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Reinvention~彼女の視点

私たちは並んで、小さくなっていく彼の後姿を見つめていた。


「…あれよね」


視線をそのままに呟く彼女に目を向ける。


「ああいうところ、好き…なのよね」

「……うん」

「普段そうでもないくせに、いざという時、なんか…あの潔さがすごく大きく見えて」

「うん」

「どうしようもなく、抱きしめたくなっちゃって、泣きたくなっちゃうくらい、好き」

「……っ」


その言葉に、かぁっと体中が熱くなるのを感じて、恥ずかしくて俯いてしまう。

くすっと笑う声に目を向けると、彼女がこちらを見て微笑んでいた。


「だから、あなたから奪いたかったのに」

「え…?」

「まだ思い出せないの?私のこと」


思いもよらない言葉に、私の熱はさっと冷めていく…

彼女の微笑みを、これまでないほどに冷たく感じていた。


「ね、まだ気づいてないの?あなたの足元に…影がないこと」

「な………っ!!」


足元を見ると…影がない。

思い起こせば、始まりは放課後…黄昏時。

そして、いろいろなことが思考を占拠し、自分の影がないことなんて気付きもしなかった。

おそらく彼も、まったく気付いてはいないだろう。


「『朝比奈しずく』が二人になった理由をいろいろと考えてくれてたけど、正解はとても単純なこと。見ての通り、影が本体から離れた。理由は、本体に取って代わるため」


そう語る彼女の微笑みが、頭の中でフラッシュバックする。


あの瞬間----

津島君と向かい合っていたあのとき、彼にかかる私の影の中に…私は確かに彼女を見ていたのだ。

影の中の彼女は口の端を上げると駆け出していき…

私の中を風が吹き抜けた…気がした。


「思い出したみたいね」

「…影が…本体に取って代わる…」


その言葉を口にしてみてぞくりとし思わず後ずさると、彼女はふと表情を和らげて告げる。


「安心しなさい。そうするつもりだった、過去形よ」

「え………?」

「尊に私を選んでほしかったけど『どっちかじゃない、どっちも』なんて言われちゃって、ああ…そうしてあげたいな、なんて思っちゃったわけ。これって、いわゆる『惚れた弱み』っていうのかしら」

「しずくさん…」

「勘違いしないで。彼をあなたに譲って大団円ってことじゃないの、わかってる?私を選ばなかったけど、あなたも選ばれなかったのよ」

「あ……っ!」


その通りだ。

『選ばれなかった』

その言葉は針のように胸を刺し、ちくんと痛んだ。


「尊が望んでるのは本当の『朝比奈しずく』であって、私たちのどちらかじゃない。ということは?今、彼のために私たちがすべきことは?」

「私たちが本当の『朝比奈しずく』にならなきゃ…ならない」


こくんと彼女は頷いた。


「私はあなたの、自分の気持ちを隠して無駄に遠慮して優柔不断なところ、大嫌いだった。でもそれが、私にはない『相手を思う』ことによるものだと、直接向き合ってなんとなくわかってきた」

「私とは逆、だよね。あなたは自分の気持ちに素直で、思うままに行動する。とても強い…けど我儘さん」

「言ってくれるわね」

「たまに出てきてたよね、影の時も。私はそれを抑えるのに必死だった。こんな我儘な部分を見られて、嫌われるのがイヤだった」

「私は私で、あなたの優柔不断さを何とかしないと嫌われると思ってイライラしてた。でも…やればできるじゃない」

「え?」

「あなた、津島君をグーで殴ったんでしょ?尊に聞いた」

「だって…!必死だったんだもん!」

「あーあ、先に私が殴ればよかった。さぞかしスッキリしたでしょうね」

「ま…まぁ、それは…ねぇ?」


クスクスと二人で笑いあう。

なんだろう…この不思議な気持ち。


私たちがこれからすることを考えると、少し怖い。

(私は私でなくなるから)

でもそれでいて、嬉しい。

(私は私とわかりあえた)


「私はちゃんと、彼に伝えた。私の望みであり『朝比奈しずく』の…あなたの望みを。これからはあなたも伝えていかなきゃならない」


そのために、私たちにはこの『変革』が必要なのだ。

どちらかが消えるのではなく、二人で『朝比奈しずく』を成すために。


彼女は私に手を差し出してきた。

その手を握ると、彼女は強く握り返して微笑んだ。


「私は、あなた。受け入れなさい、私を…我儘で欲しがりな自分を」

「あなたは、私。私の弱さも…受け入れてね」


彼女は頷くと腕時計を見て、前へ進みながら振り返って言った。


「私はあなたより先に走り出す。彼のもとへ。それを悔しいと思いなさい。それは、あなたが私のように踏み出すことが出来なかったことへの、ペナルティよ」


影である彼女の微笑みは、私にはとても光輝いて見えた。


「変えるわよ、私たちで『朝比奈しずく』を」

「変えよう」


私が強く頷くと、彼女は廊下を駆けだしていった。

ぱっと腕時計の秒針を確認する。

さっき計算した、彼女との時間差。およそ1分40秒。

この足止めは、私に課せられたペナルティなのだ。

遠慮といえば聞こえの良い、人の顔色を伺い優柔不断でふらふらしている自分への罰。

(こんなペナルティは、もう受けない!)

私は、私たちは、『朝比奈しずく』は…これから変わる。

変えてみせる。


ああ…彼はさっき言ってたよね。

(新しい『朝比奈しずく』に逢いたいと思うんだ)

私たちこそ…新しい『朝比奈しずく』で、あなたに逢いたいよ。


「絶対に…逢おうね!」


ペナルティタイムを通過し、私は廊下を駆けだした-------

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