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第二話 宍倉家族のご登場なり!!

コメディーです。完全な。完全な? まあ、読んでみてください。

「さらば弟っ!!」

「ぐはぅ!!??」

 突然僕のお腹に凄まじいインパクトが。それはもうアルマゲドンの隕石なみに。

 瞬時に僕の意識はフェードアウトさ。消え去る蝋燭の灯火並みに儚く。

 過去の思い出が僕の脳裏にフラッシュバックだ。ここはどこ?

 そんな僕の、火花が散った視界に移るものは真っ白な穢れなき空間だった。原初の世界。アダムもイブもいない。お花畑も三途の川もどこにもない。微生物すら見えないよ。いやいや、もともと微生物は見えないけど? ああ、でもやっぱり死んでも天国や地獄には逝けないんだ。見えるものはただただ虚無ばかり。誰もいないのはちょっとだけ寂しいかな。でもさ、僕は初めて肉体という束縛から解放されたんだ。これが本当の自由じゃないか。これこそ(まこと)の自由だよ。


 ビバ、フリーダム★


「って、おい。危ないよ! 今なんか悟りを開きそうだったよ!? 危うく僕の命がフェードアウトするところだったじゃないか!!」

 がばり、と布団を取り払い僕は起き上がった。

 思考がいささか錯乱していたみたいだが、そこはあまり気にしないでほしい。あとちなみに僕のお腹にすさまじい鈍痛があるのは気のせいでも何でもない。

 原因なんて火を見るより明らかだ。目の前にいる姉上殿のエルボークラッシュ以外にこのダメージはありえない。

 そんな突然の展開をしかけてきた姉上――宍倉明菜は頭をポリポリとかきながら、何だか申し訳なさそうな顔をしていた。その長いポニーテールを揺らしながら、「はは」とよく分からない空笑みを溢す。

「今日も元気だね、睦月。元気なのは、良い事だ!」

「いやいや、その僕の元気を根こそぎ奪い取ろうとした人は誰よ? というか、『あちゃー、やりすぎた』みたいな失笑を浮かべるなら初めから止めてもらえます!?」

「お前、わざわざ弟を起こしにきた姉に対して言う言葉はそんな言葉じゃないでしょ。 ん? 感謝の言葉は何所に行ったのかな?」

「『さらば、弟っ!!』というセリフに返す言葉なら、『起こすつもりゼロだよね?』かな」

「ほら、早く支度して。もう皆起きていて、睦月が最後なんだからな」

「え? 何、結局シカト?」

 そんな僕の言葉までも華麗に無視をして、明菜はムカつくほどに綺麗にターン。そして僕の部屋を出て行こうとした。世の中の理不尽さを感じながら、僕も確実に赤くなるのを通り越して青くなっているであろうお腹を抑え、明菜の背中を追いかける。まあ、寝巻き姿のままだけど、家族なので気兼ねする必要もないだろう。

 そのままリビングに向かうつもりだった僕だが、明菜が部屋のドアの取っ手に手をかけたところで急に立ち止まり、こちらに振り向いてきたため、いきなり予定変更。

 明菜を追いかけていた僕は危うく明菜の薄い胸(口で言ったら命が危ない)にぶつかりそうになる。しかし少し前につんのめりながらも、僕はなんとかエロコメ的展開を回避して、訝しげに明菜を見上げた。(見上げたんだよ。悪かったな!)

 明菜は眼を逸らしながら、言いにくそうに口ごもっていた。

「あ、いや、そういえばな。うん、なんというか・・・・・・大丈夫か? さっきうなされていたみたいだけど」

「うなされていた?」

 うん? えっと、どんな夢見ていたっけ。

「ああ、ああ、何だ。思い出した。んー、別にそんなに心配するようなことでもないよ。ちょっとくだらない夢を見ちゃっただけだから、大丈夫」

「・・・・そうか。それならいいんだけど」

 にっこりと笑う僕に明菜は少し寂しげな笑顔を見せて、部屋を出た。僕も後ろから着いていく。


 僕らの家は正直まともと呼ぶには難しいところが多々ある。

 いや、住人がとかじゃなくて。それも否定できないんだけど、今回はそういうことが言いたいわけではないんだよ。

 というのは、実は、我が家は一軒家というのもおこがましいような、ボロ小屋なのだ。まあ、この地区で言えばそこまでひどい家でもないんだけど。

 二階はなくて、一階だけ。その代わり部屋数は少し多くて五つ。兄の、姉の、僕の、妹の、妹の。それなりに広いっしょ。あとキッチン・リビングが付いていて、トイレ・風呂を付け足した。付いていたのではない。付け足したのだ。あれにはなかなか苦労した。

