第三話 大神殿での再会
その頃、一足先に召還された、一人…いや一匹の猫は大神殿で大歓迎を受けていた。
あの子は、この世界に帰ってきたのだ。
「うにゃぁぁぁ!やめるのです!兄上!姉上!息が出来ないのです!僕はおもちゃじゃないのですー!」
群がる神々の隙間から、猫のしっぽや足が時々はみ出てくる。どうみてもただの猫ではない。ふさふさで長い毛並み、光輝く毛艶である。
神々は、嬉しそうに撫でたり、泣きながら抱きしめたり、しっぽに顔を埋めて、はわわわ……となってる女神もいる。
「エルトアちゃん、せっかく久しぶりに会えたのだから、もう少し猫の姿を堪能させてちょうだい。」
「そうだよ、我々はみんなエルトアの事を心配してたのだから。もう少し可愛がられなさい。」
「うぅ〜。」
「ほらほら、こちらへいらっしゃい。」
あぁ、また揉みくちゃにされる…。だめだ、このままでは、兄上と姉上のペースのままだ。
「あの、その前に教えてください。僕と一緒にいた方はどうなりましたか?」
スッと静まり返る兄上たち。
撫でていた手も一斉に止まる。
「まだ報告は来てませんわ。もしこちらに来るなら、お父様から私に連絡がくることになっています。」
と一番上の姉であるセレフィーヌが言う。
「気になるよねー、なっちゃうよねー。一緒にいたくて巻き込んだんだもんね?」
「うっ…」
策略と機略の神であるミルティナ姉様が、ふっふっふっとニンマリしながら、図星を当ててくる。
そう、僕はこの世界で猫神として生を受けた。
創造主であるお父上が、下界の猫の可愛さにすっかり落ちてしまって、『よし!末っ子神は猫にしよう!可愛がられ愛される担当、決定!』とノリと勢いだけで宣言したのが、僕の始まりなんだ。
ちょうど他の神々の役割も埋まっていたらしく、この提案は家族にあっさり受け入れられた。
……うちの家族は、本当にこういうところがある。
エルトアと名付けられたが、生まれてすぐに、僕がこの世界にいるのは危ない状況になってしまい、一人だけで違う世界に避難することになった。創造主であるお父上の手により、神力を封印された状態で。
その避難先の世界で出会ったのが、お姉さんだ。普通の猫より弱かった僕は、一人では生きていけなかった。
お姉さんに守られて、愛されて、生かしてもらった。お互い家族だと思ってたんだ。
だから、まだ一緒にいたくて、この世界に帰るのを延ばしてしまっていた。
結局、お姉さんを召還に巻き込むという手段しか取れなかったけど、お姉さんどうしてるかな。来てくれるだろうか。
普通の人間の世界間の移動は、制約もあるうえに、体にも心にも負担がかかる。
知ってた。
知ってたけど、離れたくなかったんだよ。
それに、僕は知ってる。お姉さんは強くて、いつも僕を包んでくれたけど、ほんとはとっても弱いんだ。
僕が今度はそばにいて守るんだ。
今度は僕が、お姉さんを守る番なんだ。
いつの間にかしゅんとして俯いていたらしく、頭を優しく撫でられた。どの姉上の手だろうか。
「実はね、お父様から言われてるのよ。エルトアの神力の封印は、召還と共に解くって。封印が解けた瞬間に神力はゼロになってしまうから、今みんなでエルトアの神力を満たしているのよ。ほら、神力って、触れてないと与えられないでしょう?」
セレフィーヌは微笑みながら教えてくれる。
そうだったのか。けど、それにしては、こねくり回され過ぎな気もするけど。
「ごめんなさい、僕自分のことばっかりで。ありがとうございます。」
「ね、ほら、体が少し軽くなったでしょう?」
「そう言われれば、息もしやすいし、スッキリした気がします。」
「ふふ、いい子ね、じゃもう少しいい子にして、神力が満ちるまで……触らせてね。」
「最後の間が気になりますが、まぁ仕方ないですね。」
「うふふ。」
心配してくれる家族の元へ帰った幸せを感じながら、しばらくは体を委ねることにする。
なんといっても、僕は可愛がられ愛されるための神だからね!
どのくらい時間が経ったんだろうか。いろんな手に撫でられる中で、一際大きくてごつい手が、ぐいんぐいんと体をこねくり回してきて、目が覚めた。
「うわぁ、この手嫌ですー。」
と言って、手の元を見上げると、丸い光から創造主の姿へと変わったお父上だった。
しまった!お父上泣きそうになってる!
