(三)村人たち
雨の日も風の日も、一日も休みなく部埼の高台で夜通し火を焚き続ける、清虚。
この働きは三年経っても、四年経っても、地元の人にはなかなか理解されませんでした。
夜な夜な火を燃やし続ける一食坊主が住み着いている。だから部埼には近づくでないぞ、と青浜村の村人たちは言い合って、距離を置いていました。
そのうち、人を焼いて食っているのではないか、村の者も襲われるのではないか、というぐらいに恐れるようになったのです。
青浜村に甚五郎という三十代ぐらいの網元がいました。彼は腕っぷしが強く、村の男どものまとめ役のような存在。働き者ではありましたが、部埼の高台に余所者の清虚が棲みついていることが許せませんでした。
最初の頃は、
「あの一食坊主に協力するなよ。徹底的に無視しろ」
などと村の人たちに言っていたのですが、清虚が村の無視にもめげずに火を焚き続けていくので、次第にイライラは大きくなっていきました。
「いいか、おまえたち。明日の朝、あの坊主が托鉢に出かけたら、あの焚き火台を徹底的に破壊するぞ。そうすりゃあの坊主も、諦めて出ていくだろ」
とんでもないことを考えるものでございます。しかし、村の人たちにとって、他所から来た人が棲みついているというのはそれぐらい忌み嫌うことでした。
次の日の朝。いつものように夜の焚き火を終えた清虚が、周辺の村々へ托鉢に出かけ薪を調達しに行った後。
「よし、行くぞ」
甚五郎たち村の者たちは、手に斧や鍬を持って部埼へと向かいました。そして焚き火台を徹底的に破壊しようと高台に登った時。
「あんたたち、何をしてるんだ」
そこにいたのは、白野江村の利三郎でした。清虚のいない間に、こっそりと薪を持って来ていたのです。
「お、おまえ、白野江の利三郎じゃねえか。ここの焚き火台は今から打ち砕くんだからよ、そこをどけ」
「馬鹿なことを言うな。坊さんがいない時を狙うなんて、卑怯じゃねえか」
「うるせえ。あの一食坊主、いつも托鉢にやってきては、ここに棲みついて火を焚き続けてやがる。気味が悪くてしょうがねえ。村にとって害悪でしかねえ奴は、とっとと追い出したほうがええんだ」
甚五郎たちは力づくでも決行しようと、斧や鍬を構えて焚き火台に近寄っていきます。利三郎は全く動じずに、言い返します。
「よく考えろ、甚五郎さんたちよ。あの人がやっていることは害悪どころか、青浜や白野江村のためになっているじゃねえか」
「なんだと。あの一食坊主は村々から食べ物を恵んでもらってかっさらっているだけだ。村にとっては損しかねえ」
「いいかい、甚五郎さんたちよ。あの坊さんがここで火を焚き始めてから、以前から変わったことはねえかい」
「ねえよ」
「いいや、大きく変わったことがある。ここ数年、海の事故がなくなったと思わねえか。五、六年前までは、毎年のように何度もあの海で船が難破して、溺れた人が浜に打ち上げられてきた。そのたびに藩から言われて救助活動に駆り出され、遺体の処理を命じられて、仕事の手も止まるし手出しの金は要るし、大きな負担だったじゃねえか。あの急に来る事故処理の仕事が、今は全くなくなっている。それはなぜだか、あんたたちにも分かるだろうよ」
「そ……、それは……」
「あの坊さんが一人で、それをやってくれてんだよ。俺たちが仕事に集中できるのは、あの坊さんが海に燈りを届けているからだ。俺もそれに気づいたのは、つい最近なんだけどよ……。なあ、俺たちもあの坊さんと一緒に、何かできることがあるんじゃねえのかい」
利三郎に諭されて、甚五郎たち村の者は振り上げていた斧や鍬を次々に下ろしました。
「そうだな、俺は手伝うよ。あの一食坊主さんを」
真っ先に心変わりをしたのは、甚五郎でした。村のためと分かれば、邪魔をするべきではない。むしろ協力すべきである。この切り替えの早さは、さすがリーダータイプと言うべきでしょうか。
この頃から、利三郎や甚五郎をはじめ、村の者たちは次第に清虚を手伝うようになっていきました。
時には重い薪を運び、時には援助の強力に周辺の村々を回り、時には清虚の住まいの小屋を修繕し、時には夜の焚き火も手伝って清虚に仮眠をさせました。
清虚の仕事はやがて、村人みんなの仕事になっていったのです。
(つづく)
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