 ちなみに外観に関してはノーコメントだ。まあ、何だ。例えツギハギだらけで手作り感溢れるような家でも、きっと今の社会なら個性的ということで受け取ってもらえるだろう。

 そんな僕らの家。こんな非常識な家でも『ここ』ではそこまで目立つものでもない。家があるだけ感謝しないといけないのかね。

 えーっと、長くなった。つまりは何が言いたいかというと、そんな家なのだからリビングまでほんの数歩で着いてしまうということです。たったそれだけです。


 やっぱりぼろい感じが抜けないそのリビング。木造であることがまるわかりなほどに粗雑な造り。床にあるカーペットも使用限界を超えて、大分破れている。それでもそこに薄汚れた印象は受けなかった。それもひとえにいつも綺麗に掃除をしてくれる明菜のおかげであろう。感謝しています、姉上。

 そしてそこには明菜の言う通りみんながもうすでに起きていて、兄と妹と妹がそれぞれいつもの場所に座っていた。明菜はキッチンに行ったようで、そこにはいない。とりあえず、いつまでも立っていても仕方がないので、僕も定位置となっている場所へと腰を下ろすことにした。

 そしてお決まりの挨拶。

「おはよ」

 そしてお決まりの返事。

「ああ、お早う」

「おっはようっ!」

「………………………………………………………………………………おはよう」

 僕の挨拶にそこに座っていた三人がそれぞれ性格のわかるような挨拶をする。本当にわかりやすいね。


 まず一番初めに挨拶を返したのが我が兄である宍倉礼二。


 礼二はいつも通りのしかめ面でぼーっと何もないところを見ている。何を見ているのかと視線を追ってみても、そこには何もない。別に、一般人には見えない不法侵入者がこの人に見えているわけでもなく、ただ礼二は朝に弱いからぼーっとしているだけなのだ。そうなのだ。僕はそうだと信じている。

 この兄は僕より二つ上の十八歳。四六時中不機嫌面な兄上だ。無造作に整えられた黒髪はよく言えばワイルドで、悪く言えばだらしがない。三白眼で目つきは悪く、ぶっちゃけ、そんな顔でこちらを見ないでほしいところだ。恐いんだから。ちなみに付け加えるなら、この家族では父親的存在である。


 二番目に挨拶を返した元気っ子は僕の一人目の妹の宍倉呉羽。


 彼女は十五歳という身空でありながら、並んであるお箸を手にとって打ち鳴らし、ケタケタと笑っている。何が可笑しいんだがわかりはしないが、本人が楽しいならそれに口を挟むのは無粋というものだろう。お行儀が悪かろうと別に僕には関係ないしね。うん、そうだとも。

 やや遠い目をして僕は呉羽を見る。

 呉羽の特徴はそのややウェーブのかかった栗色の髪に猫のようなアーモンド形の目だ。いつも笑顔が絶えなくて、その表情はひまわりみたい。後なぜか一人称が『ボク』である。ちなみに彼女は低身長でありながらもグラマラス。言い換えると肉感的なのである。あ、何か言い直したほうがエロいな。まあ、とりあえず何か感想を言うとしたなら、姉の明菜とはえらい違いだね、ってところかな。


 そして最後に嫌がらせとしか思えないほどに間を取って挨拶を返したのが、僕のもう一人の妹で末っ子の宍倉愛華。


 彼女はただ座っていた。これは礼二みたいにぼーっとしているとかそういう次元でもなくて、ただ座るという行為を純粋に完遂していた。正座でちょこんと座り、手はしっかりと膝の上。そこから微動だにせず、ただ前を見ている。視線が虚ろでない分意識がどこかに飛んでいるわけでもないだろう。何もせずに座ると言う行為――この格好を数十分維持しているのは、ある意味一番簡単で一番難しいことではなかろうか? そんな彼女に少々の驚嘆と畏怖を覚える僕なのであった。

