第二話 世界の狭間であの子を想う
目を開けてるのか閉じてるのか分からないくらいの漆黒の闇の中、私の意識が形をとりだす。
吸い込まれそうな闇の中で、体がふわふわ浮いている感覚だ。なのに不思議と頭は冷静だった。
どうしたんだっけ。そうだ、夜中にあの子が起こしに来たんだった。少し悲しそうな顔をしていて、心配になったのを覚えてる。
そしたらあの子が急に光り始めて、体も消えかかって、だめーって思って必死に掴んで眩しくなって……で、今ここ。
あの子はどこだろう。大丈夫なのかな。一人で泣いてないかな。早くそばに行って安心させてあげないと。
見えないながらも周りを見回すと、丸い光がふよふよとこちらに飛んできた。光り輝いてるけれど、どこか温かい優しい光。
「お嬢さん、目が覚めたかね?体は辛くないかい?」
その光から声が聞こえてくる。
おじいちゃんのような私をいたわる優しい声だ。
「はい、私は大丈夫です。あの、私と一緒にいた子の姿が見えないので、どうしてるのか分かりますか。」
「あの子の心配を先にしてくれるのか。本当にあの子を大事にしてくれてるんだのう。お嬢さんには感謝してもしきれないわ。」
光が少し強く光り、すすすと私に近づいてくる。
「あの子は、本来別の世界の存在でな、ワシの召喚で元の世界に戻したところだったのだ。もう着いた頃だろう。お嬢さんはその召還に巻き込まれてしまったのじゃ。申し訳ないのう。」
「無事なんですね!良かった……。」
何よりも大切なあの子。
これを聞いてやっと安心できた。
だって、光に包まれるなんておかしいもの。
でも、召還…違う世界…なんてファンタジー感あるの…。そもそも、この空間もおかしいしね!
でも、あの子の召還に巻き込まれたってことは、私もその世界へ行けるのよね。あの子を一人にするのは心配だしね。
よし、確認あるのみ!
「それで、私もあの子と同じ世界にこのまま行けるのですよね?」
「むむ。そうくるか。」
光が、困ったようにぷるぷる震える。
何か問題でも?
「長年あの子といるところを見守っていたから、お嬢さんの性格は分かっていたつもりだったが。少し説明させてくれぬか?」
丸い光は、時々弱くなったりしながら話している。あの、心の揺れがバレちゃってますよ。
「ワシは召還先の世界の創造主という、一番偉い神様をやっておる。」
わぉ、異世界の創造主なの!
偉い神様なんだなぁ。
「異世界の人間をむやみやたらに召喚するわけにいかないのでな。あの猫は元いた世界に戻っただけだから、召還扱いで問題ないのじゃがの。お嬢さんを連れていくとなると、今度は召喚扱いになるのじゃ。」
召喚と召還は違うのね、ふむふむ。
日常では使わない言葉だから新鮮だわ。
「召喚と召還は、漢字が違うのじゃ。呼び寄せるのが召喚、戻すのが召還……」
ぶつぶつ光が呟いている。
でも、あれ?漢字って言った?
「あの、異世界で漢字ってあるんですか?」
私の言葉で、丸い光は、一瞬消えかかったけれど、
「細かいことは気にせんでよい!!」
と言って、復活してた。
あ、これツッコんじゃいけないやつだ…。
「その召喚を気軽にやりすぎると、創造主としての査定に響くのじゃ…。それを防ぐのが、この世界の狭間じゃ。ここから向こうの世界に召喚されることも、元住んでいた世界に戻ることもできるぞ。話をするからよく聞いて、どうしたいか決めるがよい。」
そしてなんて親切設計。
戻れるの?!戻るって、あの子のいないところに?
……ないない、ないわー。
さっさと進めてもらおう。
ん?…さらっと査定とか言ってたけど、ちゃんと意思表示したら、大丈夫だよね。創造主も大変なのね。
「分かりました。手短に説明お願いします。」
「いや、けっこう大事なことだからね?ちゃんと聞いてね?おじいちゃん心配だなー。」
あれ、けっこうフレンドリーな創造主だな。神様って初めて会うけど、こんな感じなのか。
「まず戻る場合じゃ。それはもう単にこのまま、この狭間から送り返す。そして元の世界で暮らす。ワシやあの子との接点は一切なくなる。」
はい、却下ですね、と思いつつ、神妙な顔で頷く。
あれ?光からため息が出た気がする。顔に出てたかな。これからは気をつけよう。
「もし、ワシらの世界に行く場合、お嬢さんは普通の人間なので、ちと問題がある。まず体は世界間の移動に耐えられないので、あちらで同じ体を用意することになる。まぁ、ワシこうみえて創造主じゃからの、得意分野じゃ、そこは安心して任せておくれ。」
ちょっとドヤ顔だったので、おぉーと言いながら、パチパチと手を叩いておく。
「問題は魂じゃ。魂も移動の過程で脆くどんどん壊れてしまう。どうでも良い記憶や感情も、大事な気持ちも、区別なく削れていってしまうのじゃ。そこで、魂の中の光り輝いている部分、心が大事にしている記憶や思い出のみを取り出して、小さい形にしてから、それだけを確実に移動させることになる。」
ずずいっと、さらに光が近づいてきて、ピカッと光る。
「例え、お嬢さんが意識の中で大事に思っていても、失いたくなくても、魂がそう感じてなければ、失う記憶や思いは出てくる。一種の賭けじゃな。それでも、行くかの?」
やっと説明終わった。
なるほど。むしろ大事なことは覚えておけるのね!嫌なことは忘れられると。望むところよ!
