『死にゲーマニア』の俺からすれば、異世界なんて楽勝です〜俺だけスキルが貰えなかったけど、それがどうかした?〜
「あいつ、学校で寝てばっかだよな」
「家でずっとゲームしてるらしいぜ」
「でもあいつ──悠太ってすげぇんだろ? プロでも攻略できないような鬼畜ゲーを初見クリアしたとか」
「マジかよそれ……」
クラスメイトの男子が俺──花山悠太の噂をしているが、俺は構わず机に額を押し付けた。
「あいつマジでキモいよねー」
「ゲームしかやることないなんて、ほんとインキャって可哀想だわー」
女子たちもまた、俺を蔑む噂を囁いていた。
どーせ俺はオタクだよ。でもだからどうした?
俺はありとあらゆる死にゲーをクリアし、その界隈では「死にゲーの神」と囁かれるまでになったのだ。これはゲーマー冥利に尽きるというものだ。
キンコンカンコーン……。
「なんだよこれぇ?!」
昼休みが終わるチャイムと同時に、教室中が悲鳴に包まれた。顔を上げてみると、教室の床に白い魔法陣のようなものが光っていた。そして、教室中が眩い光に包まれる。
***
「ようこそ勇者様方。わたくしは女神カーラ。どうかこのグレオーン帝国を魔族の手からお救いください」
美しい女性の声とともに視界が戻る。すると、クラスメイト全員が、西洋風の城の中にいた。
「どういうこと……」
「これってもしかして、異世界転移ってやつか?」
ざわつくクラスメイトを鎮め、女神カーラは説明を始めた。
「皆様には、一人につき一つずつ、スキルを付与させていただきました。『ステータス』と唱えると確認できますよ」
女神の言葉に、各々が「ステータス」と唱え、自分のスキルを確認する。
「俺のスキル、ドラゴンサモナーだってよ。強そうじゃね?」
「俺は聖剣の使い手? らしい」
「わたし、万丈の癒し手って書いてあるんだけど……」
周囲からは明らかにチートよりのスキル名が聞こえてくるなか、俺もスキルを確認した。
「ステータス……ってあれ? スキル欄が空欄なんだが?!」
「あらあなた、スキルを獲得できなかったのですね。ごく稀に、勇者様方の中にはスキルを持たない方がいらっしゃるのです」
いつの間にか背後に立っていた女神は、俺に対して、ゴミを見るような目を向けてくる。そして、クラスの女子たちは俺を見下すような目を向けてきた。
「あいつ、異世界に来てもゴミなのね」
「クソインキャにはそれがお似合いよ」
だが、男子たちは逆に、
「あいつなら、スキルがなくても余裕だろう!」
「むしろあいつにスキルを与えたら、俺たちが必要なくなるよなっ!」
それが当然だとでもいうように、平然としていた。そうして、クラスメイトたちのざわめきが収まると、女神は告げた。
「あなたはスキルを持たない。ならば勇者として相応しい実力があるかどうか、測らせていただきます」
「はあ……?」
「あなたには魔牢の闘技場に入ってもらいます」
「魔牢の闘技場?」
「あちらにある闘技場です」
女神の視線を追うと、城の外には円形の闘技場があった。だがその壁は強固な柵でできており、魔物を捕える檻がいくつもつなぎ合わされたものになっていた。そしてその檻の中には見るからに強そうな狼型の魔物が監禁されている。
「あなたにはあそこで、捕えられている魔物を相手してもらいます。そしてもし仮に倒せたのなら、あなたを勇者と認めて、このわたくしがなんでもしてあげましょう。まあ、出来なければあなたは死にますがね」
そう言って口角を上げ、卑しい笑みを浮かべる女神。だが俺は、不思議と恐怖なんてものは湧いてこなかった。
「女神であるあなたが、なんでも言うことを聞くと言う保証はどこにあるんです?」
俺が生き残る前提の話をしたのに腹が立ったようで、女神は一瞬俺に鋭い眼光を向けたあと、また微笑んだ。
「では、誓約を結びましょう。これには女神であるわたくしでさえ抗えません。もし破れば、何度も死んだ方がマシだと言う苦痛を受けたあとで死ぬのですから」
***
「ガルウゥゥ……」
魔牢の闘技場の中、俺はただの剣一本で熊よりも大きい狼と対面する。狼は赤い目と銀の毛を持ち、その鋭い爪と牙が狼の凶暴性を暗示していた。