 その恐るべき才能(いや、本気で言っているわけでもないよ)を十四歳で発揮する妹は、礼二の不機嫌面や呉羽のニコニコ顔とはまた別に完璧無敵の無表情をその顔にのせるつわものである。そのせいか、どうにも彼女からは冷たい雰囲気を感じてしまうのだ。他に特徴といえば、艶やかな黒髪のボブカットととろんとした感じの垂れ眼ぐらいであろうか。体躯は細身で、体形は平均的。一般的女性から見て、平均的。つまり、この歳で言えばそれなりなのだ。 この妹も我が姉上の敵となる覚悟があるらしい。


 そんなことを考えて、どうしようもなく無駄なことを考えていたなぁと悟り、僕は自分の席でテーブルに頬を乗せて、その無駄骨した頭を癒すことにした。分かりやすく言うならば、テーブルを枕にしてお休みしているのである。ちなみにここに椅子はない。必然的に胡坐をかいて座ることになる。

「おい、こら、睦月。食事する場所に頭を乗っけんのは止めろ、っていつも言ってんだろ。ほら、さっさとどけろ」

「うう。ええじゃないか、ええじゃないか。まだ寝たかったのに明菜が僕にエルボークラッシュをしてきたもんだから止む無く起きることになったんだよ。あと五分。あと五分だけ」

 礼二の問答無用な言い様に、僕はそのテーブルの上で頭をごろごろと動かし拒絶を表す。

 眠気なんて本当はもうすっかり吹っ飛んでいるが、このまったりとした感じは好きなのだ。寝ないけど、横になる、みたいな。この言いようのないグダグダ感がたまりません。

「あははははは。えい」

「えぐはっう!!??」

 幸福に浸っていた僕に、いや、僕の耳になにやら異物が混入してきた。あまりの衝撃に意味不明な悲鳴が僕の口から漏れる、そして耳の穴が無理やり拡張される。というか、これはもはや混入じゃなくて挿入だ。だって、今、僕の耳から流れる赤い液体は血ですよね? 後、僕の耳の穴に何ゆえお箸が突き刺さっているのだ?

「ちょ、呉羽! 何すんの!? 僕の耳に恨みでもあるわけ!?」

「だって、邪魔じゃんさー。ゴハン食べんのに、邪魔。邪魔。邪魔。邪魔。邪魔。邪魔」

「そこまで繰り返される悪意を感じるですけど!」

 ぎゃー、ぎゃー。ぎゃー、ぎゃー。ぎゃー、ぎゃー。

 何て感じで僕と呉羽が言い争っていると、お盆を持って明菜がやってきた。ご飯だ。

 それを見て、僕と呉羽は綺麗に姿勢を正す。そんな様子を見て礼二がため息なんてついていたけど、気にしない。気にしない。

 お盆に乗ったゴハンを明菜が並べていく。それを僕と呉羽も手伝って並べていった。今日のご飯は白米にお味噌汁に鮭に目玉焼き。純日本食だね、素晴らしい。

 家族のみんなの分を並び終えると、明菜も定位置へと腰を下ろした。

 そういえば明菜の紹介をまだしていなかったので、一応しておこう。


 僕の姉で礼二の妹にあたる彼女の名前は宍倉明菜。

 十七歳の乙女(自称)だそうだ。

 彼女の一番の特徴といえばその腰までありそうな長い髪であろう。姉上様はそれをポニーテールにして、プラプラと垂らしている。それを掴んで引っ張りたい衝動を抑えなくてはいけないからいつも大変なのだ。意志の強そうな勝気な瞳にスラリとした体格のスレンダーさんで、胸が小さいのが悩みらしい。日頃の行っているバストアップ体操は秘密らしいが、残念ながら家族周知の事実なのであった。涙ぐましい努力である。とはいえ、胸はなくとも大和撫子なんて言葉がぴったりな美人さんではあるんだけどね。礼二が父親的存在なら明菜は僕らにとって母親的存在だ。

 一通り朝飯の準備をし終えると、僕らは床に正座して手をパンっとあわせる。そして、またお決まりの言葉で農家の人――ではなく、機械たちに感謝を捧げた。いや、別に感謝なんて気持ち本当はこれっぽっちもないけどね。習慣というやつだ。


「「「「「いただきます!」」」」」


 そしてそれを合図に、戦いのゴングが打ち鳴らされた。

 すさまじいスピードで箸を動かし、しきりに口を動かす僕ら。別に食べ物は消えないが、いつまでもそこにあるとは限らない。

 眼を開け。精密に、確実に、獲物を奪い取るのだ!!