あとは、魂がどの記憶を大事と思っているかが問題ね。でも、大丈夫、私は私を信じる。私が絶対持っていきたい思いは一つだけ。他は全部忘れてもいい。
それでもあの子の隣にいたいの。
「大事なものは自分で分かってるつもりです。行きます!」
「うーん、やっぱり?」
はい、やっぱりです。
ダメ押しで、胸にある答えをそのまま口にした。
「あの子の隣が私の居場所です。これは譲れません。」
「そっかぁ、そうだよねぇ…。」
あれ、行くっていったのに煮えきらないなぁ。創造主ぐだぐだし始めたよ。
ん?創造主とは違う少し小さめの光が、ほよほよ飛んできたよ。
「お父様、あまりこの狭間での時間をとるのは、お嬢さんの体に負担がかかります。本人の意思がしっかりしてるなら、連れて行ってあげましょう。元はといえば、長らくお嬢さんを巻き込んだのは私達ですし。」
「うーん、そうじゃよなぁ。」
女の人の声が聞こえる。少し小さい光だし、お父様と言ってるし、娘さんかもしれない。
けど、新情報があった。長く巻き込まれてた?って言ってる。長いっていつからなんだろう。
聞きたいけど、時間も無さそうな上に、二人で揉めだしてるし、あっちの世界にいってから聞こう。
「でもな、お嬢さんを連れていくには、面倒な手続きがあるのじゃよ。この世界の創造主に許可をもらわないといけないからのう。ここの創造主、怖くて嫌じゃ。なんといっても、異世界創造主バトル、ディベート部門優勝だぞ。確実に怒られてしまう…しくしく。」
えーと、この創造主、優しいけど、おちゃめなぽんこつの香りが…。誰かおじいちゃんを助けて!ついでに私も!神様お願い!
「はぁはぁ……父上、それなら今私が、急いでこちらの創造主様にお会いして、経緯を説明し、お嬢さんの意思もしっかりしてることをお伝えしてきました。しっかり謝罪も受け入れていただき、本人が行きたいならよいとの許可もいただいて参りました!元々こちらの状況も掴んでいたようです。」
救世主来た!
急に新しい光がぴゅーっときて、早口で一気に報告がくる。男の人の声だから、今度は息子さんかな。
神頼みしたから、息子さんも神様かも。
「おぉ、でかした!さすがワシの息子じゃ。助かった。」
「ただ次会うときは、創造主様の好物など、差し入れしたほうが良いと思いますよ。」
「だよねぇ…。はぁ。」
「もう、父上しっかりしてくださいよ。お嬢さんがこの狭間では、そろそろ体も魂も限界になりますよ。」
「え?そう言われれば…」
私が限界?そういえば体中が締め付けられるように痛いし、頭もぼーっとする。
創造主達の会話に集中してて気づかなかったわ。滅多にないことだし、ちょっと面白くてね。
そう思ってる間に、今度は胸の奥がじわじわ重くなってくる。
「よし、お嬢さん、ワシ達の世界へお招きしよう。あちらでまた詳しい説明をするでな。召喚については、ワシに安心して任せればよい。なんせ、ディベートは負けたが、異世界創造主バトル総合優勝してるからの、ワシ。武勇伝ならいくらでも話してやるぞ。」
おぉ、なんかすごい自慢来た。うん、すごく聞きたい。
でも体が痛いの。今話されても無理。それどころじゃない。ていうか、今言うな〜。
どんどん意識が薄れてきて、胸もぎゅうっと握られているみたい。その代わり手足の感覚がなくなってきた。
あの子もこんな思いしたんだろうか。あの子に会いたいよ。
「聞きたいけど……、もう限界で…。お願いします…。」
それだけ言おうとして言えたかわからないまま、目を閉じてしまったが、きっと意識がなくなったのもその時だったのだろう。
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