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【完結】あの鐘が鳴るころに…。

掲載日:2026/05/10

この物語は、ある「別れ」から始まります。


主題歌「月影白翼|白鴉の祈り」と共にお楽しみください。

https://youtu.be/Et40alnuwO8




――その鐘は、祈りか、別れか。


鳴り響いたその音は、

誰かを救うためのものだったのか、

それとも、

取り返しのつかない別れの合図だったのか。


その答えを知る者は、もう――







花の香りが漂う、小さな王国────



外から見れば、この国はきっと美しく映っていただろう。緑に覆われた丘、豊かな実りを誇る大地、そして民に慕われた王族────


だが花の影には、いつも闇がある。

飢えた子どもが路地に蹲り、税に追われた農民が眠れぬ夜を過ごしていた。繁栄という名の仮面の下で、この国はゆっくりと腐っていた。







ある夜のこと─────







「ダナー伯爵さま。もうこれ以上は無理です!」





頻拍した声でそう言ってきたのは伯爵領に住む住人代表のトマスだった。彼の後ろには住民が数名共に着いて来ていた。


モートン王国の中でも特にこの伯爵領は干ばつが酷く、税を国に納めることがとても難しい状況だ。



「すまない。君たちにこんな…。必ず私が何とかするから、もう少しだけ我慢してくれないか?」


40歳くらいの身なりを整えた伯爵が住民たちに頭を下げた。


その姿を見た住民たちはざわついた。貴族が平民に頭を下げたのだから…。しかも自分たちのために伯爵は私費で税を賄っていたので身なりは整えてはいるが、質素な生地で仕立てられた服を着用している。



「わ…、わかりました。伯爵さま。どうか、頭を上げてください。」


戸惑いながら懇願する住民代表トマス。




「ああ。本当にすまない。陛下には何度も進言したのだが、聞き入れてもらえなかったのだ。こうなったらブラント侯爵さまの提案をのもう!」


「で、では…?!」


「ああ、反乱だ。」


みんながゴクリと生唾を呑んだ。言うのは簡単だ。失敗すれば全員の命がない。ここは慎重に行動しなくてはならないところだ。緊迫した空気が一気に流れる!

そんな中、伯爵が続いて発言をした。



「皆もわかっていると思うが、一切の情報を漏らしてはならない。我らの明日を勝ち取るためだ。協力してくれるか?」


「もちろんです!」



伯爵の本気が住民たちに伝わったのだろう。彼等の悲観していた顔つきが、目に生きる希望の力を宿した。

こうして夜の会合は終わった。








──────────




王宮では今日も豪華な食事が出されていた。

給仕をする侍女のキャサリーはそのご馳走を見て思った。



〝ここは天国だ。こんなに食べるものが溢れている。それなのに王も王妃もいつも悪びれもせずに残している。娘二人もよく残して部屋に持ち帰る。王女ともあろう者が部屋に持ち帰るなど…。〟


羨ましくもあり、妬ましくもあるようだった。だが、王族の前では決してその考えがバレないように振舞っている。



双子の王女のマナがナイフとフォークを置いた。


「ご馳走さま。あとは入れ物に詰めて部屋に運んでもらえる?」


すると隣の席で食事をしていたルナもナイフとフォークを置いた。


「私の分もお願いするわ。」


そう言って王女二人はそれ以上何も言わずに席を立った。




「まあ、二人ともお行儀が悪くてよ?残ったら捨ててしまえばいいのに。」


王妃は二人の後ろ姿を見送りながら平然と言う。給仕をしていた侍女キャサリーは静かに眉をしかめた。



「さあ、そんなに怒っていないできみも早く食べなさい。」


国王が言うと王妃は食事を再開した。一連の様子を見ていた侍女のキャサリーはそれでも黙々と仕事をこなす。





みんなが食べ終わり、食卓を片付ける。洗い場へと食器を運び、彼女はため息を一つ吐いた。


「これだけの食料があればどれだけの家族が救われるか…。」


残った料理を見て彼女は押していた手押し車に力がこもり、小刻みに震えていた。悔しさで涙がこみ上げる。彼女はダナー伯爵領の出身で、トマスとは恋仲であり、伯爵領の民たちがどれだけ困窮しているのかをよく知っているからだ。更に自分の家族からの手紙でも毎日食べるものがなくて困っていると書かれていた。


だからと言ってこの余った食事を袋に詰めて持ち帰ることは出来ない。


そんな事をすれば断罪される。もしそうなった場合は被害は自分だけでは済まず、家族はもちろんのこと、領地民にまで迷惑がかかる可能性があるほど、王宮の物を外に出すということが罪なのだ。


