな永遠に我を失った大輔のセックスは乱暴なものだった。まるで人形のように受け見な永遠を大輔は抱き続けた。腰を掴むとフィギュアにはない女性の柔らかさに指が食い込む。大輔はただ、激しく永遠の温もりを求めた。

一回目の精を放つと、永遠は恥ずかしそうに俯きながら大輔を見上げた。その様子に、大輔は永遠を無茶苦茶に壊したいと言う願望に捕らわれ、再び彼女を求めた。


セックスは最初の1回が最高だと聞いたことがある。

大輔にはそれは間違いだと思った。最初のセックスから3カ月が経った。その間、永遠との関係は続いた。永遠とは身体を合わせる度に、気持ち良くなっていく。だんだんと色気を帯びて行く永遠の表情、声。それでも、普段の永遠は地味な服装のままだ。自分の前でしか見せない永遠の女の顔。大輔は人知れず優越感を感じていた。




そんなある日、大輔はいつものように漫画研究会の活動を終えると永遠とファストフード店に向かった。アニメやゲームしか興味が無い大輔の食事はファストフードばかりだった。

いつものように、ハンバーガーとコーラを頼み永遠を相手に流行りのアニメの講釈をたれたいた。すると永遠が口をハンカチで口を押さえ立ち上がる。


「ご、ごめんなさい」


かすれるような声で永遠はそういうと、トイレに走っていく。


なんだ、トイレか。

女性が席を立つときは、何も詮索しないのが男ってものだ。


大輔はハンバーガーを一気に食べ、コーラを飲み干すと携帯ゲーム機を取り出し

永遠が帰ってくる間、時間をつぶした。


「だ、大輔さん。…ごめんなさい」


「いいよ。別に」


大輔はゲーム機から目を離さずに応えた。ボスモンスターを狩っていたので永遠にかまっている余裕など無かったのだ。


「よっし」


顔を上げると永遠が俯いて待っていた。いつものように頼んだウーロン茶のカップからは水滴が流れ落ちている。どうやら、ほとんど口も付けていないようだ。


「あ、あの。大輔さん」


「ん?」


「え、…えっと、実は…できちゃったみたいなの」


「何が?」


「あか・・・ちゃん」


永遠はメガネを両手で押さえながら、ますます下を向いた。


あかちゃん。


あかちゃん。


「え?」





大輔は家に帰っても信じられなかった。


子供が生まれる。

学生なのに。

どうやって、育てていけばいい。

金はどうする。

まだ、ゲームやアニメだって買いたい物はたくさんある。


悩んだあげく、大輔はSNSソーシャル・ネットワーキング・サービスに書き込んだ。


『サークルの後輩が妊娠したらしいんだけど、どうしたらいい』




次の日、書きこんだページを見ると返事が合った。


責任を取れ、という内容の中、同じサークルからの書き込みに目を奪われた。


『相手はあいつだろ?

古舘(ふるたち)

