第七話 もふもふしっぽの神殿案内
ティムくんが、キリッとした表情で案内しだす。
「まずここは、神殿の玄関です。下界の人間がくることはないので、猫神殿の者か、他の神殿の者が用事でくるくらいの、使い道ですにゃ。」
「ふむふむ」
ま、そうよね、人間ここ来れないよね。
「厳かな祈りの間とかもありますにゃけど、まぁそこら辺はすっとばして、普段使うエリアに行きましょーにゃ!」
おぉぅ、思い切りいい子は好きよ。
「さんせーい!」
ぴこぴこしっぽについて行く。すぐ近くにある中庭に出るみたい。
「ここは、中庭で、みんな仕事に疲れた時に、少し休んだり日向ぼっこしたりしますにゃ。神殿の周りの森に通じる細い道もあって、体を思い切り動かしたい時は、そっちに行きますにゃ。」
大神殿のお庭みたいに、芝生が敷き詰められてて、ところどころ花が咲き誇ってる。猫のモニュメントのついた噴水があったり、猫が遊ぶ用なのかな?高く登れる遊具もあって、至れり尽くせりのエリアだ。
猫足の椅子とテーブルもあって、遊ぶ猫さんを見ながらお茶も、なーんてこともできそう!むふふ。
あ、しっぽが先に行っちゃう!慌ててついていく。
「こちら側が、居住エリアですにゃ。うーん。こっち先にしよっかにゃ。」
ティムくんが悩みながら、案内してくれる。次は何かな?
お、扉の前で止まった。ここかな。
扉を開けながら説明してくれる。
「ここは、猫神殿の書庫ですにゃ。猫神様だけでなく、ありとあらゆる神様に関する書が集められているのにゃ。神界のものだけでなく、下界の書も置いてあって、人々がどのように神を理解しているのかを知るのに、役立つのにゃ。お嬢さんも自由に読んで、僕たちのことを知って欲しいにゃ。」
書庫は円形の二階建ての造りで、中にゆったりとした階段がついている。綺麗に整理されている。それにしても下界の本も読むという考えが素敵すぎる。
「人がどう思っているかを知るって、怖いけど大事よね。神様だし、知らないわけにはいかないもんね。曲解されていたら、信仰すらなくなってしまうもの。」
「そうにゃんですよ。信仰は、人々にとっても、神の存在意義としても、とてもとても大切にゃんです…。」
ん?元気なティムくんが、少し俯きながら答える。私そんなおかしなことは言ってないはずだけど。
「ティムくん?」
「あ、いや大丈夫ですにゃ。」
と言って、後ろ足で右耳をかきかきしてから、笑顔を見せてくれる。
そのセリフ、大丈夫じゃない猫のセリフなんだけどなー。
まぁ、まだ会った初日だからね。聞き出すのは難しいよね。
「さぁ、次行きましょーにゃ!次はお楽しみの、お嬢さんの泊まるお部屋ですにゃ!!」
うわぁ、きたきた!私のお部屋、個人であるんだ!
嬉しい!
「早く行こうーー!見たい!」
「じゃ付いてきてくださいにゃー!」
というと、ティムくんは、四本足の本気で走り出す。
えっ、これに付いてくの?無理じゃない?
そもそも神殿走っちゃだめでしょー?!
「はぁはぁ、はぁ〜。ティムくん…」
着いたら一言お小言をと思いながら、走ってきたけど、息が切れてなかなか言えない。
「さぁ、お嬢さん、ここがお部屋ですにゃ。ばばーん!にゃ!」
私の気を知ってか知らずか、構わず進めていくティムくん。
そうだった、猫さんはマイペース。
扉を開けて見せてくれたのは、一人でちょうどよさそうな広さの窓の大きな部屋だった。
「わぁ、入ってみてもいい?」
「もちろんですにゃ。何か希望があったら今のうちに言うのですにゃ。」
採光がとてもよく、揃えられた壁紙や家具は、どことなく中庭の雰囲気と似ていて落ち着く。あぁ、窓からはその中庭が見えるのね。
そして、大きな白い明らかにふわふわそうなベッドが置いてある。ドキドキしながら触れると、布団もベッドももふもふすぎる!
「ティムくん!このベッドすごいよ!最高のもふもふだよ!」
「それはこの神殿自慢のベッドなんですにゃ。実は、僕たちの日々の毛繕いから出た、最高級のもふもふの毛を集めて、綺麗に洗って、干して、祈りを込めつつ、このもふハンドで詰め詰めして手作りした逸品なのですにゃ!!」
ええええ!
手作り!
しかも猫さんの毛なの!!
