(二) 勧進相撲
さて太兵衛と佐吉、仲良しの二人が十七歳になったある日のこと。
伊美の村祭りが行われ、村の若者たちによる奉納相撲が催されました。メインイベントです。
この相撲に勝ち残った者は、夢を早く叶えることができる。そういう言い伝え、つまりジンクスがありました。
「よーし、佐吉。どっちが先に夢を叶えるか、相撲で勝負だ」
「望むところだ。太兵衛には負けないぞ」
太兵衛と佐吉も、喜び勇んで相撲大会に参加します。
二人はとにかく強い強い。次々に村の若者たちに勝利して、決勝戦は太兵衛と佐吉の一騎打ちと相成りました。
「佐吉、オイラは絶対に負けないぞ。手加減なしだ」
「もちろんだとも、太兵衛。オレも全力で戦うぞ」
二人は互いの夢を賭けて、待ったなしの大勝負に挑みます。
はっけよーい、のこった! のこった、のこった。
右を差せば左に切り、左に寄れば右へ打つ。二人は接戦、負けるな押し切れ、負けるな投げろ、会場は大盛り上がりです。
技の応酬が繰り広げられ、勝負は白熱したのでございますが、そのうち土俵の砂が舞い、太兵衛の両眼に砂が入ってしまいました。
「うわっ、何も見えない」
思わず目をつむり、視界が真っ暗になった太兵衛。
その隙を見逃さなかった佐吉は、勝負を決めようと、一気に押し出しにかかります。
土俵際で踏ん張った太兵衛。佐吉の押す力を利用して、ええいっ、と土俵の外へとうっちゃる。佐吉も必死にしがみつく。
どっしーーん。宙に浮いた太兵衛と佐吉は、もつれながら両者同時に土俵の外へと落ちました。
さあ、勝者はどちらだ。うわああと上がる歓声。
ところが、その歓声がピタリと止み、場はしんとした静寂。その中でただひとつ、ぐわああああっ!と叫びの声が上がります。
太兵衛の絶叫でした。佐吉のまわしに指を絡めたまま地に落ちた太兵衛の左腕と指は、その衝撃で複雑に折れてしまったのです。
さらに、一方の佐吉は、頭から地に倒れて動かず黙ったまま。村の者たちが心配して身体をゆすったところ、打ちどころが悪かったようで、そのまま帰らぬ人となっていたのでございます。
そして、太兵衛の破壊された左腕の治りは悪く、細かい技術はできなくなり、指物職人としての腕は絶望的になりました。
二人の若者の夢は、一瞬にして奪われてしまったのでございます。
しかも太兵衛は、対戦相手を投げ殺したということで、役人に連行されるという事態になり、奉行所の裁きを受けることになりました。
太兵衛は勾留された牢の中で、ずっと泣き崩れています。左腕の激痛よりも、もっと大きな痛みです。
「オイラが……、オイラが、佐吉の大事な夢を壊してしまった。オイラが、世の人の命を救いたいという佐吉の命を、奪ってしまったんだ……! うぅ……」
太兵衛の鳴き声は、いつまでも役所の牢に響いたのでございます。
(つづく)
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