キャサリーは目に涙を溜めながら仕方なく食料を袋に詰めて処分をした。

バサバサバサ…。食料が袋に詰められる乾いた音が耳に届く。





──────────



二人の王女は部屋に届けられた食事を大きな籠に入れて、自分たちは服を着替えた。朝食のあとは昼食までかなり時間が空く。


「ねえ、メリー(侍女長)が来るまでには戻れるかしら?」


「わからないわ。それよりもさあ、早く行きましょう!」


こっそり城を抜け出して二人がやってきたのは城下町。それもかなり奥の下町だ。ここには貧困層が暮らしている。




遠くから誰かを呼ぶ声がする。


「ナナ!ルル!」


どうやらこの名前は二人のことのようだ。彼女たちが振り返るとそこには12歳の男の子がいた。


「シン!」


「どうしたんだい?お?今日も差し入れか?有難いな。」


そう言って少年はニッツと笑って彼の案内で二人は路地裏の奥へと入って行く。



─────そう。二人の王女はわざと食事を残してここに持ち込んでいた。







その頃、城では…。


「王女様~!」


侍女長メリーが王女二人を探していた。どうやら淑女教育の時間が近付いて来ていた。


「もうっ、一体どこにいるの!ちゃんと王女としての自覚はあるのかしら!?」



プリプリと怒っている。これは二人が帰ったら相当怒られるのだろう。そんなことも知らずに二人はシンと共に行った先で持ってきた食料を丁寧に住民たちに配る。

傷薬や痛み止めなども準備しているため、必要に応じて渡している。



「気が利くね!」


「シン…。」


シンがルナに声をかけた。それを見てマナは意地悪に聞いてみた。



「ちょっと、シン。私には?」


「あ、え…と、ナナも、ありがとな。」


「ふっ、まあいいわ。」


そう言ってナナ(マナ)はくすっと笑った。



そんなやり取りを見ているルル(ルナ)。


〝気付いてないのはマナの方なんだけどなぁ。〟


ここは貧しい者たちの集まりではあるが、心は温かくなる場所だ。






──────────




ダナー伯爵がブラント侯爵邸を訪ねていた。


表向きは「事業提案」。だが、あくまでも反乱のための話し合いに来ていた。



「そうか、ようやく決心したか。私の方もガラネット公爵様に話をつけてあるんだ。君のところの気持ちが固まったのなら、3日後のガラネット公爵様の夜会で一室設けてもらうから来てくれ。綿密な計画を立てよう。」


「わかりました。」


どうやら話はまとまった。






──────────






─────三日後、ガラネット公爵邸



限られた人物のみが入室出来るように公爵が部屋を一つ準備した。そこは内側から鍵を掛けられる部屋。


反乱のための主要人物、ガラネット公爵、ブラント侯爵、ダナー伯爵、それぞれが着席する。主催者はガラネット公爵で、現王の弟にあたる。



ーガチャン!


鍵はしっかりと閉められた。

この音を聞いて本格的に話が始まることに緊張を隠しきれない面々。そんな中主催者であるガラネット公爵が挨拶を始めた。



「諸君、今日は我らの目的のために集まってくれてありがとう。さて、本題にはいろう。皆も知っての通り、今の王政はとてもじゃないが、見ていられない。私は兄が暴政を敷くのをもう見てはいられない…。限界だ。」


それだけ言って、公爵は静かに地図を広げた。彼の表情からは複雑な心境が滲み出ていた。だが誰も何も言わない。ただ、静かに彼の気持ちに賛同するだけ。


「公爵様。我ら一同も公爵様と同じ思い、もう陛下の横暴な政治にはついて行けません!我らあなた様にどこまでもついて参ります!」


そう一番に賛同したのがブラント侯爵の言葉にガラネット公爵は深く頷いた。それを見て他のみんなも深く頷いた。皆の緊張もいつの間にか熱意に変わっていた。



「では、決行の日を決める。間もなく二人の王女の誕生披露パーティーがやってくる。きっと油断しているであろうその日の夜に決行する。我らの騎士団を護衛という名目で宮殿内に配置している。また、王宮騎士団の団長ドマールも既にこちら側についた。どうやら彼らは王にお荷物隊として理不尽に扱われているらしい。今の平和が保たれているのが彼らのお陰だというのに…。」


