第一話 僕は悪い子
はじめまして、ののんです。
物語を初めて作っています。
ちょっとふしぎで、ちょっとやさしい、そんな世界を描けたらいいなと思っています。
自分なりに大切に作っていくので、あたたかく見守ってもらえたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
☆第一章【第一の扉】は、16話で完結です。
☆音声配信サービスSPOONでの朗読配信始めました!
夜の静寂の中、寝ている僕を呼ぶ声がする。
またか…。
「息子よ、聞こえるか。体の具合はどうだ?」
暗い部屋の中に、太陽を思わせる色の丸い柔らかい光が浮かぶ。そこから創造主、つまり僕のお父上の声が聞こえてくる。
いつもより心配そうな声色で、何かを背負うものの重みが伝わってくる。
暗闇が増したようで、僕と光以外は、何者も存在しないような錯覚に陥る。
「お父上、僕はまだ大丈夫です。」
痩せてしまった体を隠すように丸まって、僕はいつもの通りの返事をする。
実際は、少しずつ食欲が落ちて、体はどんどん細くなってしまった。前よりもずっと寒さに弱くなっている。このままでは、良くなることは……ない。
僕の気まずい思いを見透かすように、光が揺れる。
「そうかそうか、お前の気持ちもわかるが、無理はよくないのは分かっておろう?そろそろ元の世界に戻らないと、その肉体を保つことは難しくなってしまうぞ。そうなるとワシにはどうすることもできん。」
お父上は僕には甘い。何度も何度も帰るよう言い含めるように諭されても、いつも帰るのを先延ばしにしてきた。
実際言われた通りこの体はぼろぼろだ。お父上も見守っているはずだから、当然お見通しだけれど、僕が帰る決心をするのを待っていてくれている。
いくつもの病気にかかり、治療を受け、毎日細やかにお世話されることで、なんとか今日まできた。
元の世界に戻らないと、体はよくならないし、それどころか、成長することも家族に会うこともできないことも分かってる。
それに元々、僕は向こうの世界の存在なので、帰るのが道理だ。非常事態でこちらの世界に来たけれども、もうここにいるのは、僕の我儘でしかなくなった。
それでも、僕には今包まれている温もりを手放す勇気がどうしても持てなかった。この世界で知った幸せを、忘れることなんてできない。
ただ、そろそろ体の限界は近い。このままだと息をするのも辛くなるだろう。分かってる、分かってるんだよ。
認めたくなくて、目を背けていたけど、覚悟を決めるときが来たのかもしれない。
そしてきっと、お父上は、今日僕を連れ帰るつもりで来ている。創造主としてというよりは、僕の親としての覚悟が感じられるから。
「分かりました。今から戻ることになりますか。」
なんとか震えないように声を絞り出す。
「そうじゃの。気が変わらんうちに、今ワシが召還してしまった方がいいだろう。」
僕は起き上がって一つため息をついた。もう少し帰るのは先だと思ってたのにな。
顔を上げることができず、俯いたまま僕はお伺いをたてる。
「では、お世話をしてくれた大事な方に、最後の挨拶をさせてください。」
「いっておいで。すぐ召還は始めるから、手短にするのだよ。」
許可を得て、ベッドの上にぴょんと飛び乗り、お世話をしてくれたお姉さんの寝顔を見つめる。今日はよく眠ってるみたいだ。いつもは僕が行くとすぐ起きてしまうのに。
優しいお姉さん。
じっと見つめていると、今まで一緒に過ごした記憶が、どんどん溢れてくる。
よく撫でてくれた、温かい手。背中をトントンされると、恥ずかしいけど安心して寝ちゃうんだ。お姉さんの匂いも大好きで、いつも甘えたくなる。
僕が何をしても褒めてくれて、何があっても守ってくれて、隣にそっと寄り添ってくれた。
優しくて穏やかな声で名前を呼んで、いつも僕に話しかけてくれた。
僕は、お姉さんの大事な宝物だよって、大事な家族なんだよって、言ってくれた。
僕は、これを過去の思い出だけにしたくはないんだ。
だから、帰るなら、やることは決めていた。
僕は悪い子になります。
お姉さん、ごめんなさい。
* * *
ふと僕のお気に入りのぼろぼろの毛布が目に入って、息が止まる。
僕の一番のお気に入りの毛布。
お姉さんの匂いがついていて、すごく安心するんだ。ぼろぼろ過ぎて、捨てられてもおかしくないのに、お姉さんは何回も破れたところを縫って、僕のために使いやすいようにベッドに置いてくれてた。
そっと触れると、胸の奥がじんわりと熱くなる。
お姉さんの顔を見ると、涙が出そうになる。でも、今はお姉さんへ許された最後の挨拶、ちゃんとしなきゃ。
やるべきことはやらないと。
伝わらなくても、僕は最後の思いを込めて一生懸命心のなかで言葉を紡ぐ。
(お姉さん、いつもいつも僕を大事にしてくれて守ってくれてありがとうです。
いっぱい病気で迷惑かけちゃってごめんなさい。
毎日毎日大好きって言ってくれてありがとうです。
僕も一番一番大好きです。
これからもずっと一緒だよって言われるのが、とても嬉しかったのです。
僕もずっと一緒です、って思ってます。
それはこれからも同じです。)
お父上の召還がもう始まってるのか、僕の体はすでに淡く光りだしていた。暖かく優しい光…って、お父上早すぎます!