お前がやれそうな女なんて他にいないよな。

あいつ頼んだら断れそうにないもんな。

いろんな男にやり捨てされているらしいしよ』


大輔は書いてある内容が理解できずに何度も読み直した。


永遠が他の男と。

思い返せば、そんな気がした。

セックスの時に、色気が増していく永遠は、他に男を覚えたからに違いない。


「そうだよな。俺みたいな男に」


大輔は永遠に電話をかけた。


「もしもし…、だ、大輔さん」


聞きなれた、おどおどした永遠の声が聞こえる。


「もしもし…」


「お前、お腹の子…、誰の子だよ」


「え…どういうこと」


「俺以外にも、男と寝てたんだろ」


「そ、そんな、私、大輔さんとしか」


「俺は認めないからな。おろせよ」


「…わかりました」


消えてしまいそうな、永遠の声を最期まで効かずに大輔は電話を切った。




3日後、大輔は永遠の遺影の前にいた。

写真は高校生の時の永遠だろうか。初めて会った時の怯えた表情の永遠がそこにいた。

葬儀の参列者は驚くほど少なかった。永遠が他人と距離を取っていたのが伺える。


参列者の中に同年代の男はいなかった。

大輔は覚悟をした。

きっと、永遠の親は狂ったように言い寄るに違いない。

しかし、そんな大輔の予想とは違い、永遠の両親は放心した様子で参列者にお辞儀をしていた。


実の娘が妊娠した後に、自殺をしたのに。

永遠は妊娠のことを話していなかったのだろうか。

いや、話していなくても妊娠していたのなら分かるはずだ。


騙されていたに違いない。

永遠は僕を試したのだ。

不甲斐ない僕を。


坊さんがお経を唱えている間、大輔は考えようとした。

永遠はなぜ自殺したのか。

永遠が何を考えていたのか。

しかし、何も分からなかった。

そして、気付いた。

自分が永遠のことを何も知らないことを。

いつも自分が一方的に話していただけなのだ。

彼女のことを知ろうとしてこなかった。

思いだされるのは、俯いている彼女が時折見せる笑顔だけだった。


本当に僕たちは付き合っていたのだろうか。

思えば、告白すらしていなかった。

ただ、気が向いた時に欲望の捌け口に利用していただけ。

自分は最低だ。



葬儀が終わると、陽が沈んでいた。

1人、沈んだ気持ちで家路を歩いた。

ふと、誰かに呼ばれた気がして振り返る。

誰もいない。

月明かりに電信柱に影ができているだけだった。


葬儀の後だから神経質になっているのだろう。


大輔は再び歩き始めた。

家がとてつもなく遠く感じられる。


「…」


振り返るが、何もない。

ハッと、何かの気配を感じ上を見上げた。

そこには電線に群がるカラスの姿があった。


「なんだ。カラスかよ」


大輔は高鳴る心音を誤魔化すように独り言を言った。


寒くなって来た。

もう11月だ。

早く帰ろう。

しかし、今日はカラスが多い。



家に帰ると、大輔は風呂に入るとすぐに眠った。




翌朝、大輔はベランダで鳴くカラスの声で目を覚ました。

身体が異様に重かった。それに、なんだか顔が生臭い。

顔を洗い、鏡を見る。そこには疲れた顔の自分が映っている。


昨日は葬儀だったし、永遠が死んで疲れたんだろう。


大輔は顔拭きながら、自然と冷蔵庫を開ける。


そういえば、昨日の昼から何も食べていない。

でも、コンビニまで行くのもダルいな


大輔はお湯を沸かし、カップラーメンに注いだ。待っている3分が長く感じらられる。

大輔は2分たったのを確認すると我慢できずにフタを剥がして、混ぜながら匂いを嗅いだ。


「うっ」


いつもは食欲を嗅ぎたてる醤油の臭いに吐き気を催し、洗面所に走った。何も食べて無い大輔は胃液だけを吐く。その臭いに更に気分が悪くなる。


「くそっ」


大輔は水を飲むと、作ったカップラーメンを捨てた。流れるスープの臭いに再び気分が悪くなる。


やっぱり疲れているのか。


大輔はベッドに倒れ込みながら、永遠がファストフード店でトイレに駆け込む姿を思い出した。


あれは、演技だったのだろうか。


しかし、大輔には永遠がどんな表情をしていたのか思い出すことができなかった。




「あっっ。また、眠っていたのか」


腰の辺りに痛みを感じながら身体を起こした。時計を見ると20時を過ぎている。

大輔は汗で濡れた下着に気持ち悪さを感じながら、洗面所へ重い身体でゆっくりと歩いた。


「…」


何かの気配を感じた。

辺りを見渡しても不思議な感じはしない。


「…ぁ」


振り返る。

そこには鏡に映る自分の姿があった。

気になったのは自分の顔が青白いことくらいだ。


「…ぁ………よ」


誰かいる。

後ろ。上。

誰もいない。


「………ここだよ」


下。


…いない。


違う。



大輔は服を脱いだ。


「パパァ」


大輔は目を疑った。腹が膨れている。そして、眼のような痣が見える。口、頭、心臓。しかし、それは人の本来あるべき場所とはバラバラの位置に存在している。

大輔は腹に手を当てた。

鼓動

生きている。


「パパ。アイシテル」






数日後、腹を包丁で刺し、自殺したと思われる遺体が発見された。

そして、何者かがベランダまで這ったような痕跡が発見された。

カラスの羽と誰のものでもない血痕と一緒に。

キミガ アタラシイ パパ                         アイニ イクヨ                                                マッテテネ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カラスのくだりがいきなりすぎて戸惑いました。 永遠の自殺以前になんらかの予兆的な表現があったほうが良いのでは、と感じました。 [一言] 身勝手な主人公が、自分の行いから破滅するというの…
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