(三)紫川のほとりで
何度お役所に行っても、部埼で火を焚く許可が降りない。
白野江の庄屋さんが間に立って尽力してくれるので、役人も話は聞いてくれるのですが、いつまでもたらい回しで、結局断られます。
門司の代官所では埒が開かず、城下町小倉まで足を運ぶ。部埼から小倉はかなりの遠さ。それでも清虚は、何度も通います。
一年経っても許可は下りない。またも小倉までやってきて却下の宣告を受けた清虚は、小倉城下の紫川のほとりにへたり込んでしまいます。
「私のやることに許しが出ないのは、私がそこまでの人間ではないからなのだろうか。親友を殺すような者は信用できないということなのだろうか」
紫川の流れを眺めながら、清虚は弱気につぶやいてしまいます。部埼と小倉を日々往復して、足はもうボロボロ。六十の身体には、この疲れはとても堪えます。部埼へ帰る気力も失いかけてしまいました。
そこへ通りかかった、明るい表情の一人の武士。やつれて川辺にへたり込んでいる清虚を見て、軽やかに声をかけます。
「お坊さん、どうしたい。そんなところに渡し船は来ねえよ。魚町銀天街やチャチャタウンに行きたいなら、あっちの橋を渡りなよ」
「いや、私は先ほど、お役所で……」
清虚はその武士につい、自分が部埼でやろうとしていること、藩に断られ続けていることを詳しく語ってしまいました。その武士は、清虚の隣りに座って最初から最後まで、話をしっかりと聞いてくれています。
その武士、うんうんとうなずくと、どんと自分の胸を叩きます。
「お坊さんの望みはよう分かった。この壇さんに任せてくんねえか」
「壇さんとおっしゃるんですな。壇さんは、何か手伝ってくれるのですか」
「ああ、手伝うぜえ。俺はよ、この豊前国を、もっと笑って過ごせる楽しい国にしてえのよ」
「はぁ……」
「豊前国って漢字で書くと、豊かな前の国、って書くだろ。もっと豊かになって前に進める国にしてえんだよ。でもお坊さんの言うとおり、豊前の海を通る者らが死んでいっちゃあ、誰もここには寄り付かねえ。お坊さんのやろうとしていることは、人の命を救う尊いことでもあるが、俺が願う豊かな国を作るために必要なことでもあるわけよ。この壇さん、ちょうど今から小倉のお殿様に会いに行くところだったんでね。ちょっくらお坊さんの話をしてくるよ」
「え……? 壇さんとやら。あなた、これからお殿様に会われるんですか?」
「ああ、実はそうなんだ。お説教の時間でね」
「壇さんが、お殿様に怒られるんですか」
「逆、逆。この壇さんが、お殿様にお説教するのよ。へへっ」
「壇さん……、あなた一体、何者なんですか?」
「なーに。ただの通りすがりの、講釈士だよ」
その武士は清虚を立たせて城に連れていき、役人に丁重に対応するように伝えて役所で待たせます。
そして、城内へと登城していくその男。
小倉小笠原藩のお抱え講釈士・早鞆壇潮。
そう、現在私が受け継いでいる早鞆流の講釈士、そして私・早鞆あかりのご先祖にあたる人物でございます。
この日、この早鞆壇潮は、お殿様に講釈を聴かせるためにお城へ向かっていたところだったのです。
清虚の想いを知った講釈士・早鞆壇潮。ここから小倉のお殿様を前に、一世一代のプレゼンテーションが始まるのでございます。
(つづく)
※ぜひ、読者の皆さんの感想を聞かせてください!
また面白いところがあれば、高評価いただけると嬉しいです。(作者)




