第四話 私、異世界の庭で目覚めました
あれ、私寝ているのかな。
ぽかぽかした陽だまりの中にいるようで、すごく気持ちいい。誰かが優しく頭を撫でてくれていて、安心する。
このまま寝ていたいけれど、可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえてきて、ちょっと周りを見たいかも。
そっと目を開けた先には、鮮やかな新緑の芝生の庭に色とりどりの花が咲き乱れ、その奥に白い荘厳な建物が佇んでいた。
私は庭にあるベッドのようなものに寝ているようだけど、白くてものすごくふわふわしていて、包みこまれてしまいそう。
そして、頭を撫でてくれていたのは、金髪の艶やかな長い髪の優しそうな女の人。うっすら光輝いているように感じる。
じっと眺めていると、相手も気付いたのか目が合った。
「あら、お目覚めね。体の具合はいかがかしら?」
寝起きにそんな質問をされ、手をグーパーしたり、もう一度目を閉じて体の異変がないか感じてみる。
うん、変な感じはなさそう。
「はい、大丈夫です。ぽかぽかしていて気持ちいいです。」
と素直に答えると、ふふ、と笑って女の人は、撫でていた手をとめた。
「これね、私の癒やしの力を手から送っていたのよ。だからぽかぽかしていたんでしょう。異世界から来たのだもの、魂にも負担がかかってるし、少し整えとかないとでしょ。でも、もうそろそろ平気そうね。」
と言うと、よいしょと私の枕元に座る。
あれ、なんだっけ、今引っかかることがあった。
ん、ん、何か忘れてる?異世界?
そうだ!早くあの事を聞かないと!
「あの!私聞きたい事が!」
私があわあわと起きようとすると、ふんわりと手で制される。
「もう少し横になっていたほうがいいわ。ここは大神殿のお庭なの。今お父様がいらっしゃるから、込み入ったことは少し待ちましょうね。」
「うぅ。」
ふぅーと息を吐きながら横になる。少し動いただけだけど、目眩がしたよ。
とっても大切なことなのに、早く聞きたい。
心がざわざわする。
そんな私の気持ちを知ってか、ゆったり声がかけられる。
「あら、私自己紹介忘れてたわ。私はセレフィーヌ、創造主の娘よ。この世界で慈愛の神をやってるの。信仰してくれる人々には、”ほほえみの神”なんて、呼ばれてるのよ。」
ウィンクしながら、嬉しそうに話してくれる。記憶にはないけど、前の世界で神様に会うことなんてあったかな。神様ってこんなに親しみやすいんだね。
そういえば、この声つい最近聞いた記憶があるよ。
「セレフィーヌ様の声に聞き覚えがあるのですが、もしかして世界の狭間にいらっしゃいましたか。」
「そうそう、よく気付いたわね。世界の狭間の記憶は残ることになってるのよねぇ。途中から行ったのが私よ。他のみんなと様子を見てたんだけど、あまりにもお父様がのんびりされてるから、行くことにしたの。」
ふふふ、いつものことよ、と楽しげにするセレフィーヌ様。
「男の人もいらっしゃいましたよね。許可を取ってきてくださったとか。あの方に、いつかお礼を伝えたいです。」
これはすごく大事だ。すごく仕事ができる丸い光だった。
すると、光り輝く風が一瞬巻き起こり、反射的に息を止めて目をつぶる。異世界はいろいろ起こって忙しいな、などと考えながら目を開ける。
そこには、何事も無かったようにメガネをかけた真面目そうな男の人が佇んでいた。
「聞こえましたので、文字通り飛んでまいりました。私が、その素晴らしい仕事をした、リグナスと申します。知と秩序の神である私にかかれば、異世界間の決められた手続きなど、あっという間でございますので。」
おぉ、こちらもやや自慢気。そして、右手でメガネをクイッとしてるわ。
今そんなに落ちそうだった?とツッコミたいけど、そういう仕様よね。
野暮なことは言わない言わない。
「わざわざありがとうございます。リグナス様のおかげでこちらに来れました。」
「あ、いえ、これはもう私の性格ですし、仕事でもありますので、お気になさらず。むしろ異世界に来たこの状況で私のことまで気に掛けていただき、神冥利に尽きます。」
リグナス様優しい!神冥利って初めて聞いたけど。
もうこの世界の神様は優しいなぁ。
「おや、リグナスも来てくれたか。待たせたの、お嬢さん。」
和んでいると、白く長いあごひげをたくわえた、いかにも偉いですという見た目の方が、話しながら現れた。
話し方がおじいさん風なので、ついに創造主現る!なのかな。
慌てて、また起き上がろうする。さっきよりは目眩はマシだ。
創造主に挨拶寝たままとか絶対だめ!
