プロローグ
金曜の放課後、校舎の玄関。
俺は下駄箱を見ながら入口側に張り巡らされたガラスの壁にもたれていた。
時折通り過ぎていく見知った顔と、軽い挨拶を交わしたり、軽く手を振ったり、少しじゃれたり。
手持無沙汰に携帯を手に取り、時刻とメール着信を確認する。
「…遅いなぁ…」
携帯をポケットに戻すと、その手で無意識に髪を軽く掻き乱し。その失敗に気づいて、ぐしゃぐしゃになった髪を慌てて手櫛で整える。
俺はここで人と待ち合わせをしている。
相手は『朝比奈しずく』
クラスメイトであり、お付き合い1ヶ月目となる俺のホヤホヤ彼女。
いつも通り一緒に帰ろうとしていたところ、彼女は丁度来た後輩に足止めされてしまった。
いや…足止めされたというのは、間に割り込まれた俺のちょっとヒネた表現なのだが。
部活のことだか何だかで質問があるらしく、少し長引きそうだと判断した彼女が
「ごめんね、下駄箱のところで待っててくれる?」
と申し訳なさそうに尋ねてくるものだから、先にここで待っているというわけだ。
しかし…
確認した現時刻は16:42。
かれこれ30分以上経過しているということになる。
いくら聞き分けの良い彼氏ホヤホヤである俺も、さすがに「遅い」と呟いてしまう。
別に、待たされることは構わない。
だが、連絡なしにこれほど時間がかかっているということは、何かトラブルでもあったのではないかと心配になる。
「ちょっと様子見に行ってみるか…」
意を決して足を踏み出し、凭れたガラスの壁から背を離す。
と…
パタパタと廊下を駆けてくる足音が聞こえてきた。
こちらに近づいてくるにつれ乱れた息遣いも重なり合い、静かな廊下によく響く。
「やっと来たか…?」
そう呟くと同時に、胸に少しの引っ掛かりを覚え首を傾げた。
なぜなら、その音は左右から同時に聞こえてくるからである。
右か左か、どちらを向こう?
どちらが彼女だろう?
おそらく一瞬でそんなことを考えていたのだと思う。
立ち並ぶ下駄箱の間を抜けて目の前を横断する廊下にたどり着いた俺の目に、駆け込んできた…そこに存在する人の姿が映り込んだ。
右の目に一人、左の目に一人。
否…そうではない。
右側に一人、左側に一人。
合計、一人ではなく二人。
都合、二人の彼女。
「ごめん!遅くなって…!」
俺に詫びる耳慣れた声は、ステレオで響いてくる。
目の前にいる二人の彼女を見て、俺の思考は一時停止し、茫然と立ち尽くした…