「それはドマール殿も悔しい思いでしょうな…。」


一同、深く頷きドマール団長の気持ちを慮った。



「それでは続きを…。」



ガラネット公爵はじめ、反乱軍は静かにその部屋で話し合いを始めた。






その頃、ガラネット公爵夫人が準備したパーティーは大成功を収めていた。



「夫人、今日は本当に素敵なパーティーでしたわ。」


「まあ、キララ夫人。センスのいいあなたにそう言って頂けるだなんて私も嬉しいですわ。」


「あら、本当のことでしてよ。夫人、私達の主人もどうやら意気投合しているようですわね。」


「本当に。殿方のご趣味というものは私達には理解出来ませんわ。ホホホ。」


和やかに会話する二人の婦人。キララ夫人はグラント侯爵の妻だ。二人は互いに主人がどこで何をしているのかを知っていてのこの会話。



「あら。マリアンナ夫人、キララ夫人。こちらにいらしたの?」


「まあ、どうされました?タラリー夫人。」


「私、夫が先ほどから姿が見えなくて…。あなた方のご主人と一緒ではないかと思いましたの。」


マリアンナとキララは二人で顔を見合わせた。


「まあ、それは大変ね。私達も一緒にお探ししましょう。それではキララ夫人は庭園の方を、タラリー夫人はもう一度ホールの方を、私は室内を見て参りますわ。見つけましたらホールにお連れしますのでそのままお待ち下さるかしら?」


「ええ、お願いします。」


そう言って三人はそれぞれ行動に移した。マリアンナは内心焦っている。途中で使用人を探してメモを渡した。万一の事態に備えて事前に使用人の中で一人だけ連絡係と連絡手段を準備していた。


なぜマリアンナがこういう行動をしたのかというと、タラリー夫人はサントン公爵夫人で、王妃の生家だからだ。つまり、反乱軍にとっては都合の悪い家門。そのサントン公爵の行方がわからないと言う事は反乱軍の集まりに気付かれてしまったのかもしれない。