……でもやっぱり恐怖は感じないな。むしろ、この絶望的なシチュエーションを攻略する方法を考える方が楽しい……。
「その子は魔狼ウルフェス。目にも止まらぬ速さと、四足歩行による独特な動きで、今まで数多の挑戦者を瞬殺してきた猛者です」
女神が観客席から俺を嘲笑し、つられて女神の周りにいたクラスの大半の女子たちも笑い出す。
「さっさとしてよキモオタ君! わたしたちの時間を奪わないで」
「あんた目障りなんだから、死ぬ時くらい私たちに迷惑かけないでよね!」
だが、離れて座る男子たちは、俺に罵声を浴びせる女子たちをニヤニヤと見ていた。
「あいつらすぐに吠え面かくぞ」
「女子たちは悠太の実力を知らないからそんなことが言えるんだ。あいつ、ゲームもすごいが、運動神経もクラスで一番いいんだ」
うるさい罵倒と静かな声援の中、女神が手を挙げ振り下ろす。
「それでは、試合開始!」
開始と同時に、魔狼ウルフェスはその巨体から想像できない機敏な動きで、闘技場内を駆け巡る。
なるほど、速さは精々四十キロ、五十度以上の角度に曲がる時は一瞬止まるようだな。それに、闘技場に残った足跡から考えるに、すぐには止まれないようだ。足を引きずった後が少しある。
死にゲーで鍛えられた観察力で、ウルフェスが可能な行動を解析する。すると、ウルフェスが左方から俺の正面に回った瞬間、僅かに動きが止まる。
仕掛けてくるな。
スパッ!
一直線に俺の眼前に飛び込み、すれ違いざまに鋭い爪を振り下ろすウルフェス。俺は半歩左へ下がり、白光りする爪を紙一重でかわす。
「ガルウッ!」
すぐさま体を反転させると、ウルフェスは飛び上がり、俺の首を噛みちぎろうと牙を光らせた。
「おまえの速さも、攻撃手段ももう見切った」
ドゴオォォン!
ウルフェスの飛び込みに砂埃が舞い上がり、地面が揺れる。
「あらあらもう終わりかしら? やっぱりあの子に勇者の資格はなかったようね」
砂埃が落ち着き、立ったままのウルフェスの陰が女神に見える。
「所詮はオタク。呆気ないわね」
「さっ、帰りましょう」
女子たちは当然のように俺が死んだと思ったらしいが……。
「ガ、ルゥ……」
ウルフェスの顔を貫いた剣によって、その巨体は重力に従って闘技場に倒れる。
「なっ、いったい何が起きて……」
「ふふっ……当然ですよ女神様。あいつは──悠太は我がクラスが誇る天才! この程度の相手に手こずるわけがないでしょう」
委員長の男子がメガネを光らせ、勝ち誇った笑みを浮かべる。そうして彼は、闘技場に立つ俺を見つけて指差した。
「嘘でしょ……あいつただのインキャじゃ……」
「見損なったぞ女子たち! クラスメイトが、悠太が死ぬと勝手に決めつけた挙句、それを喜ぶなんてな」
女子人気が一番高いイケメン男子が女子を攻め立てると、周囲の男子たちも続いた。
「「そうだそうだ」」
男子たちの、特にイケメン男子の抗議に、闘技場に来ていた女子たちが怖気付く。そして誰よりも現実を受け入れられなかったのは女神だ。蒼白な顔でこちらを呆然と見つめていた。
俺はウルフェスから剣を抜き、剣先を女神に向けた。
「さっき、俺を闘技場に連れてくる前……俺が勝ったらなんでも言うことを聞くって言ったな?」
「ひっ……い、いったい、わたくしに何をさせるつもりよ」
女神は誓約により俺の願いを断れない。震えた声で後退りした女神は、観客席にへたり込む。クラスの男子に飛行スキルで女神の前まで運んでもらう。そうして俺は、願いが言い出し辛くて少し間を開けた。
だがその間は、女神にとっては恐怖でしかないようで、眼球が飛び出しそうなほど目を見開き、涙さえ流し始めた。
「俺の要求は、二つ。一つは、元の世界に帰りたいと望むやつらは日本に帰すこと……」
恐怖を振り払おうとするように、女神は何度も何度も頷く。
「そして二つ目、俺を勇者に縛るな。せっかくの異世界なんだ。俺は冒険者にでもなって自由に生きたい!」
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