「あ、僕ちょっと寝ぼけちゃったです…へへ。
お父上ー!」
誤魔化しながら、お父上に抱きつく僕。
「おぉ、そうかそうか、疲れてるはずじゃしの。間違えても仕方ない。それにしても抱きついてくれるとは。少ししか離れてないのに、猫として大きくなったなぁ。」
簡単に誤魔化されるお父上。目を細めて、嬉し泣きをしながら頭を撫でて笑ってくれる。
ごめんなさい、お父上。
あ、違う。お父上と感動の対面してる場合じゃなかった。
「お父上、あの、あちらの世界のお世話になった方は…どうなりましたでしょうか。」
「あぁ、エルトアがわざと召還に巻き込んだお嬢さんか。」
ぎくっ。
お父上にもバレてる。
「あのお嬢さんなら、ちゃんと召還に巻き込まれて、世界の狭間まで来おったのじゃよ。」
ちゃんと、って言うところに、力を入れないで欲しい。
「大事な記憶や思い以外はなくなることも説明したが、お前と一緒に行くという決意は固かったのでな、こちらに召喚したわ。」
お姉さんがこの世界にいる!
僕と同じ世界に来てくれた!
また一緒にいられる!
ぽろりと涙が溢れる。
「よしよし、エルトアにも辛い決断をさせてしまったな。あちらの世界にお前を行かせるしか道がなかった我々を許せ。」
思いがけない言葉に、放心する僕。僕が悪いのに、謝ってくれるお父上。僕は家族に恵まれてるとつくづく感じる。
「いえ、あちらの世界に行かなければ、大事な人にも出会えませんでした。僕を助けていただき、ありがとうございます。」
「そうかそうか。でな、お嬢さんは無事大神殿に着いて、目覚め待ちをしとるところじゃ。今セレフィーヌに付き添いに行ってもらっとる。目が覚めたら、ワシが詳しいことを話すつもりじゃ。」
「では、僕も一緒に参ります。」
お姉さんは無事にこれた!
嬉しい!
会える!会いたい!
顔のニマニマが止まらない。が、それに反してお父上は厳しい顔をしている。
お姉さんは無事なんだよね?
「いや、エルトアには、まだお嬢さんには会わせぬつもりだ。」
「えっ、何故ですか。僕がいれば、お姉さんも安心するはずです!お姉さんのサポートもできます!」
「違うのだよ、エルトア。」
お姉様やお兄様が、困ったような笑顔で、僕を落ち着かせようと撫でてくれる。
「お嬢さんは、どちらの世界で生きていくか、短い間に決断しなくてはならなかった。あの時はお前を追うことを選んでくれたが、今の彼女は何を覚えていて、何をなくしてるか分からない状態で召喚されておる。後悔する可能性もある。お前のことを覚えているかもしれないが、こちらの世界の理などを知っていくうちに、お前のそばにいることが、本当によいことなのか、悩むこともあるだろう。」
あらためて言われると、覚悟を決めてたはずなのに、しゅんと耳が垂れてしまう。
「それでの、しばらく猫神殿預かりにして、この世界を学んでもらうつもりじゃ。その上で、身の振り方はお嬢さんに決めてもらおうと思う。エルトアのそばにいることを選んだなら、ワシらは全力で応援するまでじゃ。よいな、エルトアよ。」
言葉はでなかった。お父上は僕がお姉さんを召還に巻き込んだのを知った上で、それでもお姉さんがこちらの世界で、少しでも心穏やかに過ごせるよう動いてくれてる。
それは嬉しい、嬉しいけれど、お姉さんは僕の隣を選んでくれるのかな。さっき喜んだ分、急に不安になる。
「エルトアがお嬢さんを大事にするように、お嬢さんもエルトアを大事にしてくれるのではなかったのか。僕の家族です、と言っていたではなかったか。エルトアよ、家族の絆を信じてみなさい。」
そうだった。
僕とお姉さんは家族。僕もお姉さんを信じてるし、お姉さんもきっと僕が待ってるはずと信じてるに違いない。ここで、弱気になっちゃだめだ。
「はい、分かりました。信じて待ちます。」
ちょっと声が震えちゃったな。でも言えた。
「偉いぞー、エルトア。」
兄上が、ガシガシ撫でてくれる。ちょっと強いな…。
「それに、エルトアは向こうで体を弱らしているからな。異世界で神力もないなら無理もない。体を休めて、神力も前にいた頃までの量に戻す必要がある。お嬢さんがエルトアのそばにいることを望んだら、お嬢さんの未来を、幸せを守る力を手に入れないといけないよ。」
そうだ、待ってる間に、僕にもやれることがある。確かに、神力もないと、お姉さんを守れないしね。猫神だぞーってところを見せるんだ!
うんうん、やる気がでてきたぞ。
「うにゃぁぁん!」
やる気が猫語で出てしまったけど、猫だしいいでしょ。
みんなも笑顔だ。
「ほぼ赤ちゃん神の状態で封印したから、赤ちゃんレベルの神力しかないけどな。」
こう付け加えて、みんなの袋叩きにあったのは、どの兄上だか…。
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