どうやらその不安が的中していたようで、

反乱軍会議のためにと用意した部屋のそばでサントン公爵がウロウロしている。



そこに使用人が大きな荷物を持ってやってきた。


「おい、そこの君。この部屋には鍵がかかっているようだが、何の部屋なのだ?」


「はい?こちらの部屋でございますか?ここは物置となっております。今からこの物を入れたいのですが…。」


「そ、そうか…。物置か、このような場所に…?」


「何でしたら覗かれていきますか?」


使用人の〝覗く〟という言葉に公爵は顔を真っ赤にして


「しっ…、失敬な!」と言ってはいたが、興味はあるようだ。使用人はそんな公爵をよそ目に部屋の鍵を開けて荷物を部屋に運び込む。

公爵はそっと中を覗き込む。


「おぉ、本当に物置なんだな、失礼した。」


そう言って諦めてその場を後にした。



使用人はドアの鍵を内側からかけ、外から見えない部屋の奥にまわり、その先にある続き扉をノックした。


コン、コン、…コン、コン、コン、…コン。



すると中から扉が開かれた。このノックも合図の一つだ。


中に入ってすぐにガラネット公爵に夫人からのメモを渡し、つい今、その公爵にこの扉の前で会ったことを説明した。


「はは、ヤツも相当焦っているな。それではこの辺で解散としよう。みな、それぞれの通路から出るがいい。」


「はい、公爵様。」


こうしてマリアンナ夫人の機転により難を逃れた。






マリアンナ夫人は室内の客間のスペースを回っていた。そこにふらりとサントン公爵がやってきたので、


「公爵様。ご婦人が探しておいででしたよ。さあ、ホールまでお越しください。」


声かけをしたマリアンナを見て公爵は言う。


「それでここまで私を?」


マリアンナは頷いて、公爵に返事をした。



「屋敷内のことは私が一番存じておりますから。」


「ハハッツ、そうだな。それよりも夫人、ガラネットはどこにいるのだ?ずっと姿を見ていないのだが。」


そう言ってサントンは目をギロリと動かした。



「まあ、でしたらきっと従弟のダナー伯爵と一緒ですわ。私室におりましてよ。二人でこの前のチェスの続きをするんだって意気込んでおりましたから。」


「なんと、公爵は客人に挨拶もせんとチェスにのめり込んでおると!」


サントンは驚いた様子を見せるが、


「あら、大丈夫ですわ。今日のパーティーはあくまでも私が主催しておりますゆえ、主人は関係ありませんもの。」


「ハ、夫人もあまり奴を甘やかさない方がいいぞ?」


そう吐き捨ててサントンはホールへと向かった。




マリアンナは内心冷や汗だったのでやっと一安心した。






こうしてこのあと、この夜は静かに過ぎ去っていった








──────────






決行日当日─────




「王女様方のお誕生日のお祝いに。」


貴族たちが総出で祝いにやってくる。昼間は対面で挨拶を受け、夜は舞踏会へと変化を遂げていく。


招待客がどんどん帰って行く中、宮殿の中は妙に張り詰めた空気が漂っていた。

だが、知らないのは王族の4人だけ。



「今日はいい一日になったか?マナ、ルナ。」


「はい、お父様。」


二人が満面の笑みでそう返事をすると王は上機嫌になった。


「お前たちももう15歳だ。そろそろ婚約者くらいは必要だろうな。」


「いやですわ。お父様。私達まだ誰ともそんな…。」


「うむ。ここを離れたくない気持ちはわかるが、周りの国との協力を得るには政略結婚が一番なのだよ。」


「そんな…。」




そのときー!




広間の扉がバ─────ンと開いた!






そして甲冑を着た騎士たちがズカズカと中に入ってくる。



「な!何事だっ!」


王が大きな声をあげ、王妃は王の後ろに隠れる。王の前にいた二人の王女は驚いて言葉も出ていなかった。



甲冑を着た一番前を歩いていた男性がスッと右手を上げた。

するとそばにいた使用人たちが王女二人を捉えた。


「な…何をするんですか?離して!」


二人は抵抗するものの、数人がかりで押さえつけられると何も出来ず、そのまま縄で縛られた。



そして王のそばに仕えていた、王にとって一番信頼していた秘書も王に縄をかけた。


4人はこうして素早く捉えられた。



一番前にいた甲冑を着た人物がその仮面を外した。



「─────な、お前はっ!」


まさしく王の弟であるガラネット公爵だった。



「兄上、あなたの暴政ぶりは目に余るものです。どうか、覚悟なさってください。」




すると王妃が突然声を上げた。


「こんな事をしてただで済むと思ってか!?私の生家、サントン公爵家が正当性を持ってそなたらを制圧できるのだぞ!」


「フッ、それが出来ないんですよ。義姉上。我らが軍が既にサントン公爵家を制圧していますから。」


「な、なんと!」


王妃はその場に崩れ落ちた。




そのまま4人は別々の牢屋に閉じ込められた。きっと全員死刑だろう。



牢に入っても王と王妃は悪態をつくばかりだ。ずっと牢獄の中で二人の声が響いていた。




それに比べて二人の王女、マナとルナは静かに二人で語っていた。


「これでよかったのよ。もう国民がひもじい思いをしなくて済むわ。きっと。」


「そうね。それが一番よね。」


隣同士の牢で互いに国民のことを思って話をしていたのだ。まだ15歳だ。死ぬのが怖いだろうに…。



ガラネット公爵はそっと牢での王族の対応を見ていた。




そして王、王妃と処刑が施行され、



「もうすぐ私達の番ね…。二人一緒だと心強いね。」


「うん、そうだね。」



二人は最後まで暴言を吐いたりは一切しなかった。








そして二人も処刑の日がきたー




処刑台に立ち、民衆が集まっているのを目にするふたり。


「お父様とお母様があなたたちを苦しめてごめんなさい…。」


そう小さく呟いた。




断頭台の近くへと連れられたマナとルナ。流石に台を見た時、二人は「ひっ!」と小さく悲鳴をあげた。

断頭台に付いている染みが妙に生々しい…。実母である王妃でさえ取り乱していたというのに、二人は決して取り乱さなかった。きっと二人の中で〝王女〟としてのプライドがあったのだろう。




ここでガラネット公爵が手を上げて待ったをかけた。


「お前たちにチャンスをやろう。」




「………………チャンス?」




「期日は明日、太陽があの塔の高さまで登るまで。それまでにあの東の塔の鐘を鳴らす事。」


「それなら…。」


「ただし─────!」


「………………?!」



ガラネットは目を見開いて続けた。





「一人だけだ。残り一人はここに残って待つ。」




「─────!!」



これは一人で逃げることも出来るということを意味する。



マナもルナも悲しかった。自分たちが自分のためにお互いを裏切ると思われているのかと思うと悔しかった。



「わかったわ。」


返事をしたのはマナの方だ。



「マナ?」


「何を弱気になってるのよ。私は私達の絆を信じてるもの。このまま二人で死ぬなんて嫌!」


「………………ふっ。それもそうね。マナ。」


そう言ってルナが笑った。



「ほほう、それで?どっちが残るんだ?」


ガラネットがそう尋ねると迷わず


「私が残るわ!だからマナ、お願い!」


「………………ルナ。…うん、わかった。」



マナにもルナにも強い意志がその瞳に宿っていた。



「では、今からマナ王女を開放しよう!さあ、民たちよ、今までの王族の行い、ただで許せるのか?許せない者は今からがチャンスだ!」


そう言ってマナを民衆の前に投げ入れた!