慌ててお姉さんのそばまで行き、顔に触れる。願いを込めてちょんと触れた瞬間、お姉さんが目を開け、光る僕を見てくれた。
「ん、おはよ。あれ、どうしたの?なんで?光ってるよ?!大丈夫?」
突然の異変に、あっという間に目が覚めたようだ。いつだって、僕はお姉さんに大事にされてる。今も僕を撫でようと手を伸ばしてくれている。
光ってるんだから、普通の人間ならもっと動揺してもよさそうだけど、どんな僕でも寄り添ってくれるのがお姉さんなんだ。
遠くでお父上が、なにかわーわー騒いでいるけど、そんなの無視です無視。
今僕は悪い子なんです。
どんどん体の光が強くなり、熱を帯びてくる。体が透け始めたところで、お姉さんの手が僕の体に届き、優しく触れた。
そして、お姉さんの体も光に包まれる。
「どこか行っちゃうの?離れちゃだめだよ、ずっと一緒だよって伝えたでしょ。」
お姉さんの声が聞こえた直後、お父上の言葉にならない叫びと共に、僕の体は元の世界に呼び戻され始めた。
(後悔なんて、しません。
でも、でも…本当に、ずっとずっと…一緒にいたかったんです。)
* * *
(うん、そうです、お姉さん。ずっと一緒です。)
と答えた時には、真っ暗闇で召還の移動途中みたいだった。
ふわふわ浮きながら、お姉さんはどうなったんだろう、とばかり考える。
そう、僕は、お姉さんをわざと召還に巻き込もうとした。僕の体に触れていれば、一緒に召還ーーお姉さんの場合は召喚になるけどーーされる可能性があるって知ってたから。賭けだけどね。
離れたくなくて、一緒にいたくて、僕がいなくなった後のお姉さんも心配で。急にいなくなった僕のことが心配で倒れちゃうんじゃないだろうか。
彼女を、誰が守ってくれるんだろう、誰が笑顔にしてくれるんだろう、、、違う、誰がじゃない。
僕が守るんだ。僕が笑わせるんだ。
そう思ったときに、もう迷わず悪い子になろうって決めた。
召還に巻き込まれただろうか、それとも、お家で呆然としてるだろうか、一人で泣いてないだろうか。
考えてももうどうしようもないけれど、お姉さんへの心配が尽きない。
お姉さんの場合は、巻き込まれただけだから、たぶん異世界の狭間に一旦行くんだと思う。そこでお父上から異世界に行くか聞かれるはずだ。元の世界に戻りたければ、そのまま戻ることもできてしまう。
新しい世界に行くには、お姉さんは普通の人間なので、かなりの代償があるから。
それでも新しい世界を、僕を選んでくれるのかは、お姉さんの心ひとつ。もう今頃決まったのかな。
神様、また会いたいです…お姉さんに。
ふふ、僕が神様にお願いするなんて、変だよね。
お読みいただき、ありがとうございました。
まだまだ拙い部分もありますが、
この世界を少しずつ、大切に紡いでいけたらと思っています。
第一章【第一の扉 あの子の隣が私の居場所】は、全16話で完結となります。
最終話まで、1日1話ずつ、夕方に投稿していく予定です。
どうぞ最後まで、お付き合いいただけたら嬉しいです。
感想やレビューをそっと残していただけると、とても励みになります。
お忙しい方は、評価を押していただけるだけでも力になります。
これからも、よろしくお願いします。