「いえ、楽しくお話させていただいてましたからっ、うわっ?!」
挨拶しかけたところで、創造主におでこを指でスっと押されて寝かされる。
「少しワシが話をするからの。長くもなるし、寝ていて聞いてくれればいいぞ。お嬢さん自身のことは最後に聞かせてもらおう。」
神様は優しさで出来てる。
「ありがとうございます。」
創造主は手を軽く振り、ベッドと同じような白いふわふわを出すと、そこに座って話し始めた。
「この姿で会うのは初めてじゃな。世界の狭間では光の球体だったが、ワシがこの世界の創造主である。光が本来の姿だが、人々の前に顕現する時などにな、人に近しい形の方が、親しみを覚えやすいからのう、人型で神をやっておるのじゃ。それに、人型の方が、多くの神が区別できてよかろう?」
えっ、そんな理由で、この形なの?まぁ、人にとっては親切なのかな。確かに光の玉がいっぱいあって、光具合とか大きさでどの神か判断しろって言われたら、できないもんね。
なるほど、と思って、ウンウンと頷く。
「そばにいるこの2人は1番上の娘と息子でな、上級神として、よくワシを補佐してくれとるんだ。」
ニンマリしながら言ってるけど、うん、私もう知ってる。経験して分かってるよ。できる神様達。
「話の前に1つだけ、先にお嬢さんの記憶を確認させておくれ。世界の狭間で話した通り、召喚を受けたなら、大事な記憶や思い以外はなくなっているはずじゃ。これからワシが話す内容が、なくしたものに関するものであれば無意味だからの。」
真剣な表情で私を見つめる創造主。私もドキドキしてしまう。
さっきセレフィーヌ様に聞きたかったこと。大事なことは覚えてるはず。
でも、なくしたことも分からなくなるって聞いてるから、気付かずなくしたものもあるかもしれない。
そして、目覚めてから、あまり時間なかったから、頭の中が整理できてないよ!時間が欲しかった!
どうぞ、という意味をこめて、私は頷く。
「お嬢さんは、ある存在を追って、この世界に召喚されたことになっておる。その存在は覚えておるか?」
これは、これは、覚えてるよ!胸に何かが込み上げて、力が抜けそうになる。
私は大事なものを、大事なものとしてちゃんと覚えてたんだ!
良かった…。
狭間では、大丈夫だと言ったけど、不安はもちろんあった。うん、これを覚えてるだけで、もう私にとっては充分だわ。
「はい、私は大切な家族の子を追いかけてここまできました。」
私の答えに、創造主は目を細めて嬉しそうだ。うむうむ、と頷いている。
「ほぉ、そうかそうか、覚えててくれたか。ありがたいことよの。そうじゃ、お嬢さんは、あの子を追ってここまで来てくれたのじゃ。」
優しくそう言った創造主は、そこでキリッと表情を引きしめる。神様らしい顔付きになられた。
「まずは、長らくあの子を育ててくれたことに感謝を伝えたい。ワシらが出来なかったことを、やってくれたことに、ワシも息子たちも恩を感じとる。異世界の子を世話するのは大変だったろうに、本当にありがとう。」
と頭を下げてくれた。セレフィーヌ様もリグナス様も同じだ。
私は予想もしなかったことに、慌てて言葉を返す。
「私はあの子が大好きで、やりたくてやってただけなんです。あの子にはいっぱい幸せをもらいましたし、あの子のおかげで学んだこと成長したこともたくさんありますから!」
「なかなかそういう人間ばかりではないのだが、よいお嬢さんにめぐり逢えたのだな。
そろそろあの子のことを話そうか。」
ついにーーあの子の話だ。
お読みいただき、ありがとうございました。
第一章【第一の扉 あの子の隣が私の居場所】は、全16話で完結となります。
最終話まで、1日1話ずつ、夕方に投稿していく予定です。
どうぞ最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。
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