だめだ、こうしてはいられない。
「ふーん、つまり…これは猫さんで出来ていると。」
言うなりニヤリとしながら振り返ると、ティムくんのお口が引きつってるわ。
あら私また悪いお顔してたかしら。
そして、そ、そうですにゃ……、というティムくんの返事を待たずして、私は、びょーんとベッドにダイブしていた。
「わぁぁぁ、ふかふかだぁ。もふもふだぁ。お日様の香りもするよ!ティムくん!」
すーはーすーはー繰り返す私から、数歩離れた気がするティムくん。
「そうですにゃね。このベッドを作れるのは、この猫神殿だけですにゃ。人気があって、他の神殿からの依頼も受けていますが、何年も待っていただいてますにゃ。」
「そっかぁ、そりゃ人気でるよねぇ。品質も最高級だもん。いっぱい作りたくても毛を刈る訳にもいかないしねぇ。」
とまたまた悪い顔でティムくんの全身を見つめれば、ぶるっと身震いをされてしまった。
「あはは、ごめんごめん。そんな事するわけないでしょ。冗談だよー。」
「ですにゃよね、分かってましたにゃ。」
と言ってくれたけど、次の案内場所までは、ティムくんは無言だった。
反省。ごめんね。
しっぽを見つめて歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。ティムくんの心も晴れたのか、
「次にお見せするのは食堂ですにゃ。お嬢さんも、ここで毎食好きなものを食べられるにゃ。」
といって、すすすと食堂に入っていく。
ここも、窓が広くて採光がサイコー!えへ。
猫ベッドの余韻で、テンションが戻らないみたい。
置いてあるのは木でできた椅子と机だけど、背の高さが少し低めなのは、きっと猫さん仕様なのね。
ごはんの時間ではないのか、他の猫さん達はいない。
「おやつにしませんかにゃ?」
とティムくんに言われて、一も二もなく頷く。
付いていくと、食堂の奥側には調理場があり、2匹の猫さんが、仕込みだろうか、ごはんの準備をしているのが見える。出来たてが食べられるなんて、控えめに言って最高ではなかろうか。
「すみませんにゃ、ミルクと、おやつのお魚のテリーヌくださいにゃ。お魚はまぐろさんでお願いしますにゃ。」
「あいにゃ。ちょっと待つにゃ。」
こ、これが猫神殿の猫さんのおやつ。名前聞くだけでもレベルが高い!
高級そうだなぁ、神界すごい、と調理場から目を離さずに感動に打ち震えていると、ティムくんが遠慮がちに私を見る。
「あの、僕達は普通の猫とは違うので、どんにゃ食べ物でも食べますけど、今頼んだのは猫用で、味付けも猫好みですのにゃ。その、お嬢さんも、猫用にしますかにゃ?人間用も頼めばありますにゃけど。」
気を遣わせてしまった。しかも逆の方に。
猫おやつ、まぁ気にはなるけど。
「あ、ううん、いいの。むしろ人間用でお願いします!何があるのかな。」
ここはしっかり遠慮せずに希望を言うと、調理場から声がかかる。
「異世界からきたお嬢さんかにゃ。さっき来ると聞いて、下界の神殿から、この世界の人間に人気だという飲み物とおやつを仕入れといたにゃ。それでいかがかにゃ。」
うわぁ、天国!
「はい!嬉しいです、ありがとうございます。」
「あいにゃ。すぐできるから待つにゃよー。」
ほんとに料理はすぐでてきて、自分たちで席に運ぶ。ティムくんがお盆を持つのを、心配して見守ってしまったけど、彼らにはいつものことらしい。器用にフォークも使えるし、コップも持てるみたい。
「お嬢さんは、こっちに来て何も食べてないんじゃないですかにゃ?」
「は、そう言えば。色々ありすぎて、お腹空くとか気付いてなかったわ。ティムくん、ありがと。」
「いえいえ、遠慮なく食べてくださいにゃ。」
「はぁい。」
私に用意されたのは、果実感たっぷりの飲み物と、生地の上にこれまた果実を乗せて焼いたと思われるお菓子に、小さな花が飾られているもの。
うんうん、この果実は甘くて私好みだし、焼き菓子もシンプルだけど、噛むほどに味が滲み出てくるし、美味しい。警戒してちびちび食べ始めたけど、これなら大丈夫そうだ。
ふと顔をあげると、ティムくんが心配そうにこちらを見ていた。
「味はいかがですかにゃ。」
「あっ、無言だったもんね、ごめんね、心配かけちゃった。すっごく美味しいよ、この世界の食べ物は、口に合うみたい。」
というと、ティムくんはふぅーと息を吐き出しながら、ミルクを一口飲む。
「本当によかったですにゃ。生きるのに食べることは大事ですにゃ。」
その後は、ティムくんにお部屋まで送ってもらったものの、実はあまり覚えていない。
食べ物を口にしたことで気が緩んだのかもしれないし、親切な猫さん達で安心したのかもしれない。疲れてもいたと思う。
部屋に帰って、ちょっとだけお願い、と訳の分からない事を言いながら、ベッドに倒れたあとの記憶がないのだ。
明日からは猫神殿流の修行が始まりますにょで、ゆっくり休んでくださいにゃ、という声を聞いたのは、もう夢だったのかな。
お読みいただき、ありがとうございました。
第一章【第一の扉 あの子の隣が私の居場所】は、全16話で完結となります。
最終話まで、1日1話ずつ、夕方に投稿していく予定です。
どうぞ最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。
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