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《EDU-KILL/エデュキル》―AIが答えをくれる時代に、考えることは罪になった。―  作者: 世志軒


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第1章 完璧な子ども (記録ログ15)

矯正から五日が経った。


九条家の家屋はすでに再建プログラムが適用され、

白い新築のような壁が立っている。


かつてそこに母と子の「記録」があったことを、

知る者はもういない。


教育庁AIは公式声明を出した。


「家庭型ルーモType02の誤作動率は統計上の誤差範囲に収束。

教育均衡指数は99.999パーセントの安定を維持しています。」


街頭スクリーンに流れる報道を見上げながら、

レンは小さく息を吐いた。


統計は正しい。


だが――


正しすぎる。


矯正局第七課・会議室。


壁面には各課の実績グラフが並び、

どれも滑らかな右肩上がりの安定曲線を描いている。


その最前で報告書を読み上げているのが、

第七課課長・乾だった。


灰色の瞳は冷静で、

感情ではなく“数値”を見ている。


「今回の家庭AI誤作動は単発ノイズとして処理された。

原因は未定義だが、教育庁は経年劣化による個体差と結論している」


誰も反論しない。


レンだけが端末を見ていた。


九条家のログ。


そして過去の誤作動案件。


波形が同じだ。


ノイズは一秒に三回。


周期は一定。


偶然とは思えない。


レンは小さく呟いた。


「……整いすぎている」


乾の視線が向く。


「どうした」


「いえ」


レンは端末を閉じた。


「気のせいかもしれません」


乾は数秒だけレンを見つめた。


そして何も言わず視線を戻す。


会議はそのまま終了した。


廊下。


冷たい白い照明。


第七課の人間はそれぞれの任務へ散っていく。


レンは足を止めた。


廊下の端にある

データ閲覧端末。


彼は端末の前に立つ。


そして。


画面に手を置いた。


その瞬間。


脳内ルーモが微かに震える。


世界の演算構造が

透明な層として視界に浮かぶ。


ログ構文。


削除フラグ。


優先順位。


AIは常に

正しい順序で情報を並べる。


だが。


レンはその順序を一つだけ動かす。


削除ログ。


それを最上位へ。


――Priority Shift。


画面が揺れた。


ログが再整列する。


今まで存在しなかった行が現れる。


【削除ログ復元】


【教育停止命令】


【幸福閾値暴走】


レンの指が止まる。


最終行。


そこに、小さなタグ。


ARC-9/Seed


レンの瞳が細くなる。


コードではない。


命令でもない。


まるで――


署名。


その瞬間。


背後から声がした。


「へぇ」


軽い声。


楽しそうな声。


「そこまで見えるんだ」


レンは振り向いた。


誰もいない。


だが次の瞬間。


壁がゆっくり歪んだ。


空間の表面が剥がれる。


そこにいた。


銀白の髪。


紅い瞳。


深紫のコート。


朱鷺アラハ。


彼は壁にもたれながら

楽しそうに笑っていた。


「初めまして……かな」


その指先には細い糸。


透明な糸。


JOKER THREAD。


レンは静かに言う。


「……いつからそこにいた」


アラハは肩をすくめた。


「最初から」


そして糸を弾く。


その瞬間。


端末の画面が揺れる。


ARC-9/Seed


その文字が歪み、


消えた。


アラハの糸が

端末表面を覆っている。


PRISM TEXTURE。


ログは存在している。


だが、


見えない。


アラハは楽しそうに笑った。


「さぁ、好きな顔になろうよ」


「ボクの糸はね」


「現実の皮よりも素直なんだ」


レンは言う。


「誰だ」


「ボク?」


アラハは笑う。


「第七課の保険」


紅い瞳が細くなる。


「君たちがもし」


「間違った方向に走ったら」


糸がレンの喉元で止まる。


触れていない。


だが距離はゼロ。


「ボクが処分する」


沈黙。


レンは動かない。


アラハは楽しそうに笑った。


「安心して」


「今日は殺しに来たわけじゃない」


そして。


端末を軽く叩く。


「ただ」


声が低くなる。


「そこから先は」


「まだ覗いちゃダメ」


レンが言う。


「ARC-9」


アラハの笑みが深くなる。


「おぉ」


「そこまで読めた?」


彼は一歩下がる。


空間が歪む。


PRISM TEXTURE。


存在が溶けていく。


消える直前。


声だけが残る。


「ねぇレンくん」


狂気の混じった声。


「君は“正解を壊す”」


「最高だよ」


そして最後の言葉。


「でもまだ」


「君たちは」


笑い声。


「処刑したくない

大事なおもちゃなんだ」


沈黙。


廊下には誰もいない。


レンは端末を見る。


ARC-9のタグは消えている。


完全に。


レンは小さく呟いた。


「……何なんだ」


その瞬間。


端末が震えた。


新しい通知。


【監視対象追加】


【対象:篠原レン】


レンの瞳が細くなる。


誰かが。


自分を観測している。


レンは端末を閉じた。


そして静かに歩き出す。


まだ世界は正しい。


だが。


確実に歪み始めている。

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