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(三) 懺悔四十年


挿絵(By みてみん)



 村祭りの勧進相撲(かんじんずもう)で、親友佐吉(さきち)を投げ殺したという罪で逮捕されてしまった、かわいそうな太兵衛(たへえ)


 しかし、お祭り中のことですから、多くの観客が目撃者。それに村人はみんな、いかに太兵衛が良い若者か、いかに太兵衛と佐吉が仲が良かったかをよく知っております。村人たちはお役所に駆けつけて、太兵衛の無実を訴えるのでございます。



「太兵衛は一生懸命に戦っただけじゃ。なぜ罪人(つみびと)にするんですじゃ」


「太兵衛と佐吉は誰よりも仲がええ。殺したくて殺すわけがなかです」



 役人たちを前に、泣いて許しを乞う村人たち。


 この頃の伊美村は、杵築(きつき)松平(まつだいら)藩、つまりは譜代(ふだい)大名の治める所領。


 身分制度が厳しいこの時代、農民や町人の役所への直訴(じきそ)は重罪でございました。ところが数も数、あまりの村人の多さに役人も対処に困ってしまいます。


 その話は藩の家老、さらには藩主の耳にまで届き、判断を仰がれます。


 

 そこで知恵を貸したのが、この頃杵築藩にお仕えしていた講釈士、早鞆(はやとも)関潮(せきちょう)。我が早鞆流の分家筋にあたる講釈士でございます。


 お殿様や家老たちが判断に悩んでいる時、講釈士・早鞆関潮は、様々な力士伝(りきしでん)の講談を聞かせたのでございます。


 この頃は相撲が盛り上がっている時代。谷風梶之助(たにかぜカジノスケ)小野川喜三郎(おのがわきさぶろう)雷電(らいでん)爲右エ門(ためえもん)など、数多くの力士伝がございました。人情噺(にんじょうばなし)も多い。


 お殿様や家老たちはそういう話を聞かされるうち、相撲というものが、いかに領民たちにとって大事で神聖なものであるかを深く理解していきます。


 講釈士・早鞆関潮はお殿様、そして家老の皆さまに伝えるのです。


「民の心は、国の力でございます。相撲の勝負で不慮に殺めたといって、暗い牢に放って何になりましょう。民には明るい世にて正しい道を見つけてもらう。そういう燈明(とうみょう)となることこそが仁政、良き政治ということではないでしょうかねえ」



 そんな話がきっかけとなったのか、奉行所には軽率な(さば)きはならぬと通告があり、厳正な調べの結果、太兵衛は無罪放免。さらには父母に尽くし修行に励む孝行者として賞されたのでございます。



 無事に村に帰ってきた太兵衛。父も母も、村人たちも安堵しましたが、太兵衛の心は閉ざされたまま。夢を追う親友の佐吉を死に追いやってしまったこと。腕を壊して父の技術を受け継ぐことができなくなったこと。複雑な想いが駆け巡り、太兵衛は一つの決心を固めます。


 父と母、そして佐吉の伯父さんの前で、太兵衛は頭を下げて告げました。



「おっ(とお)、おっ(かあ)指物(さしもの)ができなくなって申し訳ありません。佐吉の伯父さん、大事な佐吉の命を奪って申し訳ありません。オイラは佐吉に会わせる顔がない。どれだけ謝っても謝りきれない。これからは仏の道で、佐吉の冥福を祈りながら生きていこうと思います」



 太兵衛が頭を下げる姿に、父も母も、佐吉の伯父さんも止めどなく涙を流します。


 太兵衛の実直な人柄を知る村人たちも、うちで働いてはどうかと勧めますが、太兵衛の心は固く変わりません。



 太兵衛は国東(くにさき)半島中央部、両子山(ふたこやま)の天台宗の寺院にて、仏門へと入ります。(きよ)(うつ)ろという字の「清虚(せいきょ)」という法名を得て、その後四十年以上も、親友佐吉の菩提(ぼだい)(とむら)い、彼の夢を奪ったことを悔やみ続けたのでございます。


 それはそれは、長い贖罪(しょくざい)の日々でございました。





(つづく)




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