 何を馬鹿なことと思うことなかれ。現状は残念ながら戦場だ。

 例えば今、呉羽の箸が礼二の鮭を奪い取り、僕の箸が僕の目玉焼きへと伸びた明菜の箸を抑え、愛華はもくもくと食事中。

 僕らの視線は熱く絡み合い、火花がバチバチ、ちゅどーん。

 そう、これは生と死を賭けたバトルロワイヤルなのである。敗者には銀シャリ一粒も残らない。昼食までお腹の音がグーグー鳴ること間違いなしの恥辱を受けねばならぬ。そのため、このときだけ僕らは餓えた獣と変わるのだ。例え朝でも僕らの食欲は旺盛なのである。

 唯一落ち着いているのが末っ子の愛華ぐらいなもんだから、僕らに年上の威厳なんてもんはまったく微塵も存在しないんだろうけどね。

 そんな戦場のように騒がしい朝。

 これも僕らにとってはいつも通りの光景だ。


 ああ、後そういえば一つ言い忘れていたことがあった。別にたいした事でもないけど、引っ張ることようなことでもないので一応付け加えて言っておこう。




 もう気付いているかもしれないけど、僕らに血は繋がっていない。




 礼二が十八歳、明菜が十七歳、僕が十六歳、呉羽が十五歳、愛華が十四歳。

 いやいや、さすがに同じ腹からは無理だろう。

 ちなみに赤の他人が集まって家族をしている事情は色々だ。

 色々。

 何かそれだけ説明終わりそうだよね。だけど、それも仕方がないもんだと思うんだ。『ここ』じゃ、事情だなんて言葉はたいして意味をなさない。だってそれぞれが絶対に何かを抱えているし、人に言えないような過去を持たずに生きている人間は残念ながら『ここ』にはいないから。普通でない事情が『ここ』ではごく普通なことにもなり得てしまう。

 まあそれでも、僕らが≪家族≫に行き着くまでの経緯にはそれなりのドラマもあったし、苦痛も苦労も一通り体験してきた。涙あり、笑いあり、エロあり、グロありの御伽噺。語るほどの物語じゃなくても、もし機会があればいつか話すこともあるだろう………………多分。

 でもね、大事なのは過去の事情(そんなこと)なんかじゃなく、誰一人として血は繋がっていない僕らが今家族として暮らしていることだと思うんだ。

 『家族』というのもまた何か違う気もするけれど、それでもやっぱり一番しっくり来る言葉が『家族』だからきっと家族なのだろう。そもそも一々分類しようなんて考え方自体がくだらないことではあるんだけどさ。

 僕らは、僕ら。例えこの関係を何と呼ぼうがそれに変わりはなく、大切でかけがえのない存在であることに変わりもない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、ちょっと!! 今感動的なモノローグ入れているのに僕のご飯勝手に取らないでよっ!! あ、こらっ、その鮭は僕が取った奴だ!!!」

「うるせぇ! 意味わからんことをほざくな!! というか、それは俺の鮭だろうが!!」

「違うよ! 礼二の鮭を取ったのは呉羽だって!!」

「にゃはははははは。おーいしぃ。」

「ここは私の領域だ! 誰にも通らせないぞ!!」

「その領域に僕の分も入っているのはなんでよ!?」

「・・・・・・・うるさい」

 騒がしい僕らの朝の食卓。

 だけど暖かくも感じる食卓。

 こうして僕ら宍倉家族の日常が始まる。






ちょっとお話しをば。

ずっと書きたかった現代ファンタジー&コメディー。それをノリと勢いで書き上げました。正直どこまで続くかわかっていません。できればどこまでも書きたいし、しっかり終わらせもしたいと思います。

あくまでこの小説はノリです。勢いです。たまに話の筋もおかしくなってしまうかもしれません。一応、細心の注意を払ってはおりますが。そこはできるだけ生温かい目で見てやってください。

小説の感想などが送ってくださると、作者は部屋で一人踊り狂います。励みになります。「ま、面白い、かな?」ぐらいの感想でもよろしいのでぜひぜひ。

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