マナはまだ両腕を後ろに縛られたままだ。




王族に怒りを覚えている民衆はマナに飛びついて、殴る、蹴るを行った。



「─────嘘ッ!マナ!マナッ!!─────ねえ、公爵様、止めて!止めて下さい!」



ルナが必死に懇願する。

実の姪であっても容赦はしない公爵。夫人が見かねて


「あなた!」


たった一声だった。それでガラネットは動いて



「よし!そこまでだ!誰か王女の縄と解いてやれ。それからだ。」



状況はさほど変わらない。だけど縄を解いてもらったお陰で逃げやすく、動きやすくなった。マナの動きが王女らしくないのを見てガラネットは不思議に思った。



「─────なんだ?王女であれだけ走れるものか?」


思わず夫人の方を見ると夫人は少しほほ笑んでいた。



「さあ、淑女として教育を受けていれば通常、走れません。きっと抜け出してナニカをしていたのでしょうね。」


「ナニカ?」


「心あたりはありますか?ルナ。」


「………………。」


「そうよね、私とも話したくないわね。きっと〝どうせなら助けてくれても〟って思ってるでしょう。私もそうしてあげたいのはやまやまなのだけど、そうすると示しがつかないのよ。あなたもわかるでしょ?正義のためには時には非情にならなければならない。」


「………………。」


「小さな頃のあなたたちを見てきたわ。ずっと成長していく姿も。それなのにあなたたちをこの状況から救ってあげられない、本当は辛いのよ。だけど、あなたたちをただ生かしておけば民衆の怒りが収まらないでしょう。このゲームはあなたたちを救うための馬鹿げたゲームなの。わかって。」


「………………おばさま…。」


「ふっ、おばさまって呼んでくれるのね。………成功を願っているわ。」



そう言葉を残してマリアンナは壇上から降りた。



ルナはただ待つだけなのが悔しい。だけどマナが生き延びてくれればそれでいいと思った、ただそれだけだった。







一方、逃げているマナは途中でも民衆からの暴力に遭い、追っ手によって知らない人間にでさえ王女であるということがバレてまた暴力に遭うということを繰り返していた。


「こんな目に遭うなら、いっそのことそのまま死んだ方がましだったかもしれない………。だけど私はルナさえ生きていけるならそれでいいと思ったの…。ルナ。絶対に鐘を鳴らしてみせるわ!」


身体が傷付きながらも心はずっとルナを思って耐え忍んでいた。






ようやく東の塔の地区に辿り着いた。


「おじさまは私に本当に鐘を鳴らさせる気があったのかしら………。こんな遠くにまで、普通の王女だと来れないわ。」


心もずたぼろになりかけていたとき





「ヘッツ、王女か。」




冷たく低い声がした。

だけどマナはその声は覚えている………。





「シン?」


「………………なんだ?俺のこと知ってるのか?」


「シン、私よ。ナナよ。」



「………………あぁ、俺を揶揄っているんだな。よくある名前だもんな。それに!大切なナナ(マナ)の名前を勝手に語るんじゃないよっ!」


そう言ってシンからもパンチを受ける。



「お前たち王族が暴政を敷いたせいで多くの民たちが貧困で苦しんでいるんだ!どう責任を取るんだ!?このまま逃げようってのか!?」


激しい怒りがマナに突きつけられる。



「間違いないわね…。おとう様もお母様も、止められなかったのは私達の責任だもの。あなたの言う通りだわ……………。だけど私は双子のルナを助けるために行かなくてはならないの………。ごめんなさい。」


そう言ってマナはゆっくりと立ち上がった。

本人はまっすぐ歩いてるつもりだろうがヨタヨタしている。





シンはオロオロしていた。


〝なんだ…?親を止められなかった?じゃあ、王女たちは悪くないのか?〟





マナは振り返り、


「シン………。いつもありがと。あなたたちと過ごした日々は短かったけど、とても充実していたわ。もうお薬も届けられなくて、ごめんなさい。」


そう言ってマナはシンに背を向けて東の塔を目指して歩いて行った。





シンは衝撃のあまり立ちつくしたままだーー



「嘘………だ、まさか、本当にナナ………?」


シンは大切なナナに対して手を上げてしまったのだ。そのままその場に崩れるようにへたり込んだ。







──────────







そして目的の東の塔に着いたとき、すでに太陽は昇り始めていた。





─────これじゃあ、間に合わない!急がないと!




マナは急いで塔の先にある鐘を目指して階段を駆け上がる。



「ハア、ハア、ハア、ハア、………。」



どんどん息が上がって、足ももつれるようだ。一段を登るための一歩が鉛のように重く感じてきた。



あとちょっと…


「ハア、ハア…。」





─────その時だった!



「─────うっ!」



突然吐き気がして思わずその場で吐いてしまった。


「─────!!」


驚いたのは吐いたものが「血」だったからだ。



「………………。」



だが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。






〝ルナが待っている………。〟




ただその事実だけがマナを奮い立たせた。







──────────




その頃、断頭台の前では


「間もなく、約束の時間だな。」



ガラネット公爵がルナにそう言った。民衆がまた再び断頭台の前に集まり出した。



ルナはずっとここで待機していた。断頭台の前でペタリと座り込んだままだ。


〝マナは無事に逃げただろうか…。流石にあんな目に遭って東の塔まで辿り着くなんて無理だよ………。〟


じわりとルナの目に涙がにじんだ。彼女の身体がガクガクと震え出した。







太陽が昇っていく…。


その様子をずっと見つめているルナ。





「さあ、宣言していた高さまで太陽が昇ったぞ。お前の片割れはどうやら逃げ切ったようだな。よかったな。」




「………………。そうね。私も嬉しいわ。」


「お前は裏切られたのに悔しくないのか?」


「………………。裏切っていない。私がマナの幸せを願っているだけだから。」


「ハ!何とでも言え。約束は約束だ。お前を処刑する。」





そうガラネット公爵が宣言したときだった。







「カーン、カーン………。」







「──────────!!」



「鐘が鳴った!」「鐘が鳴ったぞ!」



民衆が口々に言う。




その鐘の音を聞いて、ルナは涙を流した。



─────生きていた!


「バカね…、マナ。だけど、ありがとう。あなたを抱きしめたわ、マナ。」




挿絵(By みてみん)







こうして公爵は宣言通りに王女ふたりの死刑を撤回した。


「王女としての身分を剥奪し、いち平民として生きるように!」




ルナは深く頷き、「承知致しました。」と返事をした。




この一連の流れはすぐに国中に広まった。



ルナは平民になって一番にシンの元を尋ねることにした。




「ルル(ルナ)。俺、ナナ(マナ)を知らずに殴っちまった………。」


落ち込むシンにルナは


「大丈夫よ。マナもきっとわかってくれるわ。それよりもその後、マナはどこに?」


「いや、俺も探してるけど会わないんだ……………。」


「そうなの?私を置いてどこかに行ったりしないと思うけど…、鐘を鳴らしたあと、ちゃんと逃げられたのかしら………。」




そのとき、そっと風がルナの頬を撫でた。



ルナはきっとそうだと思い空を眺める。






青い空はどこまでも澄んで広がっている─────
















ねぇルナ………。

自由になったら二人でまた城下町へ行きましょう。もうお薬は持って行けないけど、いつものようにみんなと協力していけば何とかなるわよ、きっと。



ねぇルナ………。

あなたが誰かと恋をして笑ってる姿が見えるわ……………。その時は私どうしているのかしら………。




ねぇルナ………。

私達はずっと一緒よ。辛い時も楽しい時も、ずっとずっと………。


ずっと一緒よ………。ねぇ…ルナ……………。











─────マナはあの日、



鐘を鳴らしてそのまま息絶えました。






ただひたすら、ルナの幸せを願って













─────完─────








ご覧下さりありがとうございました。短編にしては長くなりましたが、何とかまとめることが出来てよかったです。マナとルナ。ずっと二人一緒に生きてきたからこその絆が二人を支えてきました。

結果、マナは人知れず旅立ちましたが、お互いにお互いを思っていることだけは変わらないようです。

この物語の主題歌はこちらです。


読み終えたあとに、もう一度聴いていただけたら嬉しいです。

https://youtu.be/Et40alnuwO8


「side ルナ、後日公開予定」





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